前回のブログの最後に筋肉には大きく分けて
- 筋肉量
- 筋力
- 筋持久力
といった要素がありその要素の中でどれを高めたいかという目的によって、トレーニング様式や負荷量が変わることについても書きました。
そして、長期的に見てダイエットを成功させる確率を上げる一つの方法として、太りにくい体質を獲得することについて触れました。
そしてその太りにくい体質獲得には”除脂肪体重を増やす“ことが重要であり、そして除脂肪体重を増やすために筋肉量を増やすようなトレーニングを普段皆さんが行っているダイエット方法に加えて取り入れていただくと良いといった提案をさせていただきました。
今日はその続きにもなりますが、筋トレについてと実際に筋肉量を増やすために適した負荷量というのがどんなものかといったことを書いていきます。
1.ガイドラインって何? 筋トレのガイドラインとは?
筋肉に対してアプローチする運動なので、基本的には筋肉トレーニングになります。
運動部出身の人であれば、学生時代にも筋トレに励んだこともあると思います。
運動部でなくとも、筋トレを1度はしたことがある人は多いのではないでしょうか。
例えば私は国家資格である作業療法士資格を所有していますが、”作業療法”には日本作業療法士協会が作成しているガイドラインが存在します。
似た職域の“理学療法”には日本理学療法士協会が作成したガイドラインがあります。
また“医師”向けのものであれば厚労省委託事業である公益財団法人日本医療機能評価機構Mindsの診療ガイドラインなどがあります。
ここで、
と感じる方もいるかもしれません。
ガイドラインとは同じ厚労省委託事業のMIndsによる定義を確認すると、
診療上の重要度の高い医療行為について、エビデンスのシステマティックレビューとその総体評価、益と害のバランスなどを考量し、最善の患者アウトカムを目指した推奨を提示することで、患者と医療者の意思決定を支援する文書
Minds
と定義されています。
また米国医学研究所では、
エビデンスのシステマティックレビューと複数の治療選択肢の利益と害の評価に基づいて、患者ケアを最適化するための推奨を含む文書
米国医学研究所
と定義されています。
システマティックレビューとは、私のブログでは何度か触れてきたのでおさらいになりますが、エビデンスのピラミッドで言うと最上位のものになります。
要するにガイドラインとは、信頼性の高さで最上位のものを複数使用し、それらを参考に複数人で推奨グレードを決定し作成されるものであり、世界の公的機関もお墨付きのおすすめがまとめられたものといった感じになります。
科学というものはいわば長い人類の歴史の中での先人の知恵の集大成であり、かつ衆人の知恵により導かれてきたものでもあります。
例えば私なんかと比べるのもおこがましい遥かに頭の良い先人たちが、そんな知識人が、それも数え切れない数の人が場合によっては一生涯かけて導いてくれたものの集大成でありまた衆人の知恵により一定の客観性も担保されているものです。
現時点での質の高い情報という意味ではこの上なくありがたいものです。
そのためこれを活用しない手はありません。
ちなみに昔は医療の科学的根拠といえば「偉い医師が言ったことが正しい、それがエビデンスだ」といった時代が当たり前だった時代もあったようです。
また、「女性より男性の言ったことの方が正しい」なども当たり前だったようです…。
そんなことが露骨な時代じゃなくてよかったなって他人事ながら思います(笑)。
今なら前者は”老害”と呼ばれ煙たがれ、後者はフェミニストの人たちからこれでもかと叩かれてしまいそうですね(笑)
現代でもないとは言えないですが、時代の流れとともにもっと減っていきそうですね。
ただそれもいきすぎると近年のポリコレ疲れのようなものが目立ってきてしまう感も否めないので、何事もほどほどが良さそうです。
ちなみに完全に余談ですが、“近代看護学の母”と呼ばれるフローレンス・ナイチンゲールなどはそんな時代だったにも関わらず、医師でもなく看護師であり、男性でなく女性であるといった当時の時代では、負のバイアスの環境にさらされているにも関わらず当時の医師たちの意見や周りの常識(今では非常識)を真っ向から覆すことに成功しました。
彼女は従軍看護師として勤めていたスクタリ病院の衛生状態があまりにも悪く、それが原因で院内にいる怪我した兵士たちが亡くなってしまっていると考えました。
今となっては当たり前なのですが、当時は治療現場の衛生状態の悪さでそうした事態に陥ることなどということは当時の”常識”に反しており、受け入れられるものではありませんでした。
しかし彼女は見事にそれを証明し陸軍病院の改革が行われることになりました。
では、なぜ権威論証なども使えない彼女の考えが受け入れられ実際に今日でも正しかったかというと…
という側面があります。
意外に知られていないことですが、彼女は看護師であったのと同時に実は優秀な”統計学者”でもありました。
統計学の理解をなくして科学を知ることは不可能ですが、そうした統計的手法の科学的根拠を駆使した先駆けの人物の一人でもあります。
1858年にはナイチンゲールは女性として初めて王立統計協会の会員に選ばれ、その後にはアメリカ統計学会の名誉会員にもなったような人です。
個人的にはもっと詳細を書きたいところですが、この辺で終わります(笑)
脱線してしまいましたが、
そしてそうした統計学的手法を駆使して、作成されているものがガイドラインになります。
そのため、正当を知らずして異端を語るべからずで、まずはこういったガイドラインを通じて、その世界的なスタンダードを知ることが大切になります。
そしてそれはそのまま同時によくあるトンデモ系の、時には害にしかならないようなデマに引っかからないようにするための防衛方法にもなると思います。
ただ先ほど書いたようにこれだけ一般化している筋トレですが、実はそのようなエビデンスをまとめたものが少ないのが現状です。
そうした現状が私たちリハビリ職やトレーナーの頭を悩ませるところであったり、同じ職種なのに人によって言うことが違っている要因にもなっています。
しかし、スタンダードが全くないわけではありません。
というのも、筋トレについてこのガイドラインと同じ手法でまとめられた論文が存在します。
国や政府が出しているというわけではありませんが、筋トレのガイドラインと言い換えても良いものですので、私個人としては科学的根拠の高さからまずはそれをおすすめしたいと考えております。
なので今日はこれを主に参考にした上で書いていきます。
興味ある方はこのリンクに飛べば全文ダウンロードもできますので詳細はそちらをご参照ください。
ここに書かれていない注意点等は最後に加えて書きます。
2.筋肉量を増やすのに適したトレーニングとは?
では実際に筋肉量を増やすのに適したトレーニングとはどういったものなのでしょうか。
まずは負荷量に関してですが、比較的高めの運動を推奨しています。
そして負荷量について話す際に必ずといってよいほど出てくる用語で【RM(Repetition Maximum)】というものがあります。
これは”最大反復回数”を意味し、【その人が丁度その回数だけ反復して行える負荷】を表します。
例えば”1RM”というと、その同じ運動を1回しかできないという意味になります。
仮に50kgのベンチプレスを1回はしっかり上げきることができ、2回目は不可能(途中までしかあげられないのも含む)な場合はその人にとってベンチプレス50kgという負荷は“1RM”となります。
そして同じ50kgのベンチプレスでも別の人が行ってみたところ。10回あげきることができ、11回目をあげることができないとなれば、その人にとって50kgのベンチプレスという負荷は“10RM”となります。
なのでベンチプレス50kgという負荷は絶対的な負荷量と言えるのに対し、RMを用いた負荷はその人にとっての負荷の尺度、相対的な負荷量と言えます。
そして当然ですが
当然ですがベンチプレス50kgという絶対的な負荷量が万人に適用するということにはなりません。
例えば、仮にそうなってしまえば男性であろうと女性であろうと子供、お年寄りであろうと、極端な話赤ちゃんであろうとベンチプレス50kgの負荷のトレーニングが良いとなるわけがないのは想像できると思います(笑)
そしてその個々に合わせた負荷量の目安としてこのRMが使われることが多く、実際に今から紹介する負荷量もこのRMで表されています。
先ほどの筋トレガイドラインを見てみると
この負荷量はRMにすると約8~12RMになります。
なので負荷としては、何とか8回~12回連続して行えるくらいが良いとなります。
逆に言えば、15回や20回以上も楽々とできてしまうような運動では負荷が軽すぎると言えます。
よく筋トレなどで陥りやすい失敗として、回数をただひたすら稼いで満足してしまうということがあります。
腕立て伏せを50回連続でできた、100回連続でできたといった風に…。
しかし”筋肉量”を増やすといった面で考えるとそれはあまり意味がありません。
(※ただ条件を満たせばそれでも良い場合もあります。)
そのため、目的が筋肉量を増やすことなら連続して8~12回まで何とかできるといった負荷量を意識していただくことが良いと考えられます。
そしてその8~12RMの負荷の運動を1~3セット行うことが推奨されています。
そして複数セット行う際に、そのセット間にとる休憩時間についても記載されているのですが、この“休憩時間(インターバル)”についてもご紹介します。
ただインターバルに関しては、筋力強化のトレーニングの際には非常に重要になると言われているのですが、筋肉量を増やす目的であれば、少なくとも筋力強化目的の際よりも重要性は低いと言われています。
しかし、それでも取り入れるメリットはあると思うのでご紹介すると、初級者~中級者であればセット間インターバルは1~2分が良いと言われています。
週の頻度としては上級者以外の人では2-3回/週を推奨しています。
そして、これは長くなるので今回は詳しくは触れませんが推奨されている筋肉の運動については
- 求心性筋収縮(concentric contraction)
- 遠心性筋収縮(eccentric contraction)
- 等尺性収縮(isometric contraction)
を混合させることが推奨されており、
運動の種類は
- 単関節運動
- 多関節運動
- フリーウェイト運動
- マシン運動
を取り入れることを推奨しています。
これらをまとめると、
- 8〜12RM
- 1〜3セット
- インターバル1〜2分
- 求心性、遠心性、等尺性収縮の混合
- 単、多関節運動、フリーウェイト運動、マシン運動
が筋肉量増加に適したトレーニングであるとなります。
ものすごく簡単ですが、筋トレのガイドラインとも呼べる論文を参考にし凝縮するとこういった結論になります。
3.補足
ただここで注意があります。
実はこのガイドラインとも呼べる論文ですが2009年のものであり、何だかんだとそれから10年以上経過しています。
そしてその10年間でも筋トレの負荷量などに関しては新しい発見や報告が多くあります。
例えば、以前にもブログで筋肥大を狙うなら高強度でないといけないというのが通説でしたがそれが覆ったこと、また週単位の総負荷量で考えることが良いといった内容を少し書きましたが実はこれらは今回のこのガイドラインよりも後に盛んに報告されたものになります。
そのため、今回紹介したものは少し古い形のものになることに注意が必要となります。
このガイドラインに加えて新しい知見なども織り交ぜてくると少しテクニカルになりすぎてしまうのでそこは省略しましたが、だからといってこの紹介したガイドラインが無駄であったり、間違っているといったことでは決してありません。
またあくまで私個人の考えでもありますが、理論の実践化という意味では現実と照らし合わせ、複数の要素を考慮すると今回のこのガイドライン通りの運動をこなす方が都合が良かったりする面もあります。
今回触れることのできなかったことなどはまた紹介していく予定ですが、
まずはゴールドスタンダードを紹介したかったので、今回はそれに絞って取り上げさせていただきました。
2009年以降の根拠の高い論文やそこからの新しい知見なども取り入れアメリカスポーツ医学会がまたこのガイドラインの更新をしてくれると良いなと個人的には楽しみにしています。
今回話した内容は総論的なお話になりましたが、追々はこういった総論を基準に実際トレーニングを行う際の注意点や工夫点、おすすめの運動方法、おすすめ道具、身体部位や症状別のポイントといった各論部分も書いていきたいなと思います。
4.まとめ
- ガイドラインがあるならそれを参考にすると良い。
- 筋トレのガイドラインはないが、限りなくガイドラインものがある。(ただ少し古めなので注意)
- 筋肉を増やすには負荷は8~12RM、1~3セット、休憩1~2分、週2,3回が良い。
- 運動様式は多種多様が良い。