筋肉痛のケア:効果的なケア方法と疲労度のチェック方法とは?

運動をした後にくる筋肉痛。

 

皆さんも経験あるのではないでしょうか。

 

そうした運動後にくる筋肉痛は専門的には、遅発性筋肉痛(delayed onset muscle soreness:DOMS)と呼ばれます。

 

実は身近に経験するDOMSですが、意外なことに発症の明確な機序は諸説あるもののまだ不明であると言われています。

 

今日はそんな実は謎多きDOMSについて少しと、筋肉痛に限らず運動による身体の微少な損傷や蓄積される疲労について書いていきます。

 

 

1.遅発性筋肉痛(DOMS)とは?

 

DOMSは文献によりやや異なりますが、運動した8~24(48)時間後に起こり、概ね1週間程度で症状は治まるものを指します。
(24~72時間後が筋肉痛のピークとも言われている)

 

このDOMSが起こりやすい運動としては筋肉が引き伸ばされながら力を発揮する収縮様式の遠心性収縮運動やその他、普段慣れない運動を行うことにより起こりやすいとされています。

 

症状としては、

  • 運動能力の低下
  • 痛みを伴う運動制限の増加
  • 硬さ
  • 腫れ
  • 隣接する関節の機能障害

などが挙げられます。

 

原因は冒頭に書いたように解明はされていませんが、

現在有力なのは筋細胞の微細な損傷、またそれがたんぱく質の分解や局所的な炎症反応を引き起こすことが原因と考えられています。
(Thilo Hotfiel ,et al:Advances in Delayed-Onset Muscle Soreness (DOMS): Part I: Pathogenesis and Diagnostics.Sportverletz Sportschaden2018 Dec;32(4):243-250. doi 参照)

 

 

また筋肉痛について【乳酸がたまる】という表現をされることがよくありますが、実はこの乳酸の蓄積などによるDOMS発症の関係性については否定的とされています。

 

そのメカニズム面などについてはまた別の機会に書いていきたいのですが事実、ランニング後の乳酸濃度と主観的な筋肉痛について調べた研究でも平地でのランニングでは乳酸濃度が顕著に上昇したものの、それに対して筋肉痛の出現に関しては顕著でなく、下り坂のランニングでは乳酸濃度の上昇はなかったにも関わらず筋肉痛が顕著に見られたといった風に乳酸と筋肉痛について関係があると捉えるには矛盾した現象が認められました。

 

そして同論文でも乳酸はDOMSとは関係ないと報告されています。

(J A Schwane, et al:Is Lactic Acid Related to Delayed-Onset Muscle Soreness?.Phys Sportsmed. 1983 Mar;11(3):124-31 参照)

 

 

2.DOMSの治療法ってあるの?

 

DOMSが生じた状態では当然ですがパフォーマンスは低下します。

 

皆さんも筋肉痛がある状態では動くのが辛いといった経験はあると思うのでイメージはしやすいかと思います。

 

そしてパフォーマンスが低下するとスポーツ・運動実施時の障害リスクが上昇するので当然ですが望ましい状態とは言えません。

 

ではそのDOMSに有効な治療法はあるのでしょうか。

 

まずDOMSの事前の予防法については現在有力なものはないようです。

 

そのため、DOMSに対して、何かしら対処するとなると、それは発症後になります。

 

内科臨床誌メディチーナにある平塩秀磨氏の記事を参照すると、運動後の比較的早期(30分以内程度が目安)に1分程度ごとに温浴、水風呂の入浴を数回、交代で計15分程度行うと筋疲労の回復に有効であったことや振動刺激による治療がDOMS軽減に一定の効果が確認されていると紹介されていました。

(平塩秀磨,:筋肉痛がひどい/筋肉がつりやすいです.内科臨床誌メディチーナVol.57 No.7:1103-1104,2020)

 

ただDOMSの治療については現在のところあまり少ないのが現状のようです。

 

例えば反対に

  • 凍結療法
  • ストレッチ
  • ホメオパシー
  • 超音波
  • 電流

などについては筋肉の痛みや DOMS の症状を和らげる効果がないことがわかっています。

(Karoline Cheung,et al:Delayed onset muscle soreness : treatment strategies and performance factors.Sports Med.2003;33(2):145-64. 参照)

 

また注意点として、筋損傷が高い場合においては血行の循環促進が炎症を助長させることもあるため入浴や回復のための軽運動は時間を置いてから行う方が望ましいようです。

 

そのためこのDOMSについては積極的な治療というよりは、間違った対処や無理をせずに運動の負荷等を一時的に減らすなどといった方法が無難であると考えられます。

 

運動をする上で今までブログで書いてきたような負荷量の設定は重要ですが、それと同じくらい無理をしすぎないことや適度な休息をとるといったリカバリー管理も重要となります。

 

リハビリにも普段から運動習慣がある人で、無理な運動を続けてきたことで肩の腱板損傷等を起こし来院されることがあります。

 

通常、腱板は丈夫な組織で本来はそうそうなことでないと損傷や断裂をすることはありませんが普段から無理をして負荷をかけ続け

それが蓄積された結果、損傷してしまい痛すぎて動かすことが困難となりリハビリに送られてくる人もいます。

 

せっかく運動をしているのに身体を壊してしまっては意味がありませんしくれぐれも注意が必要です。

 

ただ中には、運動の定量的な負荷量は必ずしも問題ないにも関わらず

 

  • フォームなどの運動方法が間違っていたり
  • 強い筋肉と弱い筋肉があるといった風に筋バランスが悪くて動きがおかしくなっていたり
  • 関節周囲の軟部組織の硬度のバランスの悪さや滑走障害の問題から関節運動がおかしくなっていたり

 

といった上記のような状態を抱えたまま運動をしてしまうと身体を壊してしまうリスクが非常に高くなります。

 

そして当然、

 

身体のリカバリー管理を怠り疲労を蓄積した状態での運動を継続していても同様に障害リスクは高くなります。

 

職業柄、本来はそういった運動器障害といった分野の内容の方が私の職域となり、書きやすいので徐々にそうした内容も書いていきたいと思います。

 

ただそうすると個別性が高い内容となり、当てはまる人と当てはまらない人がはっきりしすぎてしまうのでまずは健康な人を含めて万人に当てはまりやすい(運動についての)内容から書いていこうと思います。

 

3.運動の疲労の評価方法とは?

 

このブログでもエビデンスに基づいた定量的な負荷量について少し紹介してきましたが、実際に運動をしていく中ではその負荷量を前提とした上でより現実に即し、個別性にも対応していく必要があります。

 

いかに事前の定量的な負荷量が正しくとも人の身体の状態は十人十色であり、日によって調子の良し悪しもあります。

 

そのため、ある程度はそうしたこと個別の状況にも柔軟に対応していく必要が出てきます。

 

例えば、過度なトレーニングにより身体に疲労が蓄積すると筋力や柔軟性は低下します

 

いわゆるパフォーマンスの低下です。

 

そしてそうした状態でのトレーニングの継続は疲労による身体の衝撃緩和能力の低下などから、身体の痛みや筋肉の張り、関節の可動域制限が生じてしまい身体の故障が起こりやすくなってしまいます。

 

そうしたリスクを減らすためにはある程度は自分の身体の疲労具合をモニターしそれに合わせて負荷量もコントロールしていくことが大切になってきます。

 

疲労の評価方法は多種多様であり自分の感覚で判断するのも1つの手ではありますが、それだけでは心もとないので今日は【身体の疲労度の評価方法】を1つ紹介したいと思います。

 

疲労度のチェックには血液や尿などのバイオマーカーを用いる方法もありますが、実際に行うとなれば設備が必要な上に一般の方からすればやや現実的ではありません。

 

そのためできる限り簡易的な疲労度のチェック方法として今回私が紹介したいのは、【柔軟性テスト】です。

 

実は、普段の柔軟性との比較を行うことで間接的に疲労状態を把握することができると言われています。

 

そして柔軟性には誰かに身体を押してもらったり伸ばしてもらったりして測定する【受動的柔軟性】自分1人の力で行い、その最大可動範囲を測定する【能動的柔軟性】があります。

 

人に確認してもらう柔軟性テストと自分だけで確認する柔軟性テスト。

 

一見何が違うのかと思われるかもしれませんが、特徴としては受動的柔軟性は関節の構造的な異常や関節周囲組織の伸張性の低下が反映され

それに対し、能動的柔軟性は筋力や運動の協調性といったパフォーマンス部分が反映されます。

受動的柔軟性については例えば私のようなリハビリ職であれば、、、

 

痛みを抱えた患者さんが来た際に、どこの関節、もしくは筋肉や靭帯を含めたどこの軟部組織が悪くて痛みや動きの制限がでてしまっているのかといった痛みの原因や身体機能障害を起こしている原因を見つけるために用います。

 

なのでこちらの方は言わばリハビリ治療前の評価として使うことが多くなります。

 

そのためこちらについてはまた別の機会に書いていきたいと思います。

 

そして一方の能動的柔軟性の方がまさにこの見出しの中心になります。

 

能動的柔軟性については、まさにその人の現在の疲労状態を反映しているものとなります。

 

柔軟性テストに関しては色んな種類や方法がありますが下記にその一部を紹介します。

チェックテスト 方法 疲労チェック部位
指椎間距離法(Finger vertebral distance:FVD) 写真1参照。第7頸椎から母指までの距離をチェック。 肩関節周囲筋
上部体幹回旋柔軟性テスト 四つ這い姿勢で片手を後頭部に当てる。
骨盤が動かないように上部体幹のみで身体を捻る。
上部体幹
長座体前屈 長座位姿勢となり両手を伸ばしながら前屈する。 腰背部
Thomas test 仰向けで寝た状態で片足を膝を曲げ胸まで近づける。
その際に反対の足が床から離れるかをチェック。
腸腰筋
荷重位での足関節背屈可動域 立った状態で壁に向かい足を置く。
つま先が何cm離れたところまで踵をあげずに膝を壁につけることができるかをチェック。
下腿三頭筋

(写真1:https://www.jstage.jst.go.jp/article/swex/18/1/18_1/_pdf/-char/ja より引用)

 

 

極簡易ではありますが、柔軟性テストを用いた疲労度チェックとしてはこれらのような柔軟テストを行い、普段の柔軟の状態とを比較することで間接的に疲労を評価します。

 

また余談ですが、長座体前屈は学生時代の体育の時間で行ったことがある人も多いと思います。

 

この測定は腰背部の柔軟性を特に反映していると言われていますが、ある調査では大腿後面と肩関節周囲の柔軟性との間に強い相関関係が認められています

 

そのため、長座体前屈は全身の疲労状態を反映する測定方法になるとも考えられています。

 

そのため身体の柔軟テストによる超簡易疲労チェックとして全身状態を長座体前屈で測定するというのも1つの手だと思います。

(山本利春,他:運動による疲労の評価-障害予防のためのモニタリング-.臨床スポーツ医学 第36巻1号,6-11,2019.参照)

 

 

4.まとめ

 

  • 筋肉痛の明確な機序は不明だが筋細胞の微細な損傷が有力。
  • 筋肉痛の効果的な予防はなく、事後治療がメイン。
  • 筋肉痛後に一定の効果があるのは交代浴や振動刺激など。
  • 筋損傷が高い場合は入浴や運動は少し間を空ける方が良い。
  • 能動的柔軟性を確認することで間接的に身体の疲労度チェックができる。
  • 長座体前屈は超簡易な全身の疲労度チェックとして使える可能性がある。

 

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