8月から長らく更新せずに間が空いてしまいま。
このブログと繋いでいるレンタルサーバーにトラブルが起きたり、ワードプレスやそのテーマを更新したら記事が書けなくなったりと本当に散々でした。(笑)
今も改善しきってはいないのですが一時的な応急処置(?)で投稿できるまでには回復しました。
が、
前回使用していたエディタソフトがどうしても上手く機能せず、今までのようなレイアウトで記事を書くことができなくなったので少しだけ色使いなどが変わります。(泣)
色々調整しましたがIT音痴な私にはこれ以上修正することができなかったので諦めました。
アップデートしていく内に勝手に治ることを祈ります(笑)
気をとりなおして、今日は少し雑記的なことを書いていきたいと思います。
というのも、個人的に非常にびっくりした記事があったのでそれについて紹介したいと思います。
それは行動経済学に関しての記事です。
ただそれに触れる前に、このブログで行動経済学について取り上げるのは初めてなので先にほんの少し概要について書いていきたいと思います。
1.行動経済学って何?
そもそも行動経済学って何なのでしょうか。
簡単に言えば経済学に心理学を付け加えたようなものです。
経済学は”社会科学の女王”と呼ばれる学問であり、様々なことが絡まった複雑な社会現象をできるだけシンプルに捉え、分析しようとします。
そしてモデル化するために幾つかの前提(仮定)を置きます。
例えば、その経済学の中で登場する”人”は合理的経済人と呼ばれ
- 自分の利益だけを考える
- 強い自制心がある
- 計算・認知能力が高い
といった非常に合理的な人を前提としています。
複雑な社会現象を捉えるためにはある程度の物事はシンプルに捉えモデル化する上で非常に都合が良いものとなります。
しかし、皆さんも経験あるかもしれませんが「私たちが常に合理的であるか?」と言われるとそうではないと思います。
時には感情的になったり、後になれば何であんなことをしたんだろうと思うような不合理な行動をとったことのある経験は皆さんお持ちではないでしょうか。
そういった合理的経済人といった本来の人間の性質を捉えきれていないものをより現実に合うように修正し、経済学のカバー範囲をより広くしようとしたのが行動経済学です。
経済学により人間くささをつけ加えたようなものですかね。
行動経済学分野で初めてノーベル経済学賞を受賞したのは2002年でありダニエル・カーネマンという人が受賞しました。
その中でプロスペクト理論というモデルがあるのですが、これは行動経済学では必ず出てくるものです。
プロスペクト理論とは不確実性の状況下での意思決定モデルです。
一言で言えば、人は利益を得る場面では確実に手に入れることを優先し、損失が出そうな場面では最大限に回避することを優先するといった癖(行動心理)があることを示したものです。
例えば株式投資でいうと、利得局面では危険回避的に行動し早すぎる利益確定を行い、損失局面では既に損失を取り返したいがために危険愛好的に行動し一か八かに賭けるといった行動を取りやすくなるというものです。
投資をしたことがある人は経験あると思いますが、自分の保有している株などの金融資産の価格が下がると、損失を確定することを嫌うあまり損切りができないといったいわゆる”塩漬け”になってしまいます。
私も経験があります(笑)
まさにそのような心理行動を示したものがプロスペクト理論です。
2.行動経済学の象徴プロスペクト理論とは?
このプロスペクト理論ですが実は医療現場でも活用されます。
先述したプロスペクト理論の特徴をもう少し専門的に言うと確実性効果と損失回避といった2つの特徴から成り立っています。
確実性効果とは確実なものとわずかに不確実なものでは、確実なものを強く好む傾向があるというものです。
例えば
- 80%の確率で4万円が当たるくじ。
- 100%の確率で3万円が当たるくじ。
があるとすると、多くの人が②の100%3万円を当たるくじを選ぶことが知られています。
続いて、、、
- 20%の確率で4万円が当たるくじ。
- 25%の確率で3万円が当たるくじ。
だと①の20%の確率で4万円のくじを選ぶことが多いことが知られています。
しかし実はこの選択、合理的な選択ではないため伝統的な経済学的には矛盾したおかしな話なのです。
例えば期待値で考えると、最初のくじでは3万円×100% > 4万円×80%といった選好になっていますが、期待値は3万円と3万2000円であり
期待値は3万円×100%の方が低くなっています。
しかし人の価値観はそれぞれなので100歩譲って期待値で物事を考えずに3万円×100%>4万円×80%といった選好であったとします。
正直なところ私も期待値なんかどうでも良くて、80%で4万円よりも確実に貰える3万円の方が良いです(笑)
しかしもし、この選好を持っていると仮定するのであれば…
2つ目のくじは20%の確率で4万円より25%の確率で3万円が当たるくじを選ばないとおかしいのです。
というのも先ほどの3万円×100%>4万円×80%といった選好を持っているならば、両辺に25%をかけると
3万円×100%×25% > 4万円×80%×25%
=3万円×25% > 4万円×20%
となり、変わらないため上の式を見ての通り、1つ目のくじで3万円×100%を選んだ人は本来であれば2つ目のくじは3万円×25%を選ばないとおかしいのです。
しかし実際はそうではなく
1つ目のくじで3万円×100%を選んだ人は
2つ目のくじでは4万円×20%のくじを選ぶ人が多いことがわかっています。
同一人物なのに何故か選好が急に変わっているのです。
これはどういうことでしょうか。
行動経済学ではこれを客観的確率と主観的確率の間には乖離があると捉えているようです。
冒頭で紹介したダニエル・カーネマンによると
- 30~40%の確率の間では、客観的確率と主観的確率は概ね一致する。
- しかし、0%の状況から小さな確率で発生する状況の時はその確率を実際よりも高い確率で発生するように人は認識する。(小さな確率を実際よりも大きく見積もる)
- 逆に100%の状況からわずかにリスクがあると、確実性が大幅に低下したように感じる。(高い確率を実際よりも大幅に小さく見積もる)
と言われており
この関係を確率加重関数と言います。
グラフの形としてはこんな感じになります。
↓
例えばタイムリーな話でいうとワクチン…
「1%の確率で副作用が発生する」というと通常の人は実際(客観的確率)よりも発生率が高いように感じてしまうのです。
小さな確率であるにも関わらず過大に評価し、合理的な判断をすることが困難になってしまうといった弊害が出てくるのです。
もう一つの損失回避についても少し触れます。
損失回避とは一言で言うと人は利得よりも損失を大きく嫌うといった特性を持っていることを指します。
先ほどの確実性効果でも紹介したような選択例でいうと、損失回避ではコイン投げの例があります。
コイン投げをしたとして、
- 表が出たら2万円をもらい、裏が出たら何ももらわない。
- 確実に1万円をもらう。
といった選択肢があったらあなたはどちらを選ぶでしょうか。
この選択肢では多くが②の確実に貰う方を選ぶ人が多いことがわかっています。
そして続いて
- 表が出たら2万円を支払い、裏が出たら何も支払わない。
- 確実に1万円を払う。
といった選択肢があったらどちらを選ぶでしょうか。
この選択肢に関しては①を選ぶ人が多いことがわかっています。
この選択肢の違いは前者が利得局面であり、後者が損失局面であるといったこと以外は同じ性質の問題となります。
しかし前者(利得局面)での選択肢では多くの人が”リスク回避的”な行動をとるのに対し、後者(損失局面)では多くの人が”リスク愛好的”な行動をとるといった一見矛盾した行動を示します。
このような類いの実験を積み重ねた結果、判明したのが損失回避といった性質です。
先ほども述べたように人は利得よりも損失を大きく嫌う…ではその差がどれくらいかというと金額ベースでいうと同じ金額に対して損した場合と得した場合では損失の方を2〜3倍嫌うと言われています。
この確実性効果や損失回避といったように人には客観的に考えるとおかしな…合理的でないような選択をする傾向を持っています。
このように行動経済学を知ることで一見合理的に見えて実は合理的でない人の行動について知ることができます。
そしてこうした学問は実際に医療現場などでも活用されていたりもします。
では、軽く行動経済学の代表例の概要に触れたところで話を戻し冒頭で述べた私が驚いた記事について紹介したいと思います。
3.行動経済学に近づかないことをお勧めする?
実は見出し通りの内容の記事があったのです。
タイトルは「The death of behavioral economics」という記事でそのまま“行動経済学の死”について書かれた記事でした。
リンクはこちら:The death of behavioral economics
この記事を参照にすると、先ほどご紹介した行動経済学の象徴の1つでもある損失回避の再現性ができなくなってきておりその意義が揺らいできているようです。
例えば損失回避を利用した営業技術で不安を煽って商品やサービスを買わせるといった手法があります。
「これを使わないと将来〇〇(ネガティブワード)になります」という風に、その商品やサービスを利用しないと“損”をしてしまうといった未来を連想させたり煽ることで営業成功率を高めようとする手法です。
これもいわば行動経済学の知見である損失回避を活かした営業手法と言えると思います。
昔、マーケティング本を読んだ際にこのようにネガティブワードをまず前面に出し一時的なショックや不安を与えた後、それを解決するような商品やサービスを勧めるといったメッセージ展開をすべしといった感じの内容が書かれていました。
私は正直なところお店でこの手法をそのまんま使っている場面によく遭遇しましたし最近でもありましたが、これはただ単に私がそうしたことを断片的にとは言え本で読んで少し知っているからその営業のかけ方が好きじゃなかったり、そういう営業をされたら正直少し冷める感じを受けるのかなと勝手に思っていました。
しかし、実はこの記事でも研究の結果、そうした損失を焦点に当てたメッセージはスパム的な印象を与えてむしろ信頼を損なうといったことが書かれています。
私の経験でもあったので少し合点がいきました。(笑)
ただ1つ注意点として、それでは損失回避がインチキだったのか?と言えば必ずしもそういうわけでもないようです。
同記事では損失回避は存在するが大きな損失に対してのみ存在することがわかったと書かれています。
ただ、それ以上に問題であり私がびっくりしたのがこの先の内容です。
更に記事を読み進めると…
ではその損失回避が大きな損失に対してのみ存在することがわかったのはいつ発見されたのか?
といった問いに対しての答えがびっくりしたのでここは原文をそのまま引用します。
Well, actually, it looks like Kahneman and Tversky, winners of the Nobel Prize in Economics, knew about this unfortunate fact when they were developing Prospect Theory—their grand theory with loss aversion at its center. Unfortunately, the findings rebutting their view of loss aversion were carefully omitted from their papers, and other findings that went against their model were misrepresented so that they would instead support their pet theory. In short: any data that didn’t fit Prospect Theory was dismissed or distorted.(同記事より引用。)
お読みの通り…
実はノーベル経済学賞受賞者のダニエル・カーネマンはプロスペクト理論を発展させる段階で既に知っていたようです。
(ちなみにTverskyはエイモス・トベルスキーのことでカーネマンの共同研究者です。1996年に死去しており、もし生きていれば2002年のノーベル経済学賞にカーネマンと一緒に受賞していたであろうと言われている人物です。)
そして損失回避を否定するような知見は論文から消されたり歪められていたようです。
この行動は2018年の論文により明るみに出たそうですが個人的にはこの内容は衝撃でした(驚)
自分に都合の良い根拠だけを選び提示することをチェリー・ピッキングと言いますがまさにそのような行為にあたります。
一般的には人には確証性バイアスというものがあり、自分の正しいと思うことを支持する根拠のみを集める傾向があります。
当然私にもあります。
バイアスというのはどんなに気をつけていてもどうしても出てしまうものであり非常に難しいものです。
というのもバイアスについて学び、知識をつけたからといってだから自分は大丈夫…と考えるのはバイアスを理解していない証拠といった趣旨が書かれた本を読んだことがあるのですが、見事に自分にぐさっと刺さったことがあります。(笑)
(恥ずかしながら私はバイアスを学ぶと自分は大丈夫になると思っていた時がありました、、、(恥))
確かにそうですよね。学んでそれで克服できればバイアスの苦労はないですね(笑)
どんな人でも間違える時も当然あり、防ぎようはないのかもしませんがなるべく大きな間違いを犯さないように工夫する方法は種々あります。
追々は今回のような雑記的な記事の中で、そうした手法や実際に私が気をつけていることや失敗談などもちょっとした豆知識と絡めて書いていこうかなと思っています。
何はともあれ行動経済学の今後の動向には注目ですね。
また経過も追いつつ、気が向けば行動経済学についても今後少しずつ書いていきたいと思います。
4.まとめ
- 伝統的経済学が置いてきた前提は合理的経済人。
- 合理的経済人といった現実と乖離した部分を補い、経済学のカバー範囲を広くしようとしたのが行動経済学。
- 行動経済学の象徴的理論にプロスペクト理論がある。
- 人は確実なことを強く好んだり(確実性効果)、利得より損失の方が2~3倍ほど大きく嫌う(損失回避)傾向がある。
- 行動経済学には近づかない方がオススメ?チェリー・ピッキング疑惑。
- 今後の行動経済学の動向に注目。