以前にブログで運動誘発性鎮痛(exercise induced hypoalgesia:EIH)について少し触れましたが、今日はそのことについてもう一歩触れていきたいと思います。
(以前のブログは痛いから動きたくない、でも動かないともっと痛くなる?を参照。)
EIHに関しては以前にも書いた通りメカニズムはまだ解明されていないようで、どういった運動がどういう作用を引き起こしているかといったことは今後の研究課題となっているようです。
そのため、あくまでも現時点ではほんの参考程度にしかならないことを前置きとしてあげておきます^^;
しかし、そんな中でも例えを上げていくと冒頭でもあるように中程度の強度の運動がエンドカンナビノイド・システムを活性化させたといった報告もあり、その報告の運動内容はというと最大心拍数の70~80%で50分間、トレッドミルでのランニングまたは固定式自転車でのサイクリングといったものでした。
(参照:P B Sparling,et al:Exercise activates the endocannabinoid system.Neuroreport. .)
また以前は触れませんでしたがこのEIHと対するような形で運動誘発性疼痛(exercise induced pain:EIP)といった概念も存在します。
言葉の通り、運動により痛みが誘発されるといったものになります。
事実、運動器疾患のない健康な人でも運動様式・強度・持続時間等の影響で痛みが誘発されることが確認されており、そうした様々な運動が痛みを伴う可能性があるため注意が必要であるとしています。
(参照:Erin A Dannecker,et al:Pain during and within hours after exercise in healthy adults.Sports Med. 2014 Jul.)
基本的に運動は副作用などが少なくメリットの大きいものであると私は思っていますが、それでもやはりこれらを鑑みれば何も考えずに、ただ何でもお構い無しに運動をすれば良いということにはならないことがわかります。
例えば慢性痛がどのように持続したり悪化していくかを表現した心理学モデルの中で、fear-avoidance modelというものがあります。
これによると痛みが回復に向かうか、もしくは反対に増悪or継続に向かうかを分ける主因の一つとして痛みに対する捉え方、いわゆる認知の癖が影響すると考えられています。
痛みを消極的、破局的に捉え思考する痛みの認知の極端な偏りのことをカタストロファイジングと言いますが、fear-avoidance modelによればこのカタストロファイジングは痛みを増悪させる主要因となる代表的な認知的要因であるとされています。
(北海道医療大学歯学部 准教授松岡紘史氏 「慢性痛の心理社会的モデル」より引用)
実はこれは整形外科領域で働いている私からしても、さして違和感のあることではありません。
以前に腰痛予防について書いた際に、EUの腰痛予防ガイドラインを紹介しましたが、その中にも腰痛を発症する最も強力な危険因子は既往歴であるとした上で、それ以外にも危険因子として、ストレス・苦痛・不安・抑うつ・認知機能・疼痛行動 ・仕事への不満や職場での精神的ストレスなどの心理社会的な要素も挙げられています。(以前のブログは腰痛の予防って可能なの?参照)
(参照:European Guidelines for Prevention in Low Back Pain)
話を戻すと、ポイントは興味深いことにこのfear-avoidance modelによる痛みの悪循環にハマっている人に対しては、漠然とした運動ではかえって状況を悪化させる可能性があり、そうした人に対しては課題を課した運動が有用であるといった指摘もされています。
(参照:園畑素樹, 他:スポーツ障害の痛みの機序.臨床スポーツ医学 第35巻1号:2-7,2018)
以前に紹介した椎間関節性腰痛のような機能障害に対する運動であれば、その機能面を考慮すれば自ずと良い運動・悪い運動は予想がつきますが、このような心理面やEIH、EIPといったメカニズムがまだまだ判明していない要素から捉えても良い運動や悪い運動があるということは非常に興味深いですね。