慢性疼痛の複雑な本質と幸福への影響とは?

 

今日は、痛みの中でも長期期間持続する痛みである”慢性疼痛“についてご紹介します。

 

1.慢性疼痛って何?

 

慢性疼痛とは、言葉の通り、痛みが慢性的に続いている病態のことを指します。

 

そんな慢性疼痛ですが、実は本邦ではまだ具体的な慢性疼痛の定義はないのが現状です。

 

しかし、国際疼痛学会(IASP)では慢性疼痛を以下のように定義しています。

 

治療に要すると期待される 時間の枠を超えて持続する痛み,あるいは進行性の非がん性疼痛に基づく痛み

 

また、”厚生労働行政推進調査事業費補助金 慢性の痛み政策研究事業 「慢性の痛み診療・教育の基盤となるシステム構築に関する研究」研究班“が監修している慢性疼痛ガイドラインによると、以前は発症からおおむね 6 カ月を超えて 症状が持続する病態を指していることもありましたが、現在は薬物療法の充実などにより 3 カ月以上とすることが多いと記載されています。
 

 

基本的に”痛み”というものは何かしらの物理的ストレスを受けた結果、炎症を引き起こし、痛みとなって知覚されます。

そのため、炎症が治まるにつれて痛みは引いてきます。

 

通常は数日〜数週間程度安静にすれば炎症は治まってくるので、痛みもそれに準じてひいてきます。
(4週以上持続する炎症を慢性炎症と位置づけます。)


 

しかし、なぜ前述したように、痛みの中でも3ヶ月以上にわたって持続する場合があるのでしょうか。

 

2.慢性疼痛になる要因は多種多様で複雑?

 

慢性疼痛の要因としては「侵害受容性」「神経障害性」「心理社会的」など多種多様です。

 

慢性疼痛は、単純に器質的(身体の物理的)な問題だけでなく、心理社会的なことも関連しているため病態としては非常に複雑なものなのです。

 

事実、慢性疼痛を抱えている人は抑うつ症状を抱えている人が多いことがわかっています。

しかし、これも痛みのストレスが抑うつ症状を引き起こしているのか、抑うつ症状が痛みを引き起こしているのか、といった因果関係の結論はまだでていないようです。


また、痛みが長期化することにより仕事(学生なら学業)にも影響が出て、慢性運動器疼痛で男女ともに高率の失職、転職、退学等も報告されており、まさに痛みが社会問題にも発展している現状です。

 

 

3.慢性疼痛は並大抵の不幸ではない?

 

少し余談にはなりますが、慢性疼痛と幸福の関係についても少しご紹介します。

 

1970年以前には幸福に関する実証研究はほとんど行われていなかったようですが、それ以降からは”幸福”についても多くの実証結果が蓄積されてきました。

 

その中でもハーバード大学の元学長が書いた幸福の実証研究等について非常によくまとめられた本があります(デレック・ボック,幸福の研究,東洋経済新報社)。

 

その本によると幸福と密接に関連がある要因として「人が自分の健康についてどう感じているか」があると述べています。

 

ある推計では健康の自己評価が20%低下すると平均的な幸福度は(100ポイント尺度で)6ポイント低下すると報告しています。

 

しかもこれは医師の診断結果に関係なく、あくまでも自己評価が幸福に大きな影響を与えると述べています。
(自己評価と医師の診断結果には弱い関係しかなく、診断結果は患者の幸福感と小さな関係しかないようです。)

 

そして人は降りかかる病気や障害に対しては素早く順応する目覚ましい能力を持っています。

 

研究では手足を失ったり四肢麻痺になった人でさえ1年以内には以前の生活満足水準の大部分を回復すると報告されています。

 

人の順応力とはすごいものですよね。

 

しかし、そんな順応力の高い人間でも、あるほんの少数の病気だけが順応を妨げ、幸福を害する深刻で長く続く影響を与えると述べています。

 

その1つがうつ病です。

2つ目がエイズのような致命的疾病の発病としています。

 

そして3つ目が今回のテーマである慢性痛であると述べています。

 

このことからも慢性疼痛がいかに私たちの心身、社会生活を妨げ、大きな障害となっているかが窺われます。

 

慢性疼痛に関して今回はほんのさわりだけでしたが、今後も掘り下げていくだけでなく違った視点からも取り上げ続けていきたいと考えております。

 

4.まとめ。

 

  • 慢性疼痛とは「治療に要すると期待される 時間の枠を超えて持続する痛み,あるいは進行性の非がん性疼痛に基づく痛み」(国際疼痛学会)
    3ヶ月以上続く痛みは慢性疼痛とすることが多い。
  • 慢性疼痛の原因は器質的な原因だけでなく心理社会的な問題もあり非常に複雑。
  • 幸福度に対する慢性疼痛の影響は大きく、社会問題にもなりうる。

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