脳と痛みのダイナミクス!痛みと脳の密接なつながりとは?

以前に心の問題は痛みを増悪させる可能性が多分にあることをご紹介したことがあります。

具体的には、痛みに対する過剰な反応や偏った認知といったカタストロファイジングが痛みの増悪因子であることについて書きました。

(過去のブログ:運動による鎮痛効果とは?参照)

そして事実、エビデンスレベルの一番高いシステマティックレビューを参照しても“持続する腰痛患者などにはカタストロファイジングを考慮する必要がある”と結論付けています。

(参照:Maria M Wertli et al. Influence of catastrophizing on treatment outcome in patients with nonspecific low back pain: a systematic review.Spine (Phila Pa 1976). 2014.)

 

誤解を恐れずに言うとこれを裏返すと、必ずしも身体に大きな損傷があるからといってイコールで痛みの大きさが決まるわけではなく、同じような身体の損傷であってもその人の心の持ちようによって痛みには個人差が生じる場合があるといった側面が存在することがわかります。

(ただ根性論や誤った精神論を推奨しているわけでは決してないのでご了承ください^^; むしろ私はそういうのに対しては否定的に捉えています。)

そんな痛みとの心の関係にも少し近い部分ではありますが、実は痛みは脳とも切っても切り離せない強い関係があります。

今日はそんな『痛みと脳の関係』についてご紹介したいと思います。

 

実は脳機能に関しての研究を参照すると、身体の痛みと心の痛みは類似している部分があることが報告されています。

その研究によると、社会的に排除されているといった心的な苦痛と身体的苦痛時の際の脳の反応は同じ部位が反応していたと報告されています。

(参照:Naomi I Eisenberger et al.Does rejection hurt? An FMRI study of social exclusion. Science. 2003.)

そのため、心的な影響が身体的な痛みにも強く影響を与える可能性は脳機能の観点から捉えても説明することができるとも言えます。

 

また別の研究も参照すると慢性疼痛のある人は、注意力、短期記憶、一般知能といった認知機能は健常者と差はないものの、感情的意思決定課題のパフォーマンスが健常者と比べて低いといった特徴があることが報告されています。

そのため、慢性疼痛を抱えている人は感情を伴う状況において、日常行動に影響を及ぼす可能性があることが示唆されており、ここでも痛みと感情は関連が強いことが伺われます。

(参照:A Vania Apkarian et al. .Chronic pain patients are impaired on an emotional decision-making task.Pain. 2004 Mar.)

 

その他にも慢性腰痛などを抱えている人は、同じ刺激に対しての反応が痛みに関連する脳の皮質領域において、痛みのない人よりもより広範囲でかつ、ある共通した神経細胞活性化パターンを示していることなども確認されています。

(参照:Thorsten Giesecke et al.Evidence of augmented central pain processing in idiopathic chronic low back pain.Arthritis Rheum. 2004 Feb.)

 

このように慢性的な痛みを抱えている人はそうでない人と比べるとその2者間では脳の働き、、、つまりは脳機能が異なっていることがわかります。

 

つまり慢性疼痛を抱えている人は、身体機能だけでなく脳機能も何かしら問題を抱えていることが示唆されているのです。

 

ここまでであれば、何となくではありますが理解できる部分ではあるのですが個人的に更に驚いたことがあります。

 

それはこうした長引く慢性的な痛みは脳の機能のみならず、脳自体を萎縮させてしまうといったリスクの存在が示唆されています。

 

慢性腰痛を抱えている人とそうでない人の脳組織を比較した研究によると、慢性腰痛患者は脳の新皮質灰白質体積が5~11%少なかったことが報告されています。

5~11%というと大した数値でないと感じるかもしれませんが、これがどれくらいの減少率かというと、、、

同論文によると正常な老化の10~20年分で減少する灰白質体積に相当するといわれています。

そしてこの脳の体積の減少は痛みの持続する期間と関連しており、痛みが1年続くにつれ1.3㎤の灰白質が失われると言われています。

(参照:A Vania Apkarian et al. Chronic back pain is associated with decreased prefrontal and thalamic gray matter density J Neurosci. 2004.)

つまりは慢性的な痛みは放っておくと、脳自体をどんどん萎縮させてしまうリスクがあると言えます。

 

そう考えると中々怖いことですね、、、^^;

 

少し恐怖を煽ってしまうような内容になってしまいましたが、これに関しては朗報もあります。

 

慢性疼痛によるこうした脳の萎縮は回復する可能性があることもわかっています。

それを示唆するのが、痛みのある変形性股関節症患者の股関節形成術前とその手術後9か月を調査した研究です。

その研究によると、まず痛みのある変形性股関節症患者はそうでない人と比べて脳の視床と呼ばれる領域の灰白質の体積が減少していたことが認められていました。

しかしその患者の手術後9か月たった脳の形態を調べたところ、視床の灰白質体積が減少した領域は、健常対照者に見られるレベルまで回復していたことが報告されています。

(参照:Stephen E Gwilym et al. Thalamic atrophy associated with painful osteoarthritis of the hip is reversible after arthroplasty: a longitudinal voxel-based morphometric studyArthritis Rheum. 2010 Oct.)

 

これらのことから、たとえ慢性疼痛により脳が萎縮してしまったとしても、その痛みの改善や身体機能の改善を図ることにより回復する可能性があることなども指摘されています。

運動器、身体の痛みといってもそれが持続すると脳の器質的なところまで影響を及ぼすというのは中々衝撃的ですね。

 

〜雑記〜

私は整形外科で働くまでは神経系のリハビリに対して強く興味を持ち、専念して勉強していた時期もあるので、あくまで運動器分野と関わる部分ではありますが脳機能についてや神経系のリハビリについても少しずつ触れていければと思います。

ちなみに以前に心理学分野と関連の深い行動経済学について少し書きましたが、神経系と関連の深い”神経経済学”といった分野もあるのでその辺もいつか少し触れてみたいと思います^^

(過去ブログ:個人的にびっくりした記事、、行動経済学に危機!?を参照)

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