前回は股関節痛の原因の1つとして“FAI(Femoroacetabular impingement)”があり、その中でも大腿骨側の骨形態異常であるcam typeについてご紹介しました。
そして、このcam typeは同じように変形があったとしても痛みのある人もいれば痛みのない人がいることも前回の最後に少し触れました。
今回は前回のブログの続きとなるためまだお読みでない方はこちらの記事をご参照ください↓
1.cam typeの変形の特徴。
cam typeの変形がある人は股関節を曲げるほどストレスがかかる。
まず以前ご紹介したcam typeの変形とは、大腿骨側に認められる骨形態異常であることを書きました。
そしてcam typeの変形はそういった性質上、当然ながら股関節の曲げる角度が深くなればなるほどストレスがかかってしまいます。
(FAIと股関節唇損傷とはどんな病気?より引用)
(上の図の”cam”と書かれた部分になるため、見てのとおり股関節の付け根部分になります。)
2.スクワットでみる股関節の機能チェック。
FAIの確認方法。
そうした股関節を深く曲げるほど痛みが出やすいといった特徴から、FAIの確認の1つとして
といった方法があります。
(あくまで方法の1つです^^)
スクワットの沈み込みを深くするほど当然ながら股関節の曲がる角度も増すため、股関節の付け根部分に変形があるようなFAIの人はこうしたスクワット課題を遂行することが難しくなります。
同じ変形があっても深くスクワットができる人とできない人がいる。
しかし、人によっては仮に股関節の付け根部分に同様の変形(cam type)があったとしても、変形がない人と同様に深くスクワットができる人がいます。
といったことについて説明していきたいと思います。
3.同じ変形があっても痛みのある人とない人がいる理由とは。
同じ変形があっても痛みのある人と痛みのない人を比較した研究。
まずご紹介したいのは
- cam typeの変形があって症状(痛み)がある人
- cam typeの変形はあるが症状(痛み)のない人
の両者を比較した研究についてです。
(正確に補足するとこれに加えてcam typeの変形がなく痛みのない人、つまりは何の問題も抱えていない人も比較しています。)
この研究によると同様の変形があったとしても、無症状(痛みなし)の人はスクワット課題において痛みのある人と比べて深いスクワットができていたことが確認されています。
痛みのある人は骨盤の動きが悪かった。
(参照:DaniloS Catelli et al.AsymptomaticParticipants With a FemoroacetabularDeformity Demonstrate Stronger Hip Extensors and Greater Pelvis Mobility During the Deep Squat Task. OrthopJ Sports Med. 2018.)
ここで
と疑問にもつ方もいるかもしれません。
切っても切り離せない骨盤と股関節の密接な関係性。
これに関しては実は解剖・運動学的には骨盤と股関節は切っても切り離せない密接な関係にあると言っても良いくらいに互いに連動していることが知られています。
事実、骨盤と股関節の動きを調べた研究によって、股関節を曲げるという動きに合わせて骨盤が後ろに傾いてくる動き(後傾)が出現していることがわかっています。
そしてその動きの比率は個人差があるとは言え、
それに加えて、そうした股関節の曲げる動きと骨盤の傾斜する動きとの相関関係は0.89~1.00といったこの上ないくらいに高い相関関係を認めています。
(参照:RichardW Bohannon et al.Researchdescribing pelvifemoralrhythm: a systematic review. J PhysTherSci. 2017 Nov.)
そのためたとえ股関節の痛みであったとしても、身体機能を評価する際には股関節のみに限らず、骨盤機能やまたそれと関連の深い腰椎の機能なども合わせて評価することは私のようなリハビリ職界隈では比較的常識となっています。
(場合によってはそれ以外にも必要と感じた部位があった際はその周辺は随時、機能を含めて評価していきます。)
そして先ほど、変形があるにも関わらず痛みのない人とある人との違いで“スクワット時の骨盤の可動域”に差があることをご紹介しましたが、
これはまさにスクワット動作時に股関節が深く曲がってくるにしたがって、本来はその動き全体の13.1~37.5%を占めるはずの骨盤の動き(可動域)が痛みのある人には認められない、もしくは低下していることを意味します。
骨盤機能の低下は股関節痛の原因になる。
これに関しても
といった疑問が出てくるかもしれません。
これが大いに問題ありなのです^^;
というのも、
骨盤の可動域低下があると、股関節を曲げる際に本来は骨盤が連動して動くことで確保されるはずの股関節部分のゆとり部分(隙間)を作り出すことができず、インピンジメントと呼ばれる股関節の根元部分での挟み込みを引き起こし、痛みが生じてしまうリスクがあるのです^^;
そのため、先ほどの論文で痛みのある人とない人とで認められた”骨盤の可動域の差”というのは解剖学・運動学といった基礎部分で捉えた際にも合点のいく報告であると言えます。
変形があっても痛みがない人はお尻の筋肉(股関節伸筋)が強かった。
また同論文を更に読んでいくと、cam typeの変形があるにも関わらず股関節痛の痛みのある人とない人とで認めた他の違いとして、股関節を後ろに引く筋肉(股関節伸筋)の強さが異なっていたことが報告されています。
筋肉の詳細については別で色々書いていきたいと思いますが、大まかなイメージとしては股関節伸筋とはお尻や太ももの後ろにある筋肉となります。
この股関節伸筋がどう異なっていたかと言うと、
股関節痛のない人は、痛みのある人に比べてこの股関節伸筋が有意に強かったのです。
さらにここでポイントとなるのが、股関節伸筋が強かったというのは何も股関節痛のあった人と比べたことだけに限りません。
痛みのない人は、股関節伸展筋が普通の人以上に強かった。
何と、変形持ちでかつ痛みのない人は変形もなく痛みもない、いわゆる健常者以上に股関節の伸筋が強かったことがわかっています。
これの何がポイントなのかというと、原文を読むとこの論文内にも書いてあることなのですが、実は過去の研究でFAI患者は健常者と比べて股関節伸筋が弱くなっていないことが示唆されていました。
実は、今までは股関節伸筋に対しての治療は重視されていなかった。
言うなれば健常者とFAI患者の2者間の比較では股関節伸筋は同等の強さがあったので、股関節伸筋に対しての治療(筋トレなど)は理学療法のプロトコルに不可欠な要素とはなっていなかったのです。
端的に言えば、それまではFAI患者の股関節伸筋に関しては
といった捉え方がされていました。
股関節痛のある人は股関節伸筋を鍛えることで痛みを軽減させることができる可能性が高い。
しかし、この研究によりFAI(cam type)の人の中でも、更に痛みのある人と痛みのない人を比較・研究した結果、無症状の人は症状ありの人と比べて股関節の伸筋の強さに有意な差が認められました。
それも健常者以上に股関節伸筋が強かったことがわかったのです。
これらの情報を一旦整理すると、、、
- FAI患者と健常者では股関節伸筋の強さに差がない。
- しかし、FAI患者を更に痛みのある人とない人の比較を行ったところ、痛みのない人は有意に股関節の伸筋が強いといった差が認められた。
- しかもその強さは健常者以上の強さであったことがわかった。
これらの情報から示唆されることは、FAI(cam type)といった変形がある人は実は健常者程度の股関節伸筋の強さでは痛みを発してしまう可能性があり、そうした変形を抱えている人は健常者以上の股関節伸筋の強さを獲得することで痛みを軽減or消失できる可能性があることを示唆していると言えるのではないでしょうか。
4.おわりに。
勿論、股関節の伸筋さえ鍛えていれば解決するわけでないケースも存在すると思います。(実際に私自身の現場感覚ではそう感じています)
しかし、これらの情報は非常に重要なポイントだと個人的には感じています^^
こうしたことから“健常者以上の股関節伸筋の強さ“というものは十分条件ではないにしても、FAI(cam type)があるにも関わらず股関節痛がないといった状態でいるための必要条件となり得るのではないかと私は思っています。
更に言うとこの股関節伸筋の強さの差というものは、先ほどのスクワット時に認められた骨盤の可動域の差と絡めてもメカニズム的に合点のいく説明が可能です。
細かいことは割愛しますが股関節伸筋は、先ほど紹介した深いスクワットをする際にうまく働くことで骨盤を矢状方向に動かす作用があり、そうすることでインピンジメント(挟み込み)を回避する重要な役割を担っていると考えられています。
そのため、同じcam typeの変形があったとしても痛みのない人はある人と比べて
- 深いスクワットができた。
- スクワット時の骨盤の動きが大きかった。
- 股関節の伸筋が有意に強かった。
といった差を認めたのは、メカニズム的にも納得のいくものであると言えます。
今日はそんなcam typeの変形があっても、痛みのない身体機能獲得のポイントの1つとして
- 健常者以上の股関節伸筋力
- 骨盤の可動性(骨盤機能)
が重要であるといったご紹介でした。