今日は健康を考える上で個別の心身機能ではなく、少し社会的な側面から触れていきたいと思います。
1.健康って何?
「健康」とはWHOの定義によると以下のように述べられています。
Health is a state of complete physical, mentaland socialwell-being and not merely the absence of disease or infirmity.
健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、全てが、満たされた状態にあることを言います。(日本WHO協会訳)
この内容を読むと健康とは心身だけが満たされている状態を指すのではないことがわかります。ここでは心身に加えて”社会的”にも満たされた状態と定義されています。
換言すると、身体・精神・社会これらが三位一体でどれか一つを欠いても健康となりえないことが示唆されています。
そう考えると、個人の心身だけでなくもっと広い枠組みである”社会”のことについても視野を向けることが、健康についてもっと多角的に捉えるための第一歩ではないかなと思います。
そのため今日は少し社会的な内容にかぶせて書いていきたいと思います。
2.社会を左右する経済政策の重要性
普段テレビでも経済政策について取り上げられることも多いですが、人によっては特に関係がないと思ってしまう人もいるかもしれません。
私自身、医療職という比較的安定した職業でもあることから景気の波は受けにくい部類であると思います。
しかし、そんな私でも最低限の経済学の知識は必要だと思い、普段から興味を持っています。その一つの理由として今回、経済政策と自殺者数の関係について触れていきます。
結論を先に述べると、
経済政策の方向性次第では多くの人が命を失う可能性があります。
当然ながら自殺をしてしまう理由は十把一絡げにはできませんが、どんな理由であろうと事前に防ぐことが可能であればそれに越したことはありません。
そしてもし、その自殺の原因が個人の精神的な問題やトラブルといった目の前で起こっているミクロ(近視的)な事であれば、それは同様にミクロな現場レベルで解決すべきだと思います。
その一方で、今回強調したいのは個人の問題ではなくマクロな問題、そもそも広い意味での取り巻く社会環境に問題があれば、それは個人やミクロな問題解決方法だけでは防ぎようがありません。
今回はそうした普段、実感としては得られにくいマクロな部分に焦点を当てます。
3.急激に増えた自殺者数。それが続いてしまった理由は?
下記グラフは警察庁「自殺統計」より厚労省自殺対策推進室が作成したものです。
このグラフを見ると明白ですが自殺者数の推移が明らかに上昇しているタイミングがあるのがわかります。
1997年の自殺者数は24,391人でしたが1998年にはそれが32,863人になっています。
なんとこの1年だけで3割以上、数にして8,261人も自殺者数が増加しています。
それまでは1947年から2015年の推移の中でピーク時でさえ1986年の25,667人でした。
そして悲劇的なことに1998年に急上昇してから以降、その後はほぼ一定し、3万人前後の自殺者数が続いていました(ピークは2003年の34,427人)。2010年からようやく2万人台(2010年29,554人)へ推移するようになりました。
そして2011年以降からは劇的に減少傾向を認め(2011年から2012年の1年だけでも2,463人減少)、2014年時点で24,417人まで減少し、ようやく1997年当時のレベル程度まで戻りました。
この推移はどういうことでしょうか。
結論を先に述べると、この原因による大きな理由の一つがデフレが放置されたことによる影響が大きいと考えられています。
勿論自殺の理由は人によって異なるのは当然ですし、人は複数の要因が重なった時に自殺が起きやすいことも知られています。
そして自殺と景気循環に密接な関係があることや、日本では多くの実証研究で失業率と自殺率で相関関係が高いことがわかっています。
加えて、この自殺者数が急増した1998年の自殺理由にも特徴がみられます。
1998年は前年比で自殺者数が35%も増えていますが、その自殺理由で最も増加の割合が顕著だったのが「経済・生活問題」であり、3,556件から6,158件と7割も増加しています。
最後に強調しておきたいことがあります。
これらを見ると一見不況が自殺者数を増加させると誤解するかもしませんが、
決して不況=自殺者増加ではないということがポイントになります。
恥ずかしい話、私自身が一時そのように誤解していたのですが
不況自体が自殺者を増やすわけではなく、不況後の経済対策によって自殺者数の推移が変化します。
言い換えれば、不況に見舞われたとしてもその後の経済政策が的確であれば自殺者数の増加は抑えることができます。個人的にはこれは非常に重要なことだと感じました。
たらればの話になってしまいますが、自殺者数が急増してからの15年程度の期間で累計で10万人以上が過剰に亡くなっていることになりますが、これも経済政策が正しければ救済できたことが予想されます。
4.まとめ
- 健康とは肉体的、精神的、社会的にも全てが満たされた状態である。
- 経済政策の方向性次第で自殺者数が増減する。
- 不況そのものが自殺の原因となるのではなく、不況後の経済政策の取り方で自殺者数は増減する。