今日は踵の痛みと関連の深い、足底腱膜炎についてご紹介します。
足底腱膜とは読んで字の如く、足の底、、、いわゆる足の裏に存在します。
踵の骨から始まり、足の指へ放散する縦走線維束からなります。
足底の筋肉は全て、この厚くて丈夫な足底腱膜に覆われています。
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足底腱膜炎は比較的有名な名称なので、もしかしたら聞いたことある人もいるかもしれません。
しかし、有名となっている名称であるが故に、この(いわゆる)足底腱膜炎に関しては少し触れておきたいことがあります。
本題に入る前に1つだけ、少しマニアックな補足をさせていただきます。
足底腱膜に起こる痛み(足底腱膜障害)は変性所見を認める一方、明らかな炎症所見を認めない例が多く報告されていることから、炎症によって生じる”足底腱膜炎”ではなく、腱膜の変性による”足底腱膜症”であるといった意見があります。
そのため、よくある足底腱膜が原因になって起こる痛みについて、足底腱膜炎といった名称を用いるのはもしかすると正しくないのかもしれません、、、。
しかし、今回はこのブログ内では便宜上、比較的広く知られている”足底腱膜炎”といった名称を用いて話を進めさせていただきます。
目次
1.足底腱膜炎の原因について。
足底腱膜炎(足底腱膜症)は、踵の痛みの最も一般的な軟部組織の原因であると言われています。
しかし、実はその病因については十分には解明されていません。
そんな中でもいくつかの原因が仮定されていますが、最も一般的なものとして
- 長時間の体重負荷による使い過ぎ。
- 肥満。
- 不慣れな体勢。
などがあります。
(参照:P Beeson .Plantar fasciopathy: revisiting the risk factors. Foot Ankle Surg. 2014)
足底腱膜炎になると、足底腱膜の付着部である踵辺りに痛みを感じるようになります。
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そして、先ほどもご紹介したように
走ったり、飛んだりといったストレスが足底腱膜に蓄積され生じると考えられています。
それ以外の特徴として、歩く際の第一歩目に痛みが生じるといったケースもあります。
歩く際に踵をついた時のストレス(圧縮力)や、蹴りだし時に足底腱膜が引っ張られることによるストレス(牽引力)が加わり、痛みを生じることが多くあります。
こういったストレスの反復によって更に痛みが増強していきます。
そのため基本的には休息し、活動量を減らせばそれに伴って足底腱膜へかかるストレスも軽減し、症状(痛み)は落ち着いてくることが多いです。
それでそのまま自然寛解する人もいます。
安静にすると痛みは軽減するけど、活動量を増やすとまたすぐに痛くなってしまうような人は何かしらのケアが必要となってきます。
安静は症状を和らげるには有効ですが、根本治療にはなりません。
理想は、活動量を戻して(増やして)もそういった踵の痛みが再発しないことだと思います。
今日はリハビリ的な観点から、足底腱膜へのストレスを軽減する治療法をご紹介したいと思います。
2.足底腱膜炎の治療法①ストレッチ。
まずは、ストレッチです。
足底腱膜が硬く、弾力性がなくなってしまうと、当然ながらストレスはかかりやすくなります。
足底腱膜は、足の踵から足の指の裏側まで伸びています。
足底腱膜の始まり部分と、終わりの部分を黄色の丸で囲むと以下のようになります。
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この黄色の丸で囲った2点間を引き離すようにすることで、足底腱膜をストレッチできます。
そのため足底腱膜は、以下のように足の指をそらすことでストレッチされます。
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↑の写真のように足の指をそらした状態で、黄色矢印で示した足の裏側(足底)を触れてみると、すごく突っ張った”すじ”のようなものが確認できると思います。
これが足底腱膜になります。
ここで1つ、臨床的なワンポイントアドバイスがあります。
それは、単純に上の写真のように伸ばしていただくのも良いのですが、人によっては足首を反った状態で同様に伸ばしてみるといった方法が効果的となる場合があります。
もしくは、上の写真のように足の指をそらした状態をキープしたまま足首を反らして、戻すといった動作を繰り返すようなストレッチ方法をとるのが有効な場合もあります。
イラストで紹介した通り、足底腱膜は足の後ろにあるものなので、足首の角度自体はそんなに重要でないと感じる方も多いと思います。
事実、そうした考えが間違っているわけではありません。
ただ、もし可能であれば普通に伸ばすのと、足首を反らした状態でのストレッチの両方を実施していただくことをオススメします。
それを勧める理由はいくつかあるのですが、なかなかマニアックな話になってしまうのと今回の趣旨とは少し逸れてしまうので、詳細に関してはまた別の機会に取り上げたいと思います。
3.足底腱膜炎の治療法②高負荷トレーニング。
次にご紹介するのは”高負荷トレーニング”です。
足底筋膜炎患者への治療に対する介入研究があるのですが、その研究論文によると
足底筋膜炎患者において、
- インソールと足底腱膜へのストレッチ。
- インソールと高負荷の筋力トレーニング。
といった2種類の介入方法で、それぞれの治療効果を比較した結果、高負荷トレーニングを行ったグループの方が(主要アウトカムが)優れていたといった報告がされています。
(主要アウトカムは3か月後の足部機能指数。副次アウトカムは1ヵ月、6ヵ月、12ヵ月後の足部機能指数としており、副次アウトカムに関しては有意差を認めなかった。)
(参照:M S Rathleff et al:High-load strength training improves outcome in patients with plantar fasciitis: A randomized controlled trial with 12-month follow-up. Scand J Med Sci Sports. 2015)
同論文で用いた高負荷トレーニングの方法はつま先の下にタオルを入れた状態での、片足の踵上げ運動でした。
踵上げの運動に関しては、前回のブログでは、扁平足対策として行うなら後脛骨筋トレーニングになるように足関節内転位で行うのが良いといった内容をご紹介しました。
(前回ブログ:扁平足(へんぺいそく)を治すにはどんなトレーニングが良いの?(実践編))
今回の足底腱膜炎対策としての踵上げ運動は、つま先の下にタオルを入れた状態での踵上げ運動です。
そうなると当然知りたいのが、
といった疑問です。
これについては専門的な内容になりますが、少しだけ解説したいと思います。
4.つま先の下にタオルを入れた踵上げ運動が良い理由。
足底腱膜に関する重要なメカニズムで”ウインドラス機構”と呼ばれるものがあります。
ウィンドラス機構とは、足の指を反ること(中足指節関節(MP関節)の伸展)に伴い、足底腱膜を巻き上げ、その結果として土踏まずの内側縦アーチが緊張し、足の剛性が高まるといった現象を指します。
また似たような概念で、体重がかかった際に足底腱膜が伸長されることによって衝撃を吸収するといったメカニズムを”トラス機構”と呼びます。
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つま先にタオルを入れることで、この内のウインドラス機構を通じて、足底腱膜に対してより負荷をかけることができます。
ただそうなると、次に
といった疑問がでるかもしれません。
また同様に
と感じるかもしれません。
事実、軟部組織が炎症を起こしている際に一番重要となるのは、炎症を抑えることです。
つまり、多くの場合”患部の安静”が治療の第一選択となります。
そのため、上のような疑問は至極真っ当なものです。
ただ、先ほどご紹介した介入研究の結果のように、足底腱膜炎を有している人にはストレッチだけでなく、高負荷のトレーニングの有効性も確認されています。
これはどういうことでしょうか。
5.足底腱膜炎に高負荷トレーニングを取り入れる理由。
これに関して補足説明をすると、
まず、足底腱膜炎は冒頭で少し触れたように明らかな炎症所見を認めない例が多く報告されています。
そのため、足底腱膜からくる痛みは炎症性変化よりも筋膜の肥厚がもたらしている可能性が高いといった捉え方が近年されていることをご紹介しました。
”足底腱膜炎”といった名称が少しややこしくしているのですが、もし本当に炎症が強い状態であれば、負荷の高いトレーニングは行うべきではありません。
しかし、もし炎症がそれほどひどいわけではなく、筋膜の肥厚、腱膜の変性といったことが病態として考えられるのであれば、足底腱膜の正常部の強化は有効な手段となり得ます。
なぜなら足底腱膜の正常な部分に対して、負荷をかけ、トレーニングを行うことで痛みを有している部分に対してのストレスを軽減できる可能性が高いからです。
また、足底腱膜は足の筋肉(足部内在筋)とも強い連結があることから、それらの筋肉を鍛えることで足底腱膜へのストレス軽減につながる可能性があると考えられています。
ただ、足底腱膜に対する足部内在筋トレーニングの有効性については、ある程度は推奨できる反面、外的妥当性に関しては限定的であるといったシステマティックレビューの報告もあることについては補足しておきます。
(参照:Dean Huffer et al:Strength training for plantar fasciitis and the intrinsic foot musculature: A systematic review. Phys Ther Sport. 2017)
※内的妥当性:その論文の研究結果が正しいかどうか。
外的妥当性:内的妥当性が担保されている時、その推測結果を自分の患者に適応して良いかどうか。
このあたりのマニアックな話については少し難しいと思います。
私としては、こうした足底腱膜炎に関する基礎研究によって明らかにされている病態や機能解剖学的に捉えた治療の有効性、そして何よりも実際の介入研究の結果等を照らし合わせて考えると、こうした高負荷トレーニングを取り入れることのメリットは十分にあると考えています。
ただ注意したいのは、もしこうしたトレーニングを行った際に痛みがある場合は避けるべきです。
痛みがある場合は、トレーニングのやり方が間違っているか、負荷が高すぎるといった問題が予想され、痛みを無視してやり続けるのは余計に悪化してしまう原因となります。
そのため、まずは患部の痛みがないことを大前提とした上で上手く取り入れていただければと思います。