マッサージガンの効果ってどうなの?リハビリ専門職からみた使用上の注意点について。

今日は少し流行りの商品について、取り上げたいと思います。

いきなりですが、

 

”マッサージガン”というものを聞いたことがあるでしょうか。

 

銃のような形をしたマッサージ機であり、ここ最近の流行りで色んなメーカーから出ています。

 

私の周りにもこれらを使っているという人をちらほら見かけます。

 

振動刺激でマッサージをするもので、リラクゼーション効果や筋膜リリース効果といった宣伝で販売されています。

 

それぞれの商品名は異なりますが、

テニスプレーヤーの大坂なおみ選手が使っていることや、

女優の米倉涼子さんがCMをやっていたり、

ファッションモデル・タレントのローラさんが公式アンバサダーとなっているMYTREXからも販売していたり、、、

 

などなど多種多様な有名人と一緒に宣伝されているので、見たことある人もいるのではないでしょうか。

 

 

大坂なおみ選手が使っていると宣伝されているマッサージガン↓

 

 

ローラさんが公式アンバサダーとなっているMYTREXから販売されているマッサージガン↓

 

 

米倉涼子さんがCMをしているマッサージガン↓

 

 

値段も高いものからリーズナブルなものまで様々です。

探せば2000円台のものがあったりとピンキリです。

 

今日はこのマッサージガンの効果や使用上の注意点について、リハビリ専門職視点からご紹介したいと思います。

 

1.マッサージガン自体の効果の結論を決めるのはまだ時期尚早?

 

まず前提として、マッサージガンの効果等に関しては、まだまだ科学的根拠が不足しており、結論を出すのには早計であるといったことです。

 

現状では、マッサージガンの効果についての研究や論文を探してもほとんど見つかりません。

 

医学系論文を探す上で欠かせないものとして、Pubmedというものがあります。

 

世界的な医学論文の情報は、MEDLINEという米国国立図書館(NLM、National Library of Medicine)が作っているデータベースに収録されており、 それらをこのPubMedというサービスで検索することができます。

 

そして、このPubmedに収録されていない医学誌は世界的には認められていないと考えて差し支えないと言われています。

 

私の引用している論文も、最低限のエビデンスの質の担保として、原則、このPubmedに引っかかるものを選定するようにしています。

 

そして現時点では、Pubmedの検索でひっかかるマッサージガンに関しての論文はあまりないといった状況です。

 

そのため、ちゃんとした結論を出すには、今後の研究報告が増えてくるのをもう少し待つ必要があると思います。

 

そういった前提がある上で、現時点でのエビデンスを基にして話を進めさせて頂きます。

 

 

2.振動刺激の効果について。

 

今流行りのマッサージガンは主に振動刺激を与えるといったものになります。

 

なぜ振動刺激なのというと、実は振動刺激にはリラクゼーション効果があると考えられているからです。

 

遅発性筋肉痛(DOMS)に対するマッサージと振動療法の効果を調べた研究があるのですが、その論文によると、振動療法は遅発性筋肉痛の予防に有効であると結論付けています。

(参照:Shagufta Imtiyaz et al:To Compare the Effect of Vibration Therapy and Massage in Prevention of Delayed Onset Muscle Soreness (DOMS) . J Clin Diagn Res. 2014)

 

遅発性筋肉痛(DOMS)については過去ブログにも取り上げたことがあるので、良ければご参照ください。
(過去ブログ:筋肉痛って何?身体の疲労度の簡易チェック方法について。)

 

3.マッサージガンの効果について。

 

実際にマッサージガンの効果を検証した研究もあります。

 

それは足を倒す側に動かす筋肉(足関節底屈筋)の可動域とパフォーマンスに及ぼす効果についてといったものです。

 

5分間、ふくらはぎの筋肉にマッサージガンを用いた後、足を反らす(足関節背屈)可動域と最大随意収縮(MVC)トルクを測定しました。

(ダイナモメーターを使用。)

 

その結果は、何もしなかったグループと比べて、マッサージガンを用いたグループは、5.4°の可動域の拡大を認めた(+18.4%)といったものでした。
(筋力に関しては、変化なし。)

 

↓使用したマッサージ機

 

(参照/引用:Andreas Konrad et al:The Acute Effects of a Percussive Massage Treatment with a Hypervolt Device on Plantar Flexor Muscles’ Range of Motion and Performance. J Sports Sci Med.2020)

 

ただ、この論文に関してはサンプルサイズの小ささや、治療の有無の盲検化がされていないといった研究デザインの問題などもあり、これだけで結論を導き出すのは難しいといった指摘もされています。

 

 

そして注意したいのが、マッサージガンに関しては有害な効果があった報告がされているのも事実なのでそれをご紹介します。

 

4.マッサージガンによる有害事例。

 

症例報告にはなりますが、マッサージガン使用後に横紋筋融解症を発症したといった報告があります。

 

横紋筋融解症とは骨格筋の細胞が融解、壊死することにより、筋肉の痛みや脱力などを生じる病態をいいます。

その際、血液中に流出した大量の筋肉の成分(ミオグロビン)により、腎臓の尿細管がダメージを受ける結果、急性腎不全を引き起こすことがあると言われています。

 

発生機序としては、医薬品によって引き起こされることもあるとされています。

筋肉は代謝が活発な組織であり、多くの医薬品の影響を受けやすい臓器でもあります。

 

また医薬品が原因ではない横紋筋融解症は正常人においても激しい運動局所の虚血・圧迫などでも生じることもわかっています。

 

その他では、代謝性ミオパチーや遺伝性筋疾患の特殊型などにおいて生じることが知られています。

 

 

本題に戻りますが、マッサージガンによる有害効果が報告された症例は、若い中国人女性でした。

その女性は軽度の鉄欠乏性貧血があること以外は健康状態が良好な人でした。

 

サイクリング後、疲れた筋肉のマッサージとリラックスを目的にコーチからマッサージガンの治療を受けた(両大腿部に10分間ずつ施行)後、3日間の疲労感と大腿部の激しい筋肉痛、茶色い尿を呈しました。

大腿部に筋圧痛と多発性血腫が認められ,尿検査でヘモグロビン尿を指摘されました。

血清クレアチンキナーゼは「検出不可能なほど高い」と報告され、深刻な筋損傷の特徴であることから、重度の横紋筋融解症と診断されました。

(※クレアチンキナーゼ(CK)とは筋肉に多量に存在する酵素で、筋肉の収縮や弛緩に必要な筋細胞のエネルギー代謝に重要な役割を果たしています。骨格筋や心筋が障害を受けた場合は、血中の CK値 は高値を示します。)

 

 

その女性は病院へ2週間入院し、治療を受けた結果、幸いクレアチンキナーゼの低下とともに臨床症状は徐々に改善し,良好な回復を示したようです。

 

横紋筋融解症は、運動後の筋肉への外傷によっても引き起こされることがありますが、今回の症例のような運動強度(時速6~7マイルの強度で30分間のサイクリング)だけでは、横紋筋融解症の引き金にもなる筋肉の破壊を引き起こすほど大きなものではないと考えられます。

 

そのため研究者らは、マッサージガンによる外傷が筋繊維を破壊し、生命を脅かす可能性のある後遺症をもたらしたと結論づけました。

 

こうした症例があったことから、症例報告の結論として以下のように報告しています。

 

マッサージガン使用後に重篤な横紋筋融解症を発症した症例は、介護者、スポーツ専門家、一般市民に対し、マッサージガンの重篤な副作用を疑い、認識し、特に基礎疾患や病態を有する者のリハビリテーション療法においてマッサージガンを適切かつ安全に使用できるように注意を促す必要がある。

そしてマッサージガンの利点、適応症、禁忌症、有害反応について調べる研究が必要である。

 

(参照/引用:Jian Chen  et al:Rhabdomyolysis After the Use of Percussion Massage Gun: A Case Report. Phys Ther.2021)

 

私もこれに関して同意です。

 

マッサージ1つとっても、適応となる場面もあれば一歩間違えれば有害となってしまうリスクは存在します。

 

マッサージガンの使用で横紋筋融解症のような重篤な状態になることは割合としては少ないでしょうが、十分に気を付けたいところですね。

 

5.【現時点での結論】マッサージガンは最低限の注意点を理解した上で使うのがベター。

 

少しマイナスな面も取り上げましたが、私個人としては、使い方を見誤らなければ比較的良い道具であると思っています。

今日ご紹介した通り、エビデンスの質としては少し考慮しないといけない面もありますが、筋力に影響を与えることなく、筋肉の緊張をおとし、即時的な可動域アップ効果があったといった報告もあるのでそこはメリットとして挙げられると思います。

 

そして冒頭にも紹介した通り、振動刺激にはリラクゼーション効果(緊張の抑制効果)が得られることがわかっています。

また振動刺激には遅発性筋肉痛(DOMS)の予防効果もある程度見込める点も良きメリットだと思います。

 

ただ補足しておきたいことは、一方で振動刺激によって筋肉の筋紡錘が興奮し,刺激された筋は持続的に収縮を行うことも報告されています。

 

つまり、振動刺激を与えることによってリラクゼーション効果とは反対に筋肉の緊張を高めてしまうこともあることがわかっています。

 

一口に振動刺激といっても、筋肉の緊張を和らげてくれる場合もあれば、逆に高めてしまう場合があるのです。

 

こうした振動刺激に対する骨格筋の反応の違いには,振動刺激の周波数や振幅 刺激時間などの刺激条件が影響していると考えられています。

 

そのため、振動刺激を用いて筋緊張の抑制を行う場合には、本来は刺激条件の詳細な設定が重要になると言われています。

(参照:中林 紘二 他:振動刺激による下腿三頭筋の筋緊張抑制効果-H/M比を用いた筋緊張の経時的解析.理学療法科学 26(3)393–3962011)

 

 

こうしたことからも、使い方を誤ってしまえば、有害反応を引き起こしてしまうことも優に想像できます。

 

そのため、マッサージガンの使い方としては、私自身は以下のような点に気を付けて使用していただくのが良いと考えています。

 

  • 遅発性筋肉痛予防として、運動前に使用する。
  • ハードな運動をした後には、マッサージガンの使用は控える(間隔を空ける)か、弱い刺激で使用する。
  • 運動の有無に関わらず、痛いほどの強い刺激では用いない。

 

中には強い刺激のマッサージが好みの方もいるかもしれませんが、最低限、上記のような点に関しては気を付ける方が良いと考えています。

 

マッサージガン自体は良い商品だと思いますが、どんなものも危険性(リスク)は存在します。

そのため、適切に使用することで最大限メリットを得られるようにしていきたいですね。

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