前回は、肩の痛みの原因となる代表例の1つである”腱板断裂”について、ご紹介しました。
腱板断裂とは肩のインナーマッスルである腱板が切れることを指します。
しかし、腱板断裂していても全く問題のない人も一定割合存在することを前回にご紹介しました。
(前回のブログは 肩の痛みの原因になる”腱板断裂”って何?断裂しちゃうとヤバいの? を参照)
今日はその続きで、
といったことについての一例を取り上げていきたいと思います。
1.腱板断裂で症状のある人とない人の違いは、筋肉の使い方。
筋肉の使い方の違いが腱板断裂の症状の有無を左右する?
これに関しては、様々な研究で認められている代表的な違いとなります。
私たちが腕を上げたりする時は、当然ながら肩や腕周りの筋肉が働きます。
ただし、肩や腕周りの筋肉と一言にいっても、人の身体には沢山の筋肉が何層にもなって付いています。
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腕を上げる動作は無数の筋肉の協調性で成り立っている。
腕を上げるといった動作ひとつとっても、こういった身体に付いている無数の筋肉が協調的に働くことによって”動き”ができています。
無意識の内に、行おうとする動きに合わせて、各筋肉の働くタイミングやその強さなどが常に上手く調節されているのです。
同じ腱板断裂で痛みなどの症状のある人とない人には、こうした筋肉の動きや協調性に違いがあることがわかっています。
同じ腱板断裂でも症状がある人とない人の違いは?
(参照
・Bryan T Kelly et al:Differential patterns of muscle activation in patients with symptomatic and asymptomatic rotator cuff tears.J Shoulder Elbow Surg. 2005
・Hiroaki Ishikawa et al:Differences in scapular motion and parascapular muscle activities among patients with symptomatic and asymptomatic rotator cuff tears, and healthy individuals.JSES Int. 2021 Mar
・Nobuhisa Shinozaki et al:Differences in muscle activities during shoulder elevation in patients with symptomatic and asymptomatic rotator cuff tears: analysis by positron emission tomography.J Shoulder Elbow Surg. 2014)
具体的な筋肉名も少し挙げると、症状のある人の特徴としては、そうでない人と比べて、腕を動かす際に三角筋(前部・中部)などの腕の筋肉の働きが悪く、僧帽筋上部線維や肩甲挙筋といった首に強く関わる筋肉の活動が大きくなっていることがわかっています。
この僧帽筋上部線維や肩甲挙筋は、時には“肩こり筋“と呼ばれることもある筋肉です。
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2.症状のある人は肩甲骨の動きも悪い。
肩こり筋の働きが過剰だと肩甲骨の動きが悪くなる。
そして、この肩こり筋が過剰に働きやすい人は、肩甲骨の動きも悪くなる傾向があります。
(参照:Hiroaki Ishikawa et al:Differences in scapular motion and parascapular muscle activities among patients with symptomatic and asymptomatic rotator cuff tears, and healthy individuals.JSES Int. 2021 Mar)
腱板断裂の治療のポイントは肩甲骨の動きの改善。
このようなことから、腱板断裂をした人が無症候性の状態になるためには、筋肉の使い方や肩甲骨の動きの改善を図る必要があると考えられいます。
前回のブログでも触れた通り、断裂した部分は自然に修復されることはありません。
そうなると、当然ながら一度断裂してしまった部位の機能の改善には限界があることが予想されます。
そのため、腱板断裂した人は「断裂したところ以外の残存した機能をいかに上手く使えるようになるか」といったことが非常に重要になってきます。
ここまでくると非常に専門的になり、個別性も高い話になってきます。
しかし、前回のブログでもお話した通り、腱板断裂はcomon diseaseとして位置づけられています。
比較的、よくある疾患の1つとなります。
そして腱板断裂したからといって、絶対に手術というわけではなく、場合によっては腱板断裂しているけど問題のない人もいます。
また仮に手術が必要なケースであっても、今日取り上げたような筋肉の働き方の違いといった身体機能の改善は必要となるケースがほとんどです。
腱板断裂しないに越したことはありませんが、したからといって必ずしも症状が伴うものではないといったことは知っておいて損はないと思います。
3.腱板断裂の注意点。断裂を進行させるリスク因子とは?
闇雲な筋トレは危険?
ただ、こういった性質上、腱板断裂をした人が注意していただきたいのは、痛みを無視して闇雲に高負荷の筋トレをやりまくるのは避けた方が良いということです。
今日、ご紹介した通り、腱板断裂している人で症状のある人とない人の違いの1つは、動きに合わせた筋肉の働き方や協調性になります。
そのため、仮に高負荷の筋トレをするにしても、まずはその前に筋肉の使い方を改善させてあげる必要があります。
腱板断裂の近年の保存療法の主流は活動制限なし。
近年では腱板断裂の保存療法においては、原則、活動制限は不必要と考えられています。
しかし、いくら活動制限は不必要とはいっても、痛みを無視して闇雲に高負荷の筋トレをするというのは、腱板断裂の治療にはなり得ないと考えられます。
それどころか悪化する原因になります。
腱板断裂に関しては、まずはしっかりと正しく肩周囲の筋肉が使えて、正しい動きができるようになることが必要になります。
腱板断裂が進行するリスクについて。
最後にもう一つ、腱板断裂の注意点として、断裂したところが進行するといったリスクがあります。
つまり、断裂した部分が広くなってしまう可能性があるのです。
先ほどあげたような、痛みを無視した高負荷の筋トレも場合によっては断裂が広がる可能性があります。
これは腱板が断裂して痛みがでているのに、そこを無視してひたすらに負荷をかけ続けていれば断裂が広がるのは優に想像ができると思います。
(参照
・Nobuyuki Yamamoto et al:Risk Factors for Tear Progression in Symptomatic Rotator Cuff Tears: A Prospective Study of 174 Shoulders.Am J Sports Med. 2017
・Whanik Jung et al:The natural course of and risk factors for tear progression in conservatively treated full-thickness rotator cuff tears.J Shoulder Elbow Surg. 2020)
そのため、もし腱板断裂を過去にしたことがある人で、こういったことに該当する人は注意していただくことが賢明となります。