前回は、坐骨神経痛についてご紹介しました。
坐骨神経痛の主症状はお尻~脚にかけてのしびれであり、その原因となる疾患はたくさん存在することをご紹介しました。
原因不明とされる坐骨神経痛も存在します。
しかし、中には保存療法で完治といえるレベルまで改善するケースもあります。
1.見落とされやすい坐骨神経痛の原因。
坐骨神経痛の原因で見落とされやすいもの。
坐骨神経痛の原因となるもので、比較的見落とされやすいものがあります。
しかし、その見落とされやすいタイプの中でかつ、保存療法(リハビリ)で改善されるタイプのものがあります。
場合によっては劇的によくなります。
梨状筋とは?
名前の通り、身体には梨状筋と呼ばれる筋肉が存在します。
梨状筋は股関節に存在する筋肉です。
この筋肉には機能解剖学的に大きな特徴を持っています。
それは梨状筋は坐骨神経の通り道にあるといった点です。
↓
梨状筋は上のイラストのように、まさに坐骨神経の通り道に存在します。
梨状筋は本来、柔らかい筋肉。
梨状筋は通常、柔らかい筋肉です。
そのような梨状筋由来による坐骨神経への圧迫(時に牽引)によって、坐骨神経痛の症状を呈しているといったケースが存在します。
梨状筋症候群は保存療法で改善が期待できる?
他に何か別の原因が合併していたりする場合もあるので、一概には言えませんが、
2.梨状筋症候群の特徴。
梨状筋症候群の症状の傾向は?
梨状筋症候群の一般的な症状の傾向は、長時間座っていると脚のしびれがでてくるといったものです。
↓
中には、歩くとしびれが改善されるといった特徴をもっている場合もあります。
梨状筋症候群はXpだけではわからない。
梨状筋症候群は主に”筋肉由来”からくる坐骨神経痛なので、レントゲンなどではわかりません。
梨状筋症候群に関しての論文を読んでいても、梨状筋症候群は臨床の場で診断が甘くなりがちであるといった背景説明がなされることもあるくらいです。
つまり、梨状筋症候群はそれくらいに”見落とされやすい”といったコンセンサスのあるものなのです。
誤解のないように補足すると、臨床現場での診察が雑だというわけではありません。
当然ながら、そこまでしっかりと確認している整形外科もあります。
しかし、前回のブログでもとりあげたように坐骨神経痛様の症状は、時には腫瘍が原因で起こったり、帯状疱疹などの皮膚科にかかるべき疾患が原因で起こる場合があります。
医療現場の喫緊の課題は、そういった”見落とすべきでないものを確実に確かめる or 除外する”ということです。
雑な言い方にはになりますが、そうなると単純に筋肉が硬くなって症状がでているようなケース(梨状筋症候群)は、それらと比べるとどうしても優先度が低くなってしまいます。
まして、日本のようにフリーアクセスで、かつ患者さんの数も多い医療現場の現状としては、どうしてもそういったことが起こり得てしまいます。
しかし、症状は症状です。
脚のしびれや痛みといった症状で夜も満足に眠れない、仕事に集中できないといった人は存在します。
そういった人にとっては、「原因や由来は何でも良いから、まずはこの症状を今すぐにでも和らげてほしい」と感じるのが当然でしょう。
海外の例を調べてみても、梨状筋症候群のせいで仕事を辞めざるを得なくなった、クビになったといったケースもあるようです。
こういった筋肉由来、場合によっては器質的な問題はないも身体機能障害が基となって症状がでてしまっているようなケースは、時に原因不明とされてしまう可能性があります。
梨状筋症候群はまさにそうなりやすいタイプの一つです。
3.梨状筋症候群の見つけ方。
梨状筋の見つけ方。【FAIR test】
方法の1つとしてFAIR testといった整形外科テストを実施し、確認します。
FAIR testは通常、医療専門職が行うことなので、詳細は省きますが、このテストは一言で言うと、梨状筋にストレスを与えるテストです。
ストレスを与えるといっても、何も大層なことではありません。
単純に梨状筋にストレッチをかけるといったものです。(股関節の屈曲+内転+内旋)
考えとしては、梨状筋にストレス(ストレッチ)をかけることで、坐骨神経痛様の症状が誘発されれば、「梨状筋が原因となっている可能性が高い」という風に捉えるといったものです。
FAIR testに限らず、その他にも梨状筋にストレスを与える手法はいくつか存在します。
私はそのテストが陽性であっても、場合によっては、梨状筋にストレスを与える別テストをあえて複数実施し、本当に梨状筋由来からくるものなのかを確認する時もあります。
別に嫌がらせでしているわけではありません^^;
同じ梨状筋にストレスを与えるテストでも、テストによって姿位が異なるため、患者さんによっては向き・不向きとなるテストがあるのです。
そして、このFAIR testを実施して、お尻~脚にかけてのしびれが出る人は、梨状筋にアプローチをすることで、その症状が軽減する場合が多いことがわかっています。
FAIR test陽性の人に対しての梨状筋局所麻酔の効果。
(二重盲検のRCTであるも比較的サンプル数が少ないといったLimitationsあり)
(参照:Tugce O Misirlioglu et al:Piriformis syndrome: comparison of the effectiveness of local anesthetic and corticosteroid injections: a double-blinded, randomized controlled study.Pain Physician. 2015)
また経験則になり恐縮ですが、私の現場の経験からしても、こういった方はリハビリで梨状筋にアプローチをすると、その場で症状の改善を図れるケースに多く出会います。
梨状筋症候群の人に対して有効なストレッチ。
医療の世界では経験則だけで、物事を語るのは良ろしくないため、エビデンスベースでも、一つ例を挙げると……
(参照:Momena Shahzad et al:Effects of ELDOA and post-facilitation stretching technique on pain and functional performance in patients with piriformis syndrome: A randomized controlled trial.J Back Musculoskelet Rehabil. 2020)
4.梨状筋症候群の対策。
それでは、この梨状筋が硬くなることによっておこる坐骨神経痛(脚のしびれ)はどうしたら良いのでしょうか。
大きく分けると2つの方法があります。
梨状筋症候群の対策法は?
それは
- 硬くなっている梨状筋を柔らかくする。
- 梨状筋へのストレスを軽減させる。
といった2通りになります。
梨状筋を柔らかくする。
まず1つめの
- 硬くなっている梨状筋を柔らかくする。
について軽く説明します。
梨状筋が硬くなると、坐骨神経を圧迫(牽引)して、ストレスを与えます。
そのストレスがお尻から足にかけてのしびれといった神経症状として出現します。
それならば、そのストレスの原因となっている筋肉を柔らかくすれば良いのです。
梨状筋を柔らかくすることは、イコールで坐骨神経にかかるストレスの軽減となります。
そして、硬い筋肉を柔らかくする方法の代表例として、マッサージやストレッチがあります。
梨状筋にマッサージやストレッチを施すことで、梨状筋の柔軟性を改善し、神経を圧迫している原因を除去します。
神経を圧迫している要因を取り除くので、シンプルではありますが、いかにも治療といった感じですね。
- 硬くなっているとある筋肉(梨状筋)が坐骨神経にストレスを与えていることがわかった。
- その硬くなっている筋肉(梨状筋)をマッサージで柔らかくした。
- 結果、坐骨神経痛の症状も軽減した。
めでたし、めでたし……
とはなりません。
確かに、中にはこれでめでたし、めでたしとなるケースも存在します。
しかし、私の経験上、これだけでは不十分な場合が多いです。
確かに梨状筋により圧迫されているのが原因であれば、その圧迫をとることは症状の改善につながります。
しかし、更にもう一歩先も考えなければなりません。
それが2つめの
- 梨状筋へのストレスを軽減させる。
といった部分になります。
梨状筋へのストレスを減らすには?
ここで重要となるのが、「そもそも、なぜ梨状筋は硬くなってしまったのか?」という視点です。
マッサージやストレッチで梨状筋の柔軟性を出しても、一時しのぎにしかならない場合があります。
場合によっては、その一時しのぎが功を制し、そのまま症状が完全に消失するケースもいます。
しかし、そうならないケースも一定数存在します。
なぜなら、たとえ梨状筋の柔軟性を出したとしても、梨状筋が硬くなってしまう原因を取り除かなければ、柔らかくなった梨状筋は時間の経過と共にまた硬くなります。
そして、硬くなった結果、また坐骨神経を圧迫して症状を誘発します。
マッサージや何かしらの治療を受けた直後は良いものの、また戻ってしまうというのは、こういったことが原因となっている場合が多いです。
そして、その“梨状筋が硬くなってしまう理由”として主となるのが、「普段の生活で梨状筋にストレスが過剰にかかり続けているから」というものです。
筋肉は働きすぎていたり(収縮し続けている)、伸ばされ続けたりすることでストレスが蓄積されます。
そしてストレスが蓄積された筋肉は硬くなります。
時には、その筋肉自体が痛みを感じやすくなります。
そのため、根治療に近づくためには、単純に硬い筋肉を柔らかくするだけでなく、硬くなってしまう原因に対しても改善を図らなければなりません。
受動的な治療の良し悪し。
私はマッサージや受動的な治療がダメだとは思っていません。
しかし、梨状筋症候群に限らず、腰痛にしても肩の痛み、膝の痛みに関しても、基本的に“受動的な治療のみ”というのはお勧めできません。
エビデンスベースでも受動的な治療のみというのは推奨されていません。
本当に症状を改善したいなら、能動的な取り組みが必要となるケースがほとんどです。
厳しいようですが、これは肝に銘じておきたいところです。
少し長くなってしまったので、今日はここで区切ります。
次回は実際に、梨状筋を柔らかくする方法(セルフケア)と梨状筋を硬くしない(ストレスをかけない)方法についてご紹介したいと思います。
5.今日のまとめ
- 坐骨神経痛の中でも保存療法でかなり改善が期待できるものがある。
- 坐骨神経痛の中でも見落とされやすい原因のものがある。
- 上記、2つに該当する代表例が”梨状筋症候群”。
- 梨状筋症候群の主な対策は①硬くなっている梨状筋を柔らかくする。②梨状筋へのストレスを軽減させる。
- 梨状筋症候群に限らず、”受動的な治療のみ”というのは基本的におすすめできない。