国民病ともいわれる腰痛。
ただ、一口に腰痛と言っても、その病態や原因は様々です。
そんな中でも、以下のような症状を経験したことはないでしょうか。
↓
- 激痛ではないし、鋭い痛みではない腰痛。
- 言うなれば、腰全体の重だるさ。
- マッサージされると凄く気持ちよい。
- マッサージを受けた直後は、嘘のように重だるさがとれる。
- けれど、時間がたつとまた再発する。
精査すれば、人によっては違った原因もあるかもしれませんが、こういった症状は、筋肉の過剰な張りが原因となってる可能性が高いです。
椎間板内圧が高まっても、似たような症状(何とも言えないぼんやりとした腰全体の重だるさ)は出現しますが、今回はそちらは置いといて、単純な「筋肉の過剰な張りによる腰の重だるさ」についてご紹介します。
内容としては、腰が重だるくなる原因とその原因のチェック方法の一例をご紹介します。
1.腰の重だるさの原因となる「筋肉由来の痛み」
筋肉由来の痛みとは?
筋肉の張りによる腰の重だるさなので、これは文字通り”筋肉由来の痛み”となります。
リハビリあるあるですが、患者さんが訴える痛みが”何由来なのか”といったことを可能な限り推定する評価は必須となります。
というのも、同じ”腰痛”といった症状であっても、何由来からくる腰痛なのかによって、その後に行う徒手的な治療や行う運動は全く違ってきます。
痛みの原因を可能な限り探るのは必須。
そのため、リハビリではまずは可能な限り、痛みの原因を探る(何由来の痛みかを知る)ところから始めます。
抱えている症状(主に痛み)が、筋肉由来なのか、神経由来なのか、関節由来なのか、血流障害によるものなのか、皮膚・皮下組織由来によるものなのか、はたまた、それ以外が原因なっているのかを評価してから具体的なリハビリを開始していきます。
そんな多種多様な腰痛の中でも、評価した結果、筋肉由来の腰痛であると仮定した際のお話をさせていただきます。
2.筋肉由来の痛みって何?
筋肉由来の痛み≒コリ。
筋肉由来の痛みがある……筋肉が過剰に張っている状態というのは、いわゆる”コリ“のようなものです。
筋肉自体が硬くなってしまい、それをマッサージでほぐすと気持ちよく(時に痛気持ち良く)て、マッサージ後は楽になるといった状態です。
経験ある方も多いのではないでしょうか。
こうした筋肉のコリは、筋肉自体に何らかのストレスがかかり続けることで、血流が悪くなって、出現します。
また、場合によっては、関節周囲組織がストレスを受けた結果、その反応で周囲の筋肉が硬くなる場合もあります。
他には、単純にその筋肉の動く機会が少なすぎることから血流が悪くなり、硬くなる場合もあります。(運動不足)
筋肉由来の痛みは筋肉による”コリ”のようなものなので、基本的にはマッサージなどで症状は緩和します。
似たようなもので筋膜由来の痛みであれば、筋膜リリースを実施します。
筋肉のコリの改善には活動量を増やすことも大切。
筋肉の硬さは運動不足からくる場合もあるので、自覚のある方は少し運動や活動量を増やすことが推奨されています。
基本的に、慢性腰痛には運動(筋力訓練,ストレッチ,有酸素運動)や活動量を増やすことが効果的であるといった報告が多くあります。
(参照
・Jill A Hayden et al:Background: Low back pain has been the leading cause of disability globally for at least the past three decades and results in enormous direct healthcare and lost productivity costs.Cochrane Database Syst Rev. 2021
・Rebecca Gordon et al:A Systematic Review of the Effects of Exercise and Physical Activity on Non-Specific Chronic Low Back Pain.Healthcare (Basel). 2016)
そうは言っても、マッサージや運動を行ったとしても、場合によっては腰の重だるさを繰り返す人もいます。
腰の筋肉を柔らかくしてもらったのに、またすぐ硬くなってしまう……。
繰り返される重だるさの原因とは?
そういった人は、普段の生活の中で、普通の人以上に腰の筋肉にストレスがかかり続けてしまっている可能性が考えられます。
そういった人のために、「筋肉由来の辛さがぶり返さないためのポイント」を一つ取り上げてご紹介したいと思います。
言い換えると、日常生活のなかで腰の筋肉に過度な負担をかけないためのポイントをご紹介します。
結論を先に言うと、そのポイントとは”姿勢”です。
3.姿勢が悪いと、それだけで筋肉にストレスがかかり続ける。
姿勢と筋肉の関係とは?
まず日常生活で、筋肉が張りやすい原因の一つとして”姿勢”が影響します。
ありきたりすぎて「何だそんなことか……」と思うかもしれません。
姿勢についての内容は、人によっては耳にタコができるくらいに聞いたり、そういった記事を穴があくほど読んだ人もいるかもしれません。
そんなありきたりなことですが、リハビリ・整形外科的な視点から少しマニアックなことも含めてご紹介していきます。
Jean Duboussetというフランスの整形外科医が提唱した概念で「Cone of Economy」というものがあります。
姿勢と筋肉の関係を表す”Cone of Economy”とは?
Coneは円錐を意味します。
以前は、当ブログは運動とまれに経済blogという名前でやっていたのもあるので、Economyと聞くと、私などはどうしても”経済”と訳したくなりますが、そうではありません(笑)
ここでのEconomyは”効率性”や”節約”といったニュアンスの意味となります。
Cone of Economyというのは人の身体を円錐に見立てて、その円錐内に身体が位置すれば、無駄な筋力を使わずに立つことができるというものです。
反対に、身体が丸まったり、姿勢が悪くて円錐の外に身体が位置すると、立姿勢を維持するだけでもそのエネルギーが多く必要となります。
つまりは、立っているだけの姿勢を保つにしても、筋肉によるエネルギーが余分に必要になってしまいます。
そうなると、筋肉が休みなく働きつづけることになるので、脊柱起立筋と呼ばれる体幹の筋肉の張りが強くなったり、長期に続くと血流の悪さ、うっ血状態に陥ってしまいます。
Cone of Economy↓
(豊根 知明 他:成人脊柱変形―腰曲がりの病態と手術戦略―.284昭和学士会誌 第79巻 第 3 号〔 284-295 頁,2019 〕より図引用。)
筋肉の血流が悪い=筋内圧が高い。
筋肉の血流が悪い状態というのは、言い換えると、「筋肉の内圧が高まった状態」です。
そして、”筋肉の内圧”と”姿勢”は密接な関係があることも報告されています。
具体的には、背骨が丸くなると、筋肉の内圧は上昇し、血流は減少することがわかっています。
(S Konno et al:The relationship between intramuscular pressure of the paraspinal muscles and low back pain.Spine (Phila Pa 1976). 1994 Oct 1;19(19):2186-9.)
これらが示唆することは、筋肉由来の痛み・コリを抱えている人は姿勢を気を付けない限り、イタチごっこになる可能性が高いということです。
- 筋肉由来の痛みのため、マッサージを受け、筋肉の血流が良くなると、その場では辛さが軽減される。
- しかし、姿勢が悪いと再度、筋内圧は上昇し、血流は減少してくる。
- 筋内圧が上昇した状態が続き、血流が減少し続けることで、筋肉由来の痛みが再発してしまう。
といった風に、マッサージなどで、その場で症状が改善されても、そもそも論として、”痛くなってしまう原因”を解決しないことには根治療には至らず、堂々巡りになってしまいます。
4.姿勢の改善は根治療にもなり得る。
辛くなれば、そこをほぐしてもらって楽になることは何も問題ありません。
しかし、理想を言えば、”そもそもそういった辛い状態に陥らない”方が良いと思います。
わざわざマッサージなどに通い続けることがなくなるのならば、それに越したことはありません。
施術してくれるところに、通う手間やお金などもかけずに済むならそれが理想ですよね。
とはいっても、私は対症療法自体が一概に全く良くないとも思っていません。
対症療法は意識が高い人からは批判されがちではありますが、本当に辛い人にとっては対症療法は救いになると思っています。
”対症療法=悪”ではない?
普段の臨床現場でも、本当に痛みに悩まされている人にとっては、一時でも痛みが軽減するというのは、文字通り心身共に救われているように見えます。
正直なところ、私もかつては根本治療にならないことに対して、否定的に捉えていましたが、経験を重ねていく内にそういうのを目にしてしまうと、一概に対症療法が悪いとは言えなくなりました。
ただ、ある一定レベルまで症状が軽減されたり、メンタル的にも少しでも前向きになってきた際には、後は可能な限り根治療を目指すに越したことはありません。
筋肉由来の痛みに関しては、その根治療に繋がる一つの手段が”姿勢の改善“になります。
たかが姿勢、されど姿勢。
侮るなかれです。
というのも、私自身、姿勢の改善で腰痛に悩まされることがなくなった一例の本人でもあります。
(一医療従事者の端くれとしては、n=1症例報告のようなことを声高に言うことはあまり好まれない行為ではあるのですが、そこは個人ブログということで大目にみていただければと……)
私は若くして、腰痛がありましたが、姿勢を気を付けるようにしてからは完全に消失しました。
それ以来、10年以上腰痛はありませんでした。(過去形)
すみません……。あくまでも過去形です。
最近になって過去形になってしまいました……。
というのも、比較的最近にコロナに感染してしまい、40℃超えの熱発をするわ、のどが痛すぎて水を飲むことすらきついわで、数日の間、ほとんどまともな食事もとれずに完全に寝込んでしまいました。
ホントにきつくて朝から晩までず~っと寝ていた生活を何日も続けていたのですが、その結果、久々に腰痛を再発してしまいました。^^;
「そういえばこんな痛みだったな……」といった感じで10年以上ぶりに腰痛と再会しました(苦笑)
今はまた腰痛は消失しましたが、それくらいに姿勢の影響というのは身体に大きな影響を与えます。
言い換えると、姿勢の改善は腰痛の軽減効果を見込める立派な治療手段の一つになります。
5.姿勢のチェック方法は?
腰痛に対しても、姿勢が大事ということはわかりました。
しかし、ここで問題となるのが、「自分の姿勢は意外とわからない」ということです。
傍から見れば、姿勢の悪さというのはわかりやすいものです。
しかし、自分の姿勢となると第三者から指摘してもらうまでは意外と気づけないことが多いのです。
また、周りから指摘されるくらいというのはだいぶ姿勢が悪いと思って頂いた方が良いかもしれません^^;
姿勢のタイプにもよりますが、「周りからは姿勢の悪さを指摘されたことがない」といった人でも、脊柱を細かくみていくと、問題点が浮き彫りになってくる人も多くいます。
ひとつ例を挙げると、Flat back(フラットバック)と呼ばれるような、背骨がまっすぐすぎるというのも、実はあまりよくない姿勢なのです。
しかしFlat backは一見すると、ピンっとしており、丸まっていないでの姿勢が良く見えます。
そういうタイプの人は、私の経験上、周囲から姿勢が悪いねといった指摘をされことがないといったケースが多い印象です。
そんなこんなで、理想は専門家にチェックしてもらうのが良い”姿勢の評価”ですが、今日は誰でもすぐにできる姿勢のセルフチェック方法を1つご紹介します。
姿勢のセルフチェック方法”OWD test”とは?
それが、occiput-wall distance(OWD) testです!
wallは壁、occiputは頭(後頭)です。
これは壁を背にして立ち、文字通り、壁と後頭部の距離を測るといったものです。
OWDは研究でも使われる実用的なスクリーニングで、主に胸椎後弯(猫背)の有無を確認する時に使われます。
胸椎後弯の有無を見るにあたって、このテストの妥当性及び信頼性は高いことが報告されています。
(感度=71.4%,特異度=76.6%)
(参照:Arpassanan Wiyanad et al:Is the occiput-wall distance valid and reliable to determine the presence of thoracic hyperkyphosis?.Musculoskelet Sci Pract. 2018)
OWD testは実用性が高い。
姿勢の悪さが、筋肉に過剰なストレスをかける原因となり得ることは先ほどご紹介しました。
胸椎に関しては、比較的若い人でも硬くなりやすい部位でもあるので、老若男女含め注意が必要です。
そうした胸椎部分の姿勢を確認するのに、OWDは簡易であり、実用性も非常に高いのでオススメです。
↓のイラストでいうと、”猫背の人”と”スウェイバック”といった姿勢の人は、後頭部が壁から離れていることがわかります。
こういった姿勢分類に関しても、追々取り上げてみたいと思います。
OWD testと各種障害との関連性とは?
また、実はOWDはバランスの悪さ、骨粗鬆症、うつ病、歩く速度の低下などと関連しているといった報告もあります。
(参照:Raffaele Antonelli-Incalzi et al:Relationship between the occiput-wall distance and physical performance in the elderly: a cross sectional study.Aging Clin Exp Res. 2007)
当然ながら、壁に背中をつけた際の後頭部と壁の距離(OWD)は、小さい方が良いとされています。
そして、所説ありますが、その具体的な距離としては5.5cmといった長さを目安にしてみるのは有りだと思います。
OWD testの目安は5.5cm?
なぜなら、このOWDのカットオフ値を5.5cmとした際に
- 骨粗鬆症の有無 (感度 82%, 特異度 72%)。
- 痛みやしびれ・こりの有無 (感度 66%, 特異度 85%)
- 転倒不安感の有無 (感度 76%, 特異度 76%)
のように判別できたといった報告などもあるからです。
(参照:柳田 眞有 他,高齢者の介護予防に有用な簡易姿勢評価法の検討.KMJ KITAKANTO MEDICAL JOURNAL 2015)
OWDはあくまでも胸椎部分の評価にはなりますが、このように痛みやコリの有無とも関連していることがわかっています。
目安としては5.5cmですが、仮に後頭部を壁につけることができて、顎をひいた状態ができたとしても、その状態がやや苦しい人は注意が必要です。
理想はそういった状態でも、何ら苦しくなく、自然体であることが理想です。
また、そうした姿勢が辛くなく、これに該当しない人であっても筋肉由来の痛みを持っている人もいます。
そういった人は胸椎の後弯が問題となっておらず、また別の理由から腰の筋肉にストレスがかかり、筋肉由来の痛みが出てしまっている可能性が高いです。
そうしたケースもまたご紹介していきたいと思います。
あくまでも今日は、腰の筋肉由来の痛みに繋がる原因の一つである胸椎の後弯の有無のチェック方法のご紹介となります。
胸椎の後弯……いわゆる猫背は人に与える見た目の印象もだいぶ変わってしまうので、気を付けたいとろこですよね。
猫背が気になる方は、良ければこのセルフチェック方法を試して頂ければと思います。
また質問等ありましたら、お問合せフォームやコメントから気軽にお問合せください^^