ここ数年患者さんの中でも、
「筋膜リリースってどうですか?」
とか
「それって筋膜のことですか?」
と聞かれることが多くなった気がします。
中には数年前のことですが、
「この前、テレビでFascia(ファッシア)っていうのが取り上げられていたんですが、今やってくれている施術と同じようなことが紹介していました。」
といったことを私に話してくれた患者さんもいました。
筋膜はともかく、当時、患者さんの口からFasciaといった言葉が出てくるとは思わず、少しびっくりしたのを覚えています。
筋膜やFasciaという言葉を聞いたことある人はいるかもしれません。
特に筋膜と聞くと、こんな道具を連想する人もいるかもしれません。
↓
中にはこれを使って、こんなことをしたことがあるという人もいるかもしれません。
↓
こういうのはセルフの筋膜リリースでよく取り上げられていますね。
これに対してFasciaのリリースはこういった方法が取り上げられることは、ないと思います。
今日はそんな筋膜/Fasciaについて、ご紹介したいと思います。
目次
1.筋膜、Fasciaって何?
筋膜とFasciaは別物?
まず、筋膜とFasciaは少し紛らわしいのですが、両者は時に混合して使われることがあります。
というのも、Fasciaの定義に関しては、現在も国際的に議論されており、まだ定義が確立しているとはいえない現状だからです。
ちなみに医療現場ではFasciaと筋膜は基本的に区別することが多いです。
Fasciaを筋膜と同様の意味で使われる場面はありますが、多くの場合、筋膜はMyofasciaとして区別することが一般的です。
筋膜は文字通り、筋肉を包む膜ですが、Fasciaはもう少し広い意味を持ちます。
Fasciaの定義とは?
Fasciaの定義の主要な候補としては、以下のようなものがあります。
筋膜Myofasciaに加えて腱、靱帯、神経線維を束ねる結合組織、脂肪組織(脂肪体含む)、腹膜・胸膜・心膜・髄膜など内臓を包む膜など骨格筋と無関係な部位の結合組織を含む概念であり、その線維配列と密度から整理されます。
(参照:一般社団法人 日本整形内科学研究会)
凄く雑な言い方をすれば、筋肉に限らず、腱や靭帯、神経、各種臓器などもつないでいるありとあらゆる結合組織のことをFasciaと呼びます。
筋肉に限らずですが、私たちの身体は様々な組織でできています。
そういった筋肉や内臓といったものを包んだり、繋ぐ存在がなければ、当然ながらバラバラになってしまいます。
それら多種多様な組織を包んで、結び付けているのが結合組織です。
2.Fascia/筋膜関連の話題は少し注意が必要?
私自身、リハビリ現場で時に、Fasciaや筋膜についてアプローチすることがあります。
イメージしやすい言葉でいうと筋膜リリースですね。
リハビリ現場でも該当しそうな患者さんに対しては、よく用いる手技の一つです。
しかし、正直なところ、私は普段から患者さんに聞かれた際にも、筋膜,Fasciaについて説明するには躊躇……とまではいきませんが、少し注意しながら話すことが多いです。
というのも、筋膜やFasciaに関しては、やや懐疑的に見る方もいるからです。
(反対に万能論のような過剰な効果を喧伝しているような場合も……)
そして変な話、その治療手技を用いている私自身からしても、その懐疑的になってしまう意見や気持ちも少しわかります。
そのため、筋膜,Fasciaについては、今日はそういった少し複雑?な背景についても取り上げたいと思います。
3.Fascia/筋膜に対してのアプローチは大事。
まず私の立場の結論を先に話すと、筋膜やFasciaについてはその治療手技含め、非常に有用性の高いものだと実感しています。
筋膜やFasciaの問題は画像所見ではわかならない?
というのも、レントゲンやMRIといった各種画像所見で異常がなかったり、色んな治療院に行っても症状がよくならなかったといった人の中に、筋膜/Fasciaのリリースを行うことで改善する例がかなり存在します。
安静にしている時にも痛い、もう何年も痛みを抱えている、しびれがある……といった、一見症状が強くある方でも、関連組織をリリースすることで、そういった症状が改善する例が多くいます。
勿論、筋膜/Fasciaリリース自体は万能ではありませんし、該当しない人に対しては私はその手技を用いることはありません。
用いたところで症状は改善されないでしょう。
ただ、そういった手技が必要なケースは往々にして、静止画の画像所見では問題が表面化されないことが多いので、見過ごされやすい印象があります。
そのため、整形外科でも”異常”なしと判断され、薬や湿布の処方、時に物理療法を実施し経過をみます。
それでも症状の改善が見られなかった人は、民間の治療院を訪れるかもしれません。
しかし、その訪れた先がマッサージ系の手技や関節に対しての手技、時に運動療法といった対応だけであれば、症状が軽減されず持続する可能性が高いです。
筋膜やFasciaの問題は直接アプローチしないと改善しにくい?
私の印象論で恐縮ですが、筋膜やFasciaが問題になっている人に対しては、何らかの方法でそこを直接リリースをする系統の手技でないと改善しないことが多い印象です。
原因にもよりますが、ある一つの原因に対して、アプローチ方法が違っても功を制することは多いですが、私の経験上では筋膜/Fasciaに問題がある方に限っては、本当にそれに限局したアプローチでないと改善が見込めないことが多い印象です。
そのため、私は問診をした際に、少しでも該当する可能性があると考えた場合は、筋膜/Fasciaの評価をするようにしています。
4.何でFascia/筋膜に対して懐疑的な意見があるの?
筋膜/Fasciaの治療に関して、懐疑的な意見がある理由とは?
その理由について、ウエイトの大きそうなものを2つご紹介します。
理由①Fasciaや筋膜の問題は画像ではわからない。
まずはFasciaや筋膜というものは、整形の3種の神器でもあるレントゲンやCT、MRIといった画像所見ではわからないといった理由です。
例えば、変形性膝関節症や変形性股関節症などであればレントゲンでわかります。
骨(関節)が変形しているといった器質的な問題が明確なので、そこに痛みがあるのは当然だろうといったロジックが組み立てやすいです。
脊柱管狭窄症などでMRIを撮ったところ、神経の圧迫を認めた……これも神経の圧迫といった明確に器質的な問題があることがわかります。
そのため、神経症状がでていても不思議ではないといった判断ができます。
これらと違ってFasciaや筋膜といった問題は、レントゲンやCT,MRIといった整形の3種の神器では問題を抽出することができないのです。
そうなると、当然ながらこれらの検査だけでは器質的には”異常なし”となってしまいます。
また、それら画像所見で異常所見があっても、実は痛みの原因はFascia関連からくるものであるといったケースも考えられます。
その場合は、仮にFascia,筋膜由来の痛みであったとしても、関節の変形が痛みの原因だろうといったことになる可能性もあります。
(骨の変形は不可逆的なものなので、それら画像所見だけでは、今回の痛みの原因が変形によるものなのか、それとも元々変形があって、今回の痛みとは関係ないのかまでは実は判断がしきれないのです。)
そして、Fasciaや筋膜の問題で痛みがある人に対して、関節の問題だと判断してリハビリ治療をしても改善を図れない可能性が高くなります。
なぜなら、先ほども取り上げたように、Fasciaや筋膜に対して問題がある人に限っては、それに限局したアプローチを実施しないと改善しない場合が多いからです。
ただこの画像所見として映らないといった問題に関しては、近年解決されつつあります。
そのことに関しては、後ほどご紹介します。
理由②筋膜やFasciaの治療に関して語られがちな『3た論法』
筋膜やFasciaの治療に関して多いのが、
- 痛みを抱えた人がいる。
- 筋膜/Fasciaリリースを実施した。
- 痛みがなくなった。
- この治療法が有効だった。
といったロジックです。
?
一見、何が悪いの?といった印象を受けるかもしれません。
しかし、実は医療の世界ではこういったロジックは「3た論法」といって非科学的な考え方なのです。
その理由に関しては、医療の歴史を振り返る必要があるのですが、過去に私のブログでも取り上げたのでご興味ある方はそちらをご参照ください。
過去ブログ参照↓
私が冒頭で、筋膜やFasciaに関しての情報発信を少し躊躇してしまう理由がここにあります。
筋膜やFasciaに関しては、私の現場経験からしても、非常に重要で、ここに対する治療は有益であると実感しています。
しかし、エビデンス的にはまだ途上であり、どうしてもこうした「3た論法」から抜け出せていないところもあるからです。
ここに関しては、しばらく年数の経過が必要になってくると思います。
反対に言うと、この理由②も今後、時間の経過とともに解決されていくだろうと私は考えています。
チャンピオンデータだけでなく、今後、臨床研究が進み、今以上に信頼性や再現性の高いデータがだされてくる分野だと思うので、私もそれら情報をどんどん収集していきたいと思っており、比較的明るい見方をしています。
5.整形外科の新たなる神器。
やや懐疑的とされる面をご紹介しましたが、それでもFasciaの治療に関しての注目や実際に行われる数は今後増えてくるのではないかなと思っています。
というのも、先ほど問題にあげた点に関しても、解消されつつあるからです。
エビデンスの面に関しては、今後、様々な研究報告がされることでもっとクリアになってくることは触れました。
そしてその前に挙げた、理由①の”Fasciaは画像にうつらない”といった問題ですが、これも現代ではほぼ解消されています。
整形3種の神器+αの存在。
レントゲン、CT、MRIが整形の3種の神器と言いましたが、現代ではこれに加えて、もう1つの医療検査機器が加わります。
それが超音波診断装置(エコー)です。
エコー自体に関しては、また別途、ご紹介しようと思いますが、このエコー機器の誕生でFasciaに対して可視化した状態での治療が可能となりました。
Fasciaに対する治療は、私が用いているような徒手療法だけではありません。
Fasciaへの治療手技とは?
医師もとある治療手技を用いて、Fasciaに対して治療を行うことがあります。
それが”ハイドロリリース“です。
ハイドロリリースとは、Fasciaに対して、注射で薬液を用いてリリースすることで、鎮痛効果や可動域の改善を図るといったものです。
そして注射する際は、エコーを用いて行うのですが、そのエコーのおかげで、正確に目標とするターゲットへアプローチすることが可能となっています。
使用する薬液によって、メリット/デメリットはそれぞれ異なりますが、主に生理食塩水が用いられます。
(その他では重炭酸リンゲル液、局所麻酔薬などを用いる場合もあります。)
ハイドロリリースの標的が正確であれば、薬液は少量であっても痛みが劇的に消失する場合があります。
こういったエコーを用いた注射(神経ブロック)は単純な治療という意味合いだけでなく、診断的治療として非常に役に立つと話される医師もいました。
実は私もリハビリでエコーを使用するのですが、色々と難しさはあるものの、非常に良いです。
エコーを用いることで、患者さんの身体の中の組織の損傷具合や動きといった状態をリアルタイムで把握できるので非常に有用です。
自分がリハビリを行う上でも、評価の幅が広がりますし、患者さんにも説明しやすく、ピタッとハマる場合にはすごく納得されやすいので、臨床でもエコーの存在に助けられています。
そんな運動器エコーの魅力に関してもまたご紹介したいと思います。
6.まとめ
Fasciaや筋膜の治療に関しては、一歩間違えるとやや胡散臭い感じになってしまいますが、私個人としては非常に有用な治療手技の一つだと考えています。
ただ、私の経験から述べると、あくまでもFasciaに問題があって、そこにある程度ピンポイントでアプローチできないなら、当然ながら効果は期待できません。
先ほどのエコーガイド下でのハイドロリリースや神経ブロックにしても、狙いが間違っていれば効果はでないとされています。
巷の民間の治療院や、私が今まで出会った人の中の一部には、筋膜リリース万能論みたいなことを吹聴していたり、「筋トレなんか意味ない、筋膜で解決できる」といった、かなり偏った主張をされる方もいました。
身体の様々な組織を包み、繋げている膜(Fascia)は非常に重要です。
時に激しい痛みや可動域制限の原因となり得るのも、今となっては周知の事実となってきています。
しかし、当然ながら”それが全て”ではありません。
ここは念頭に置いておく必要があると思います。
Fasciaの評価はエコーを用いたりしない限りは、視覚化することはできません。
そういった特徴が相まってか、一歩間違えると独善的な万能論に陥ってしまうセラピストもいます。
それと同時に、私の経験上、Fasciaが原因で痛みが出ている人に対しては、徒手療法含め、Fasciaに対してのアプローチを施行しない限り、症状が良くならないケースが非常に多い印象があります。
Fasciaは痛みの評価/治療を行う上で、かかせない要素の1つだと感じています。
こういったことから、難しいところですが、「重要だけど、万能ではない」といったことを念頭に置き、バランスよく捉えるがあると思います。
今日は、ほんの触り程度でしたが、Fasciaは年々、注目が高まってきている分野です。
そのためエビデンスベースの話も含めて、また取り上げたいと思います。