肩こりで悩まされている人は多いと思います。
街中にあるマッサージ屋さんや整体でほぐしてもらっている人もいるかもしれません。
ただ、その時は良くても時間がたつとまた肩が凝る、首が痛くなるといったことを経験している人もいるかもしれません。
そうなると、またマッサージ屋さんを利用するといった繰り返し……。
それ自体は悪いことではありませんが、時間やお金の面でコストがかかってしまうのも事実です。
そこで一つ、今日ご紹介したい内容なのですが、
もし自分で専門家によるマッサージと同等の効果が得られるなら、コストをかけることなく、おうちでセルフケアできる方法を知っておいて損はないと思います。
勿論、受動的なマッサージと違って本人の頑張りが必要にはなりますが、もし「自分の身体のことはなるべく自分で改善したい」といった考えをお持ちの方には有益な情報だと思います。
今日はそんな人に向けて、専門家によるマッサージと同等以上の効果を認めた方法について、とある研究論文を参照しご紹介したいと思います。
(※参考・引用論文は最後に記載しています。)
目次
1.マッサージの効果とレジスタンストレーニングの効果を比較。
論文の概略。
論文の概略を簡単にご紹介すると、慢性的な首の痛みを抱えている人に対して、マッサージを行った場合とレジスタンストレーニングを行った場合の効果の比較をしたものになります。
レジスタンストレーニングとは、筋肉に抵抗を加えた体操のことであり、いわば筋トレです。
そして、結論を先に述べると、マッサージを受けた人よりも、レジスタンストレーニングを行った人たちの方が効果が高かったといったことが報告されています。
2.肩こりに該当する英語は存在しない?
慢性的な首の痛み≒肩こりとなる理由。
ここで少し補足になりますが、先ほど、【慢性的な首の痛み】と言いましたが、肩こりの解消の効果があると捉えても差し支えないと私は考えています。
あえて直訳すれば“stiff shoulder”といった表現になるのかもしれません。
英語論文での”肩こり”に該当する用語とは?
しかし、様々な英語の論文を参照していると、肩こりといった症状に該当するので多い表現としては以下のようなものになります。
- neck pain
- chronic neck pain
- nonspecific chronic neck pain
- cervicao-brachial pain syndrome
見ての通り、neckやcervicoといった首/頸部といった言葉を使われることが大半です。
日本のように肩に関連した呼び方はむしろ特殊な例であり、多くは首に関連しているのです。
そして、今回参照する医学研究論文も“chronic neck pain”(慢性頸部痛)の症状を呈した人に対して行われたものです。
3.肩こりと関係の深い筋肉とは?
肩こり筋とは?
ただ、ご安心ください。
この論文でのアウトカム……つまり治療効果の指標に使われたものは、首の痛みだけではありません。
同論文内のアウトカムとして使用されたのは、首の痛みや障害レベル、QOL(生活の質)、首の可動域といったものが指標とされましたが、それ以外にも、【僧帽筋上部線維の硬さ】といったものも含まれています。
僧帽筋上部線維とは以下イラストで黄色の丸で囲った筋肉になります。
↓
この肩こり筋が硬いことは、肩こりの原因の一つとなり得ます。
そして、今回参照した論文は、マッサージをしたグループとは、まさにこの”肩こり筋”に対してマッサージをしたものになります。
しかし、そこにダイレクトにマッサージしたグループ以上に、レジスタンストレーニングをした群の方が効果が高かったことが報告されています。
4.研究内容のご紹介。
研究内容の概要。
一応、どういった人たちに、どういった期間・頻度を実施して、比較したかについては以下に記します。
↓
【対象】
・29~66歳のボランティアで首の痛みが主訴の人達。
・首の痛みは3か月以上続いている。※外傷歴、首の手術歴、首の骨折歴、がん、炎症性リウマチ性疾患、重度の精神障害、妊娠の人たちは除外。
【実施内容】
・マッサージを行うグループとレジスタンストレーニングを行う群をランダムに振り分け。
・期間は両方ともに4週間、週5回実施。※実施されている4週間はその他の治療は実施しない。
【効果判定】
・首の可動域。
・首の痛み。
・機能障害レベル。
・QOL(生活の質)
・肩こり筋の硬さ。
こういった内容で比較した研究であり、詳細は省きますが、研究の結果、両方ともに一定程度の効果はありましたが、その効果の高さとしては全体的にレジスタンストレーニングの方が高い傾向にありました。
マッサージの内容としましては、専門家が筋膜リリースやトリガーポイントリリースを行いました。
施術部位は僧帽筋に限らず、後頭下筋なども実施したといったものでした。
運動療法の重要性とは?
これが示唆するものとしては、私のようなリハビリ職の立場であれば、「手技だけでなく、しっかりと適切な運動療法も取り入れたリハビリを展開した方が患者さんの症状が良くなる可能性が高いのではないか」と考えることができます。
また、そういった症状を抱えている人からすれば、専門家による手技を受けずとも、適切な運動(レジスタンストレーニング)を行うことによって治療効果が見込める可能性が高いとも言えます。
普段、肩こりや首の痛みに悩まされて、繰り返し通うよりも、上手く運動ができればある程度自分でも治療できる可能性があるのです。
5.首の痛み、肩こりに効果のあった運動方法とは?
レジスタンストレーニングの内容は?
では、実際にこの研究で効果を認められたレジスタンストレーニングの内容についてご紹介します。
運動内容は以下の通りです。
↓
【使用道具】
セラバンド(緑)
【運動プログラム】
・ウオーミングアップ5分。
・メイン20分。
・クールダウン5分。
【メインの運動プログラム】
・チンインエクササイズ。
・長座位でのシーテッドローエクササイズ。
・ベントオーバーロー。
・肩甲骨の引き込み運動。
・スタンディングロー。
・椅子に座った状態でのシーテッドロー。
・レットプルダウン。
・スタンディングチェストプレス。※全てセラバンド(緑)を使用し抵抗をかけての実施。
【運動量】
・4週間実施。
・最初の1~2週目は各プログラムを10~15回×3セット実施。
・3~4週目は各プログラムを15~20回×3セット実施。
参考に実際の論文より、画像を引用させていただきます。
↓
Resistance training program: (A) chin in, (B) seated row in long sitting, (C) bent over row, (D) scapular retraction, (E) standing row, (F) seated row in sitting on chair, (G) let full down, and (H) standing chest press.
(引用:Taewoo Kang et al.Cervical and scapula-focused resistance exercise program versus trapezius massage in patients with chronic neck pain: A randomized controlled trial.Medicine (Baltimore). 2022 Sep)
6.補足・注意点について。
最後に今回参照した論文をもとにご紹介した内容に対しての補足を、同論文のlimitationと共に補足させていただきます。
私のブログでも取り上げていますが、首の痛みや肩こりは本当に多種多様な病態があります。
そのため、一口に首の痛み・肩こりといってもその原因も多種多様です。
したがって、当然ながらではありますが、今回ご紹介した内容は一定程度の有効性は見込めるものの、病態によっては適応とならない場合があります。
そういった理由から、今回ご紹介した体操を取り入れる際に、もし痛みや不調があった場合は避けていただくことが賢明です。
そういった場合は一度、整形外科に受診するといった選択肢も考慮する必要があります。
ただ、今回ご紹介いた内容の運動は私の日々の臨床経験からも肩こりや首の痛みにとって良い運動であると考えられるため、とりわけ不調がでるといったものでなければ継続して実施していただくことがおすすめだと感じております。
首の痛みや肩こりがある人はそうでない人と比べて、いくつかの特徴があることが様々な研究で報告されています。
その一つとして、特定の筋肉の筋力低下や萎縮が認められているといった報告もあります。
そのため、理想は首の痛みや肩こりに関係するそういった筋力の評価、筋肉の状態などを専門家に確認してもらったうえで、運動指導をしてもらう方が良いと考えられています。
この点に関しては、もちろん私にご相談頂いても構いません(笑)
もし、今回のことに関してのご質問や、それ以外でも取り上げて欲しいテーマ等があれば、引き続きお問い合わせフォームから気軽にご連絡ください^^
最後に今回参照した論文のリンクを下記に記します。
今回、参考した論文は無料で全文読むことができますので、ご興味ある方はご参照ください。
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