とても興味深い論文を目にしたので、ブログで取り上げたいと思います。
筋トレッチングとは”筋トレ”と”ストレッチング”を掛け合わせた造語になります。
筋トレ×ストレッチングです。
ちょっと待って…。
それの組み合わせってどういうこと?
人によってはそんな疑問が巡るのではないでしょうか。
今日はそんな一見、不可思議に感じる【筋トレッチング】についてご紹介します。
1.筋トレは筋肉を柔らかくする?
同志社大学での研究報告。
今回ご紹介するのは日本の同志社大学で行われた介入研究です。
発表されたのは最近であり、2024年7月18日です。
どういったものかを先にいうと、筋トレでもストレッチのように筋肉を柔らかくなる効果を発見したというものです。
筋肉を柔らかくするには静的ストレッチが主流だった。
従来、筋肉の柔軟性を出すための一番地といえば静的ストレッチ(スタティック・ストレッチ)です。
ただ私のブログでも取り上げたことがありますが、静的ストレッチには急性効果として、「一時的に身体的パフォーマンスを低下させる」といったデメリットもあることをご紹介しました。
過去ブログ:ストレッチの誤解を解く!ストレッチのメリットとデメリットを解説!
そのため普段の柔軟性を出すのには静的ストレッチが向いていますが、運動前などの場面では動的ストレッチを実施するのが良いとされています。
しかし、今回はなんとそういったストレッチだけでなく、筋トレでも筋肉を伸ばしながら行うことで筋肉の柔軟性がアップすることがわかったのです。
2.筋トレッチングの研究。
研究内容のご紹介。
実施された研究の内容をまとめると以下のようになります。
↓
【対象者】
健康な若年男性36名【比較グループ】
①週2回、トレーニングを行うグループ。
②週3回、 〃
③対照群(上記のトレーニングを実施しないグループ)【トレーニング内容】
遠心性収縮のみのスティフ・レッグ・デッドリフト。
運動の可動域の50~100%で1回5秒。(直立状態を0%)【トレーニング期間】
10週間実施。【アウトカム】
介入期間の前後に以下を測定。
①ハムストリングスの硬さ(剪断弾性率)。
②膝を曲げる筋力(最大随意等尺性収縮トルク)。
③個々のハムストリングスの筋肉量。
実施されたトレーニングはスティフ・レッグ・デッドリフトと呼ばれるものです。
これは主にハムストリングスと呼ばれる太ももの後ろから膝裏にかけて走る筋肉を鍛えるトレーニングになります。
デッドリフトという言葉自体は聞いたことのある人も多いのではないでしょうか。
デッドリフトは以下のようなトレーニングになります。
↓
「見たことある」という人もいるかもしれません。
一つ補足すると、今回実施された運動は”遠心性収縮のみのスティフ・レッグ・デッドリフト”なので、普通のデッドリフトとは少しだけ異なります。
そういったトレーニングの詳細に関しては今回は省略させていただきます。
研究結果。
そしてこのデッドリフトの派生?トレーニングを実施した結果は以下の通りでした。
↓
Figure 3. Boxplots of the maximal joint range of motion (ROM), passive torque, and maximal voluntary torque in the pre- and post-intervention periods. ○ group mean value, +outlier value.
W2, group with two weekly training sessions; W3, group with three weekly
training sessions; CON, control group.
*: a significant difference before and after the intervention period.
まず週2回のトレーニンググループと週3回のトレーニンググループにおいては、筋力・筋肉量ともに有意に増加したことが認められました。
(最大随意等尺性収縮トルクがそれぞれ20.3%、26.2%UP)
(半膜様筋量がそれぞれ5.7%、7.4%UP)
↓
Figure 4. Boxplots of the shear moduli of the biarticular hamstring muscles in the pre- and post-intervention periods. ○ group mean value, + outlier value. W2, group with two weekly training sessions; W3, group with three weekly training sessions; CON, control group; BFlh,biceps femoris long head; ST, semitendinosus; SM, semimembranosus.
*: a significant difference before and after the intervention period
研究結果に関する補足。
補足として、今回柔軟性の向上を認めたのはハムストリングスの中でも半膜様筋と呼ばれる筋肉のみでした。
ハムストリングスとは以下の絵のように、半膜様筋、半腱様筋、大腿二頭筋と呼ばれる3つの筋肉の総称になります。
(大腿二頭筋は長頭と短頭に分かれます。)
↓
そして今回のトレーニングで柔軟性の向上を認めたのは、この3つの中のひとつである半膜様筋になります。
それ以外の半腱様筋と大腿二頭筋に関しては柔軟性の向上は認められませんでした。
Limitations
最後に今回の論文のLimitationsに関しても軽く触れておきます。
まず今回の研究で筋トレであってもストレッチのような柔軟性の改善効果を認めることがわかりました。
そして、その効果はトレーニングの総量よりもトレーニングの頻度が重要となる可能性が示唆されました。
しかし、今回の研究の中で介入期間中の数週間、トレーニングの頻度を維持できなかった人が数名存在しています。
このことから週の中でのトレーニング頻度の不一致が筋肉の柔軟性の向上にどう影響を与えるのかについては不明であり、今後の課題であるといった主旨の説明がなされています。
また今回、筋肉の柔軟性に関しては超音波診断装置のエラストグラフィーと呼ばれる機能を用いてハムストリングスの一部をそれで測定しました。
そのため、同じハムストリングスの中でも別の部位での柔軟性の変化についても気になるところではあります。
3.筋トレあるある。
筋トレの迷信と新たな可能性。
今回の研究に関して取り上げた記事で、以下のようなことが書かれています。
筋力トレーニングは、筋力向上や筋量増加を目的としてスポーツ・リハビリテーションの現場で広く使用されている。しかし、実践現場では「筋力トレーニングをやりすぎると筋肉が硬くなってしまう」という迷信が存在している。
(中略)
なお、研究チームは今回の成果により、「筋力トレーニングをやりすぎると筋肉が硬くなる」という実践現場での一部の理解を変え、実践現場で長年用いられてきた筋肉を柔らかくするためのアプローチを、ストレッチングから筋力トレーニングへと変える可能性も秘めているとしている。
リハビリ業界での筋トレ。
リハビリ現場でも筋力トレーニングは非常に重宝されます。
様々な運動器疾患のリハビリに関するガイドラインにおいても推奨されています。
勿論、その人の器質的な問題や身体機能によっては、やみくもな筋力訓練が良くないといったケースもあります。
ただし、私の主観ですが現場レベルでのリハビリ業界では筋力トレーニングが少し軽視されているきらいがあるなと感じております。
その理由のひとつとして、上記に引用した内容のように筋トレをやりすぎると筋肉が硬くなるといった考えが広まっているのもあります。
一般的にリハビリと聞くと「リハビリはつらいもの、きついもの」といったイメージを持っている方の方が多いかもしれません。
事実、ひと昔前においてそういった時期があったのも事実です。
リハビリ専門職はマッサージ屋さん?
ただ比較的近年では「リハビリは気持ちよいもの」といった色合いが濃くなっている側面もあります。
極端な例ではリハビリという名の「単なる慰安目的のマッサージをしてもらう」といった状況に陥ってしまっている場合もあります。
そのため時にリハビリ専門職は医師含めその他の職種から「ただのマッサージ屋さん」と揶揄されることもあります。
何とも耳の痛い話です。
ただ正直なところ、私自身「その通りだな」と感じている面もあり……というよりは、むしろそっちの方に近い考えを持っています。
そんなこんなでこの職種をやめようかという考えが頭をよぎったことは数知れず。
徒手療法>運動療法となるケース。
それでも擁護できる面もあり、それは関節や筋肉の硬さによる動きの制限が強い場合は積極的な運動をするよりも、まずはそれらの改善を図る方が良いといったケースが存在します。
というのも、軟部組織を含む何かしらの制限が強いままに負荷の高いトレーニングなどを行うってしまうと更なるケガの発生や痛みの原因に繋がるからです。
しかしその反面、そういったリスクがある程度解消された後は、少なくとも運動器リハビリの領域においては基本的には筋力トレーニング含め積極的な運動療法が推奨されています。
運動療法の大切さ。
マッサージのような気持ちの良いことはその場では満足度は高いものの、中・長期的に見た際の治療効果に関しては注意が必要です。
中・長期的に見た際にはエビデンスレベルにおいてもしっかりと運動療法を実施していく方が治療成績が高い傾向にあります。
それでは運動療法が推奨されているのにも関わらず、先ほどもご紹介したように時に「なぜ”リハビリ職はマッサージ屋さん”と揶揄されてしまうような現状になっているのか?」については疑問に感じるかもしれません。
そういったこともその内とりあげてみたいところです。
少し話が脱線しましたが、こういった筋トレの新たな効果を認めたといった運動療法に関する知見は私のような職種にとっては有難い限りです。
今後の研究にも期待していきたいところです。