運動が続かない理由とは?原因は何?慢性腰痛患者の質的研究からみる運動継続のための重要因子について解説。

【慢性腰痛に対しては、運動が治療の第一選択になる】ということは現在では通説になっています。

しかし、その運動を行う中で一番といって良いくらいに大事でありつつも、最も達成が難しいとされていることがあります。

 

何かおわかりでしょうか。

 

それは”継続”です。

何事においても継続の重要性を耳にすることは多いと思います。

それは慢性腰痛に対する運動療法にとっても例外ではありません。

1回の運動のみで痛みが確実に軽減するわけではなく、継続したり運動の量を少しずつ増やしていくことで初めて効果を認めてくるといったことは多くあります。

事実、運動を継続できている人ほど痛みの軽減や機能の改善が早く、治療効果も大幅に高いといったエビデンスも存在します。

その一方で、慢性腰痛患者の最大70%が処方された運動内容を行うことができていないといったデータもあるようです。

 

継続なくして結果を得ることは難しい…….。

 

しかし、まさに私もそうなのですが、その”継続”が非常に難しい……ったらありゃしない。

 

頭では大事とわかっていながらも続けることができない。

三日坊主になってしまうことも多々ある…..。

 

そんなご経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

 

そこで今日は慢性腰痛の運動療法において、何が運動継続の成功につながっており、反対に何が失敗に繋がっているのかについて調べた研究についてご紹介します。

 

1.質的研究のシステマティックレビューとは?

 

今回参照するのは質的研究のシステマティックレビュー(SR)になります。

 

信頼性が高いとされているSR。

システマティックレビューはエビデンスのピラミッドの頂点に位置するものになります。

ただ、今回取り上げる論文で少し特徴的なのが、”質的研究”のシステマティックレビューであるという点です。

システマティックレビューは複数の文献・論文を一定の基準や方法に基づいてとりまとめた総説のことを指します。

デザイン的に質の高い研究としては一般的にRCT(ランダム化比較試験)が有名です。

しかし、そうした質の高い研究結果一つよりも、同様の質の高い研究を複数集めて分析を行い、そこから導かれる研究結果の方が信頼性が高くなることはご理解いただきやすいと思います。

そのためシステマティックレビューはエビデンスのレベルとして一番高いところに位置しています。

 

量的研究と質的研究の違い。

それだけでなく、個々の研究は時に”量的研究”と”質的研究”に分類されることがあります。

量的研究が数値データに基づいて分析を行い、結論を導くのに対して、質的研究は感情や個人の経験などといった主観的で数値化しにくいものを取り扱います。

そういった質的研究のシステマティックレビューも近年注目を集めています。

今日はそんな質的SR(システマティックレビュー)の内容からの紹介になります。

(参照論文:Yannick L Gilanyi et al.Barriers and enablers to exercise adherence in people with nonspecific chronic low back pain: a systematic review of qualitative evidence. Pain.2024)

2.運動継続の成功を左右する4因子とは?

 

この研究を参照すると、慢性腰痛に対する運動継続の成功を左右する因子は大きく分けて4つに分類されています。

そしてその4つの分類だけでなく、さらに運動前運動中運動後といった3つの時間軸のどこで影響を及ぼすかといったことも紹介されています。

 

慢性腰痛の運動継続に影響を与える4因子。

慢性腰痛患者の運動継続の成功を左右した4つの因子は以下の通りです。

  1. 身体的要因(運動・痛み・身体)。
  2. 心理的要因。
  3. 社会的要因。
  4. 外部要因。

 

これら大きく4つに分類された因子の中身について解説していきます。

 

2-1.分類①身体的要因(運動・痛み・身体)。

 

まず身体的要因で運動療法の継続を左右した因子の1つめは”痛みの変化”です。

”痛みの変化”が与える影響。

痛みの変化については運動前・運動中・運動後すべての段階で影響を与える因子となり得るとされています。

これは想像に難くありませんが、運動前であれば痛みがあるため運動をしないといった強い動機付けとなります。

一方で運動後に痛みが増すと、それはそれで運動をやめる強い動機付けとなってしまいます。

また、仮に運動で痛みが強くならなかったとしても、運動後に痛みの強さが十分に軽減されなかった場合でも、患者は「運動をする価値がない」と感じて運動を中止してしまうといった報告がされています。

しかし、反対に運動中や運動後に痛みが大きく軽減すると運動の継続を後押ししてくれる要因になることが報告されています。

この点に関しては、多くの人が当然と感じるかもしれませんね。

私の実体験としても、とある運動を行うことで痛みが減ることを学習された方は、運動に対して非常に積極的に取り組まれるようになるといったことが多くあります。

中には本人からしても意外だったようで「運動を続けることが嫌いでしたが、こんなに家でも運動を続けることができるとは思いませんでした。」と話される方もいました。

 

こういった経験則が研究結果としても裏付けがとれているというのは非常にありがたいことです。

それと同時に慢性腰痛の運動療法継続に関して、”痛み”は非常に重要で意識すべき指標であることを改めて感じさせられます。

 

”生理学的な反応”が与える影響。

また運動によって生じる生理学的な反応も運動継続に影響を与えていることがわかっています。

例えば、汗をかく、心拍数の増加、疲労といった反応は、運動中や運動後の不快感として運動継続の妨げになるとされています。

これは運動嫌いの人にとっては、わかりみの深いところではないでしょうか。

運動嫌いの理由として「わざわざ疲れることをする意味がわからない」、「汗をかくのが嫌だ」といった意見はよくあります。

 

生理学的な反応で、逆に運動継続の後押しになっているポジティブ因子としては、持続的な運動後に生じる体力や筋力の向上といったものがあげられています。

人によっては、先にあげた汗をかくことや疲労といった、本来であれば運動継続のネガティブ因子となっている要素が「気持ちいい」と感じる人もいるかもしれません。

もしかしたらそういう方は、過去に成功体験があり、それを学習しているから汗をかいたり、疲れることに対してネガティブにならないのかもしれませんね。

 

2-2.分類②心理的要因。

 

次にご紹介するのが、慢性腰痛に対する運動継続の成功を左右した心理的要因についてです。

”自己効力感”が与える影響。

心理的要因で、運動の継続を左右する因子となったのは自己効力感です。

自己効力感とは「自分の能力を信じ、目標を達成できると感じている」といった、いわば自分自身に対する自信のようなものです。

慢性腰痛の運動継続においては、運動前の自己効力感が重要な因子であったことが報告されています。

安全に、痛みの悪化もなく運動する自信がないという状態は、運動継続を妨げる因子になることが指摘されています。

その自己効力感に最も影響を及ぼすポジティブ因子としては、専門家の存在と共に、運動方法に関する役立つフィードバックや指示があげられています。

つまり、適切な専門家がつき、適切なフィードバックがあることはその人の自己効力感を高める要因になることが示唆されているのです。

 

”モチベーション”、運動に対する”価値観”や”信念”が与える影響。

それ以外の運動継続の成功を左右する心理的要因としては、モチベーション運動に対する価値観信念などがあげられています。

運動に対して高い価値を持っていたり、運動が身体機能と健康を改善し、痛みを軽減するという信念を持っている人はそうでない人と比べて運動の継続率が高いことがわかっています。

また、運動自体に”楽しさ”があることも重要であるとされています。

近年ではゲーミフィケーションという言葉も一般的に使われるようになってきましたが、運動の分野においてもゲーミフィケーションの導入が試みられていたりもします。

ゲーミフィケーションとは、ゲーム外のことにもゲーム要素やゲームのデザイン技術を取り入れることで、モチベーションの維持・向上を図ることです。

つまり、何かの課題に取り組む際にゲーム性を取り入れることで継続率をあげるといったものになります。

 

自己効力感、モチベーション、運動に対する価値観や信念、そして楽しさ。

運動継続の成功を左右する心理的要因は直感的に捉えてもどれも重要であることは想像しやすいですね。

 

2-3.分類③社会的要因。

次が慢性腰痛の運動継続の成功を左右する社会的要因です。

社会的要因にはアドバイスサポート内容環境の重要性が指摘されています。

 

”アドバイス”が与える影響。

まずアドバイスに関しては、”運動前”に受けるアドバイスが重要であるとされています。

運動継続にとって良かったとされた具体的なアドバイスの内容は、医療専門家が運動を推奨/処方し、更に痛みに関する教育概念を明確に説明されているといったものでした。

また慢性腰痛に対する運動のメリットに関する提案や逸話の提供も重要であるとされています。

反対に、専門家が運動を勧めなかったり、家族や友人などから”運動をすると痛くなる”といったアドバイスは運動継続の妨げになってしまうとされています。

”サポート”が与える影響。

サポートの内容としては、言葉の励ましの有無一緒に運動する人の有無自主性が認められるかどうか個別の治療でサポートされていると感じるかどうかといったことが運動継続に影響することがわかっています。

家族や友人からのサポートの欠如専門家による監督の少なさは運動継続を阻害する因子としてあげられています。

”専門家との関係性”も重要。

加えて、専門家との関係性も影響することがわかっています。

専門家との関係が良好であれば、運動継続の達成率も高いことが示されています。

2-4.分類④外部要因。

 

最後の外部要因ですが、これは前述したことと被る部分もありますが、これも様々な要素が影響していることがわかっています。

”ライフバランス”の重要性。

まず、仕事や家族といったライフスタイルのバランスや様々な責任の両立をとることは運動継続を阻害する因子であることが示唆されています。

これは現役世代には非常に辛いところです。

仕事が忙しい人や、育児といったことで自由時間の確保が難しい人は運動継続の達成が難しいことがわかっています。

反対に、ある程度の自由時間を持っている人は運動継続を達成率が高いことがわかっています。

 

”リソース”の重要性。

そしてリソースに関しても運動継続の成功の可否に関わっていることが示されています。

具体的には運動器具や施設の有無場所といった地理的問題交通手段、そしてそれらを利用できる資金といったリソースが運動継続には重要とされています。

 

”運動の種類”も運動継続には重要?

加えて少し番外的なところでは、”運動の種類”も継続にあたって重要な要素であるとされています。

ただし、この運動の種類の重要性に関しては、個人の好みに左右されることがわかっています。

運動継続を阻害する要素としては難しい楽しくない退屈な運動(ランニングなど)や社会的アイデンティティに合わない運動(ウェイトリフティングやヨガなど)が含まれていました。

反対に運動継続を促す運動の種類としては、目新しくて興味深く感じる運動過度に複雑でないもの楽しい運動が含まれていました。

しかし、これは先ほども触れたように【個人の好みに左右される】という点は意識しておきたい点だと思います。

それこそ、運動継続を阻害する運動の種類とされていても、ランニングやウェイトリフティング、ヨガが好きな人は実際に存在します。

 

ここに関しては、難しく考えず自分に合った運動を見つけることが重要になるのかなと個人的には思っています。

 

3.まとめ。

 

いかがでしたか。

少し省略した部分もありますが、ここまでを少しまとめたいと思います。

まず慢性腰痛に対する運動継続において、成功の可否に関わる要因は大きく4つに分類されます。

 

それが以下の4つです。

  1. 身体的要因(運動・痛み・身体)。
  2. 心理的要因。
  3. 社会的要因。
  4. 外部要因。

そしてこの4分類のうちの小項目として以下のような要素が存在します。

【運動継続のための重要因子】

①身体的要因
(運動・痛み・身体)
・痛みの変化
・生理学的反応
・合併症
・運動前後の幸福感。
②心理的要因 ・自己効力感。
・専門家の存在。
・運動方法に関する適切な指示やフィードバックの有無。
・モチベーション。
・運動に対する価値観や信念。
・楽しさ。
③社会的要因 ・アドバイス。
・運動のメリットに関する提案や逸話の提供。
・専門家による推奨の有無。
・家族や友人などのアドバイス。
・サポートの有無。
→サポートされている実感。
・運動仲間の有無。
・自主性が認めらているかどうか。
・専門家による監督。
④外部要因 ・ライフスタイル。
→仕事や家庭の両立は阻害因子。
・自由時間の有無。
・リソースの有無。
→器具や施設。地理問題。交通手段。金銭面。
・運動の種類。
→好みに依存する傾向。

 

加えて、これらの項目がそれぞれ運動前運動中運動後といったそれぞれの時期別に運動の継続に影響を与えていることが示されています。

 

参考程度に参照論文の原文から図を引用させていただきます。

Figure 2.
Barries and enablers to exercise adherence at different time points. The horizontal bars represent the exercise time points (pre, during, and/or post-exercise) that barriers and enablers span across.

(引用元:Yannick L Gilanyi et al.Barriers and enablers to exercise adherence in people with nonspecific chronic low back pain: a systematic review of qualitative evidence. Pain.2024)

 

運動に限らずですが、【継続】というのは非常に難しいですよね。

ただ運動療法の分野においても、継続の効果、継続することによって受ける恩恵は非常に強力です。

今回は、慢性腰痛患者に対する運動継続のための因子の紹介でしたが、慢性腰痛患者特有に認めたものもありますが、一方で腰痛と関係のない人の運動継続のための重要因子と共通している部分もあることが指摘されています。

ちなみに慢性疾患を持つ人を対象にしたこれまでの研究で、運動の継続に関連する因子は200以上あることがわかっているようです。

 

200以上というのもすごいですね。

どこから手をつけたら良いのか……となってしまいますが、逆に言うとそれだけ工夫する余地があるということでもあると思います。

そのため、腰痛とか関係なく、もし運動が続かなくて困っている方は今回紹介した内容で、「改善できそう、取り入れられそう」というものがあれば試しにピックアップしてみるのも良いかもしれません。

 

4.補足。

最後に今回、参考した論文の補足についてこちらで紹介します。

論文の選択プロセス。

今回、参考にした論文はシステマティックレビューであり、複数の論文を統合したものになります。

そのためテーマに関連する論文の特定から始まり、その後にスクリーニングをかけ、適切と厳格に判断された論文が統合されています。

今回のSRは2023年2月28日までに公表されている論文の中で最初に特定された論文数は27,983件になります。

そこから様々なスクリーニングがかけられた結果、最終的には23件の論文(21件の研究)までに絞られました。

こうやって数だけをみると、まさに選び抜かれたといった感じですね。。

選定のプロセスは下の図をご参照ください。

Figure1.
Prisma 2020 flow diagram outlining the study identification, screening, and inclusion processes. CLBP, chronic low back pain.

(引用元:Yannick L Gilanyi et al.Barriers and enablers to exercise adherence in people with nonspecific chronic low back pain: a systematic review of qualitative evidence. Pain.2024)

研究の対象者の属性。

研究の対象者の属性としては、あらゆる国や医療機関で腰痛症状を抱えている18歳以上の成人になります。

対象となった腰痛症状は第十二肋骨~殿部の間のエリアに3か月以上続く痛みになります。

腰痛が3ヵ月未満であった研究、腰痛の原因が感染症や腫瘍、骨折、炎症疾患であった研究、参加者の20%以上が神経根障害を伴う下肢痛のあった研究などは除外されています。

 

(参照論文:Yannick L Gilanyi et al.Barriers and enablers to exercise adherence in people with nonspecific chronic low back pain: a systematic review of qualitative evidence. Pain.2024)

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