筋肉は、夫婦関係に似ている──消えるときは、そっと。
「筋肉は裏切らない」っていうけれど──ちょっと待って、それ本当?
①筋肉との関係は夫婦関係を参考に?
筋肉は、夫婦関係と似ているのかもしれない。
かつては一緒に苦楽をともにし、支え合ってきた仲──だけど、ふとしたすれ違いや年月のせいで、ある日そっと消えている。
愛は短命。でも筋肉はその逆をいく
日本の離婚率はおよそ35%。
思ったより多い。
けど私も年々、離婚歴のある人に出会ったり、知り合いの夫婦が離婚したといった話を聞くようになってる。
離婚って珍しいことじゃないって聞くけど、確かにこの割合をみるとそれも頷ける。
離婚は「同居5年未満」の夫婦がもっとも多く、次いで「5〜10年未満」が続くらしい。
私はこれを見て、愛の平均は意外と短命なんだなって感じた。
筋肉との絆は短命ではない…けど?
でも、筋肉はその逆をいく。
若い頃はつき合ってくれるけど、年齢を重ねるとだんだんと離れていく。
いわば熟年離婚型のパートナー。
きんに君、若さだけがすべてじゃないんだよ……と私の中の老婆心が顔を出したがる。
468人を対象にした研究でも、年齢が上がると筋肉量は下がる──そんなシンプルな反比例の関係が示されていた。
(参照:I Janssen et al. Skeletal muscle mass and distribution in 468 men and women aged 18-88 yr.J Appl Physiol (1985). 2000 Jul)
筋肉との同棲生活も諸行無常だ。
関係が長くなるにつれて、付き合いの密度も濃く……といった”右肩上がりロマンス”は筋肉界隈ですら存在しないらしい。
筋肉がいなくなる時は離婚届のような形式ばった手続きはない。
気づけばどっか行ってる。
いわば夜逃げスタイルだ。
私からしたら、なんて不義理なスタイルなんだって不満の一言でも言いたくなる。
けど、その不義理スタイルは因果応報……自分の行いが生んでしまった結果かもしれない。
そう突っ込まれると、私の口は貝のように口を閉ざざるを得ない。世界最大のオオシャコガイにだって負けなくなってしまう。
その突っ込みはいけない。
ただ、筋肉との別れを防ぐには、この夜逃げに気をつけないといけないのはどうも事実のようだ。
②夜逃げのタイミングは45歳──筋肉たちは静かに出ていく
じゃあ、筋肉が本格的に夜逃げを始めるのはいつ頃なのか?
同じ研究によれば、それはおよそ45歳前後らしい。
人間の離婚でいえば“再婚しない派”が増えだす頃だろうか。
再構築より、静かな別れを選ぶタイプ。
なかなかドライな個性が垣間見える。
先に出ていくのは、太ももとお尻
そして筋肉にも決断が早いタイプとそうでないタイプがあるみたい。
特徴として、筋肉は上半身より下半身の方が先に別れ話を切り出してくる傾向にある。
つまり、腕の筋肉は「もうちょっと一緒にいるよ」と言ってくれるけど、
太ももやお尻の筋肉たちは妙に静かだと思ったら、もうキャリーバッグに荷物を詰めている。
一緒にいたあの頃のぬくもりは、いまや記憶の中だけ。
ってなりかねない。
実は25歳から始まっている?筋肉の“別れのサイン”
【筋肉の夜逃げが本格化するのは45歳前後】
この結果を参考にすると、それまでは過度な心配は必要ないかもって受け取り方がベター。
でも安心しきって何もしなくていい──というわけでもなさそうだ。
文献によっては筋肉の夜逃げ(萎縮)は25歳頃からも起こるっていう報告もある。
(参照:J Lexell et al. What is the cause of the ageing atrophy? Total number, size and proportion of different fiber types studied in whole vastus lateralis muscle from 15- to 83-year-old men.J Neurol Sci. 1988 Apr.)
そう、筋肉の“別れのサイン”は、実は25歳ごろからすでに始まっている可能性もある。
ゆっくりと、でも確実に。
人も筋肉との別れも”向き合い方の積み重ね”が大事?
私の知り合いに20~30年くらい前から離婚を考えていたって人がいた。絶対に離婚をすると決めていて実際にその人は50代で離婚した。比較的、最近にその報告を聞いた。
その長年にわたって続いた精神力には素直に感服した。私であれば、仮に幾度とない輪廻転生を繰り返しても真似ができない芸当だ。
必ずメンタルが負けて、蒸発するといった人生を繰り返し続けてしまうのが目に見える。
私の心の辞書には”耐え忍ぶ”といった文字はあっても、フリクションペンで書かれている程度にしかない。
少しこすられれば、何もなかったかの如く消え去ってしまう。
その傍ら、同じく現在50代の別の知り合いで、過去に離婚して子どもと離れることになった人がいる。
養育費も払い終わり、子どもとの関係は良好で数年前に孫も生まれた。その人自身は仕事もプライベートも楽しんでいる。
私から見ればホントに楽しそうに充実した日々を送っている。
私も50代を迎えることになった際にそんなバイタリティ溢れ、楽しく過ごしていたいなって感じさせてくれる人だ。
共通して早い段階で離婚を決意した・実行した二人だけど、私からみればどちらもとても充実した日々を送っている。
そんな二人をみていると、別れたり離婚すること自体に正しいも間違いもないのかもしれない。
左右することがあるとすれば、その前後の向き合い方と積み重ね方である気がする。
その点は人も筋肉も似ている。
筋肉とは別れ前提の付き合い?
ただ、人の場合は一生、寄り添う良きパートナー関係を築ける場合もある。(素晴らしい)
それに引き換え、筋肉は多かれ少なかれ必ず離れていくことが運命づけられているといっても過言ではない。
そうなると、“いつか出ていく相手”だからこそ、今のうちに大切にしておくという考え方も大事になってくる気がする。
過度に不安になる必要はないけど、全く気にかけないとそれが積もり積もってヤバイことになる。
まさに夫婦関係のようだ。
若いうちに少しでも筋肉に尽くしておく。
こうなると、若い時の運動が”将来の夜逃げ率”を下げるための、いわば婚前契約みたいにみえてくる。
私も共依存並みに筋肉の夜逃げ阻止を頑張りたい。
③人間の離婚は自立の一歩。筋肉との離婚は、その逆。
人との離婚は、まだ自立していく道が残されてる。
でも、筋肉との離婚は文字通りに日常のちょっとした”自立”すら難しくなるリスクがある。
”介護されること”を金輪際さけたい私からしたら、これはまさに死活問題。
だからこそ「今が若いから大丈夫」と言い切らずに、“今のうちから仲良くしておく”というのは、大事になってくると思ってる。
しっかり向き合っておくことで、筋肉の壮年・熟年離婚を回避できる可能性は高い。
筋肉との関係にバツイチもバツ二もない。
逃がさないように、今日も私は筋肉に共依存関係を叩き込む。
「筋肉は裏切らない」──でも、まずは自分から
筋肉は適切に向き合えば、ほぼ必ず応えてくれる。
そういう意味では”筋肉は裏切らない”
だけど、こちらが先に“裏切らない”ことが、条件になってくる。
「裏切られたくなければ、まずはこっちが裏切らないこと」
それは人間関係でも、筋肉でも変わらないのかもしれない。
漢気の試される場面だ。
気になる人は「サルコペニア」で検索
今回紹介した加齢による筋肉の「夜逃げ現象」は、医学的にはサルコペニアとも呼ばれてる。
もし気になる人は”サルコペニア”で調べてみると色々でてくるのでオススメ。
大事なのは”筋肉”だけじゃない
ちなみに「筋肉は裏切らない」って言葉はNHKの筋肉体操が元ネタだ。
その言葉関連で”おもしろTシャツ”が売ってあった。
筋肉は裏切らない。
関節は裏切る。
脂肪はいつも寄り添ってくれる。
byおもしろTシャツ
そういうフレーズが共感を得るのもわかる気がする。
私のブログでも、筋肉以外にも、関節や脂肪の話も追々取り上げたいなって思ってる。
ただ、ここで私は少し……
異議あり!
関節と脂肪は悪いように言われがちだけど、私はそうじゃないって思ってる。
関節は気まぐれ屋
脂肪はお節介な親友
──そんなイメージ。
これらもつきあい方さえわかれば、良いところがいっぱいある。
そんな個性を持ってる関節と脂肪の話もしてみたいと思ってる。
筋肉も大事だけど、他の運動器も当然ながらすごく大事になってくる。
運動器はチームだと私は思っている。
チームで無駄なメンバーなんていない。
関節も脂肪も私は大好き。
④本日のちょっとした補足
サルコペニア
加齢により筋肉量が減少していく現象のこと。
サルコペニアの有病率は年齢とともに上昇し
- 75~79歳では男女ともに約22%
- 80歳以上で男性32%、女性48%
といった報告もされています。
サルコペニアのリスクとしては
- 総死亡リスクが男性2.0倍、女性2.3倍高くなる。
- 要介護発生リスクが男性1.6倍、女性で1.7倍高くなる。
と言われています。
(参照:地方独立行政法人 東京都健康長寿医療センター研究所)
参考文献
・I Janssen et al. Skeletal muscle mass and distribution in 468 men and women aged 18-88 yr.J Appl Physiol (1985). 2000 Jul
→18歳から88歳までの健康な多民族(白人67%,アフリカ系アメリカ人17%,アジア系8%,ヒスパニック系7%)の男女468名を対象とした研究。
- 男女両方において、年齢と筋肉量の関係においては負の相関が認められた。
- 男女ともに骨格筋量の減少が顕著に見られるのは”45歳前後”であった。
- 相対的骨格筋量( body mass/skeletal muscle mass)と年齢の関係については、加齢による身体に占める骨格筋量の減少率は男性でより著しいことが示された。
- 年齢の影響を更に検討するために先ほど述べた筋肉量の減少が顕著となってくる45歳を境に、18-44歳のグループと45歳以上のグループに分けた。
→それを参照すると性別を問わず、18-44歳の年齢区分では、全身・下半身・上半身の筋肉量は年齢と関係がなかったとのこと。 - しかし、45歳を過ぎると加齢と筋肉量の関連は強くなり、それも(男女ともに)上半身と比べて下半身の筋肉量の減少が大きいといった傾向が認められた。
・J Lexell et al. What is the cause of the ageing atrophy? Total number, size and proportion of different fiber types studied in whole vastus lateralis muscle from 15- to 83-year-old men.J Neurol Sci. 1988 Apr.