「国の借金が〇〇兆円、国民一人あたり〇〇万円の借金。日本の財政は危機的状況である。財政破綻する。増税が必要である。」
といった趣旨の記事は皆さんも見たことがあるのではないでしょうか。
結論を先に書くと
今日はそんな日本財政破綻論についてのおかしさについて少し書いていきます。
1.日本の財政破綻論とは?
日本が財政破綻するリスクは限りなく低い。
冒頭でも書きましたが個人的には、日本が財政破綻するリスクは限りなく低いと考えています。
ただ経済記事では度々出てくる内容でもありますし、経済記事として書くなら個人的にはまずはこれからかなと思い、取り上げさせていただきます。
ひとまずどういった内容なのかを確認してみましょう。
国の借金〇〇兆円、1人あたり△△万円。
下記の記事は時事ドットコムニュースの記事になります。この内容の記事は数字だけが変わり何年間も繰り返し取り上げられる内容です。
国の借金、過去最大1114兆円 1人当たり901万円
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020050800987&g=eco
次に下記は約5年前の日経新聞の記事になります。
「国の借金」6月末は1057兆円で過去最高 国民1人当たり833万円
https://www.nikkei.com/article/DGXLASFL10HQ8_Q5A810C1000000/
お読みの通り論調としては同じものです。
私もかつてはこの日本の借金問題については特に疑いなく読んでおり、こんなに借金があるなら増税が続くのも仕方ないな〜と漠然と思っておりました。
しかし社会人になり多少の経済情勢も知らないと、と思い勉強を始め、
曲がりなりにも投資を始めるなどのきっかけもあり、これらに対して違和感を持つようになり、今では考えが変わりました。
今日はその理由も含めて書いていきます。
財政破綻論のロジック。
上記の内容のロジックは非常にシンプルで、“政府の総負債の大きさ“を問題としています。
そしてその総負債を国民の人口で割り、国民一人当たり〇〇万円の借金と結論付けておりますが、、、
2.日本の財政破綻論のおかしさとは?
負債だけでは判断できない。
まず大前提として、、、、
バランスシートを見たことがある人はわかると思いますが負債の裏には必ず資産があります。
任天堂を例に考えてみる。
例えばの話ですが、もし負債の額だけでいうならば、、、
個人からしたら4,000億円とは信じられないくらいの大きな額ですが、だからと言って日本を代表するゲーム企業の任天堂の抱えている借金が(個人の感覚として)大きすぎるため今すぐにでも倒産すると騒ぐ人は少ないのではないでしょうか。
現に任天堂はニンテンドーswitchソフト「あつまれ どうぶつの森」が大ヒットし、また新型コロナウィルスによる影響で多くの企業が業績を落としているにも関わらず巣ごもり需要も相まってか売上高は前年同期比2倍以上、営業利益は5倍以上であり、株価も上昇している状況です。
何が言いたいかというと、
任天堂を例にあげると、
仮にもし負債を評価するにしても、それは他の同業会社の負債と比べなければ規模すら把握できません。
それに加え、負債の総額だけを比べて見たところでその負債の中身や裏側にある資産もしっかり評価しなければ何もわかりません。
なのでこれだけでも最初に紹介した記事はある負債の合計だけを提示し、そこから結論を出しているため、情報が足りないまま結論を出している危うさが感じられないでしょうか。
(※ここではわかりやすく企業の財務状況と比較して、問題点を指摘しました。しかし、個人の家計もそうですが企業と国家では当然同様の方法で財政評価をすることが望ましくない場合もあります。家計や企業と国を比較した際の大きな違いとして「外部性」の有無の違いがあります。そのことに関しては別の機会でまとめたいと思います。)
3.財政状況を知るための必須ツールとは?
財務状態を表すバランスシートの存在。
企業の財務状態を表す書類に先ほど述べた“バランスシート“というものがあります。
これは企業に限った話ではなく日本政府にもバランスシートは存在します。
平成30年度国の財務書類(一般会計・特別会計)
https://www.mof.go.jp/budget/report/public_finance_fact_sheet/fy2018/national/fy2018gassan.pdf
↑こちらのリンクの1ページ目にあるのが日本政府のバランスシートになります。
この書類の本会計年度(平成31年3月31日)を確認すると負債合計は1,258兆246億7,600万円になります。
よく言われる国の借金とは記事によると国債と借入金、政府短期証券の残高の合計としているのでこれらを足し合わせると1075 兆円になります。
しかし、先程の記事をはじめ、
記事内では触れられていませんでしたが、実際にバランスシートを見てみると左下の資産合計ところに
政府の資産は売れないものばかり?
ただ、よくあることで
といった意見があります。
そのため、ここではそれら建物にあたる”有形固定資産“という勘定科目を確認します。
そうすると建物等にあたる有形固定資産は184兆円ほどあることがわかります。
その他の資産の勘定科目を見てみると
- 現金・預金(47兆円)
- 有価証券(118兆円)
- 未収金等(11兆円)
- 貸付金(108兆円)
- 運用寄託金(112兆円)
- 出資金(74兆円)
などはすべて金融資産であり、少なくとも資産としては建物などよりは圧倒的に金融資産の方が多いことがわかります。
言い換えれば売る、もしくは理屈上は回収することのできる資産を保有しているといえるのではないでしょうか。
日本の資産。
実はこの”金融資産の対GDP比”は、、、
G7各国と比べても日本がダントツでトップです。
よく国の借金問題で債務残高GDP比が200%あり世界一の債務国であるといった展開をされます。
しかし、、、
バランスシートの右側(負債)を見てそういった結論を出すならば、なぜ左側(資産)も同様に評価しないのでしょうか。
確かに債務の対GDP比は世界一でありますが、それと同時に金融資産対GDPも世界一であり、日本はその2つを考慮した(負債から資産を引いた)値である
4.日本政府の子会社も評価する。
財務状態を確認するなら子会社と連結して評価する。
また日本の財政状況を理解するにあたり最も重要なことは日本政府の子会社のバランスシートを連結しないといけません。
企業でも親会社と子会社のバランスシート等は連結決算されますが、日本政府も例外ではありません。
日銀は日本国債を469兆円保有しており、その利子払いは日銀の利益になりこれは国庫納付金といった形でまた全額日本政府へ上納されます。
要するに日本政府には巨額の資産を持つ優良子会社が存在します。
また高橋洋一氏の著書(99%の日本人がわかっていない国債の真実)によりますとノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツ教授も政府の財務状態を統合政府バランスシートで捉えており、こうした考え方は海外では当たり前のようです。
つまり政府の負債である国債と、日銀の資産である国債は相殺されることになります。
実はこれらを考慮すると日本の財政状態は極めて良いことがわかります。
IMFの評価レポート。
加えて、国際通貨基金(IMF)からも国家財務の資産側にも焦点を当て、各国の財政状況を評価したレポートが提出されました。
それについてロイターでは下記のような記事がありました。
コラム:日本の純資産はプラマイゼロ、IMFの新国富論
https://jp.reuters.com/article/imf-g20-breakingviews-idJPKCN1ML0NF
同記事で書かれている
”企業を分析する際に、負債だけをみる人は真剣な投資家とは言えないだろう。しかし、こと国の分析となると、その国の富よりも債務にばかり着目するファンドマネジャーは多い。”
といった言葉は興味深いものです。
IMF最新レポートが教えてくれる、「日本の財政危機」というフェイク・ニュース
https://news-vision.jp/article/189251/
こちらの記事もIMFレポートについて触れられており非常に参考になったのでリンクを貼っておきます。
日本の財政破綻論の注意点。
少し長くなってしまいましたがまず今回のブログの結論としては、日本の財政問題を捉える上での注意として、
- 財政問題は負債だけでなく資産も考慮する。
- 日本政府だけでなく子会社にあたる日銀との連結決算で捉える必要がある。
まずこの2つを加味するだけでも日本の財政破綻の危機に対する印象は違ってみえるのではないでしょうか。
またこれらを他国と細かく比較したり、もっと違った視点からも捉えていく必要はあると思います。そういうところも今後取り上げていきたいと思います。
5.まとめ
- 財政破綻リスクを総負債のみを見て評価することは不可能。
少なくとも反対側の総資産も考慮すべきである。 - 日本は世界トップの資産大国
- バランスシートは連結決算でみる。
日本の財政状況は日本政府と日本銀行を合わせた統合政府で評価する。