どんな人でも1日約2~3万回近く行っている運動があります。
それだけ多く反復している運動なので、当然ですがその運動が上手く出来ているか否かで身体に加わる負担は大きく異なることが予想されます。
それは、、、
呼吸
です。
人の呼吸回数は1分間に15~20回程度です。
1時間で900~1,200回、
24時間で21,600~28,800回呼吸していることになります。
テレビや雑誌、ネットニュースでも呼吸の重要性について紹介されることも多いですが事実、呼吸というものは本当に奥が深いものです。
ブログ1記事では当然おさまるわけがないのですが、今日はそんな中でも呼吸と肩こりを関連させて書いていきます。
と思われるかもしれませんが、肩こりをしない身体の獲得には、呼吸がしっかり出来ていることがとても重要で、必要になってきます。
1.呼吸が下手だと肩がこってしまう理由とは?
まずは簡単に【呼吸の質の悪さが肩こりを招く可能性がある】といった流れを先に簡単に書きます。
下のイラストの様に横隔膜は胸腔の方に凸のドーム状をしています。動きのイメージとしては上下運動が主なります。
↓
横隔膜は収縮(緊張)すると下に落ち、弛緩(リラックス)すると上に戻ります。
横隔膜が収縮し下に移動することで、上にある肺の膨らむスペースが作られ、息を吸うことができます。
つまり
横隔膜が緊張している際は吸息(息を吸う)、
弛緩すると呼気(息を吐く)
という関係になっています。
横隔膜の上下運動による一種のポンプ作用により呼吸は行われています。
しかし、仮にこの横隔膜がうまく使えず、固まってしまうとどうなるのでしょうか?
私たちは呼吸をしないと生きていけないので当然、横隔膜が使えなくなると意識せずとも呼吸をしようと身体が頑張ります。
この時に働くのがいわゆる【呼吸補助筋】です。
これらは名前の通り、呼吸を補助する筋肉なので、本来であれば負荷の高い運動とかをしていない限りは呼吸でそう頻繁に働くことのない筋肉です。
呼吸を補助する筋肉であるため、イメージとしては胸あたりだったりお腹周辺の筋肉を連想するかもしれません。
勿論その周囲の筋肉もあるのですが、それだけでなく呼吸補助筋は首にも存在します。
そして、横隔膜が働かないと、その首から肩にかけての筋肉も普段の呼吸で、必要以上に働くことになってしまいます。
皆さんも走った後などで、息が切れて呼吸をする際に肩が上下するといった経験はないでしょうか。
もしくはそういう人を見たことはないでしょうか。
まさにあの”呼吸に合わせて肩が上下している”といった状況が呼吸補助筋が頑張っている状態です。
横隔膜が働かなくなると、あれに近いような状態が日常でも起こることになります。
それも回数にして1日2万回以上も……
そうなると、もう結果はおわかりだと思いますが頭痛や肩こりが出現してもおかしくない状態に陥ってしまいます。
横隔膜による肩こりとの関連はこれだけではありませんが、物凄く簡単に言うとこういった流れで発生していきます。
それくらい重要な横隔膜ですが、その横隔膜についてもう少し触れていきたいと思います。
2.呼吸のキーマッスルは横隔膜。呼吸は”吐ける”ことが重要なわけとは?
呼吸に関わる筋肉は吸う時に主に働く筋肉と、吐く時に主に働く筋肉に分けると以下のようになります。
↓
息を吸うときに使う主な筋肉 | 息を吐くときに使う主な筋肉 |
・胸鎖乳突筋 ・斜角筋 ・外肋間筋 ・肋軟骨間筋 |
・内肋間筋 ・外腹斜筋 ・内腹斜筋 ・腹直筋 ・腹横筋 |
(兵頭正義:肩こり,第43回日本良導絡自律神経学会 第1回 良導絡学術大会資料の図より引用)
これらの筋肉に加えて横隔膜が呼吸に関わっています。
横隔膜は筋肉が変容した硬膜で、筋肉の機能がまだ残っている組織です。
しかし、横隔膜は筋紡錘を含め感覚受容器が少なく私たち自身で横隔膜を意識することは困難です。
それが横隔膜機能を改善する上での難しい理由の1つとなります。
そして呼吸についてですが、呼気筋と吸気筋の筋肉の収縮力を比較すると、吸気筋は呼気筋よりも3倍の収縮力があると言われています。
つまり、吸う力の方が吐くよりも3倍も発揮力があることになります。
また自律神経の話に触れると、、、
よく言われることで、私たちは普段の社会生活の中でストレスを受けることが多く、交感神経が優位になりがちであることが指摘されます。
ちなみにこの自律神経についてですが、呼吸と密接に関係しています。
そのため、普段の精神的ストレスで交感神経が優位になるだけでなく、
先ほどの筋肉の収縮力の違いにより、吸気優位になりやすい人の身体特性によっても交感神経が刺激されやすいという状況です。
勿論全員に当てはまるわけではありませんが、あくまで1つの傾向として、心身両方からのダブルパンチで交感神経が優位になりやすいことは知っておいて損はないと思います。
そして少し専門的にはなりますがこの自律神経と筋肉の関係については、骨格筋に直接的な交感支配があることが報告されています。
交感神経のニューロン(脳を構成する神経細胞)は筋肉内の血管を支配するだけでなく、更に側枝を出して筋肉内の横紋筋線維(錘外筋線維)と筋紡錘(錘内筋線維)の両者を同時に支配しています。
(ちなみに交感神経活動異常の抑制は慢性疼痛の改善にも重要な課題になります。)
もうここまでくると完全な悪循環ですね、、、(泣
- 横隔膜が使えず呼吸補助筋優位な呼吸運動により筋疲労→肩こりや頭痛。
- 息を上手く吐けず、吸うことが優位になり交感神経優位。
- 精神的ストレスにより交感神経優位。
- 交感神経の過活動により、骨格筋の緊張が更に高まる→筋代謝の低下→全身へ波及。
- 交感神経優位は浅い呼吸を誘発する→横隔膜の不使用→更に横隔膜機能の低下→横隔膜が使えず、、、。
かなり大雑把ですが、上記のような悪循環にはまってもおかしくありません。
しかしそこで、なぜ横隔膜なのか?という理由の1つとしては”横隔膜自体の特殊性“にあります。
筋肉は
- 横紋筋(主に骨格筋を構成。一般的な筋肉のイメージ)
- 平滑筋(主に内臓の筋肉を構成。)
- 心筋(心臓の筋肉)
の3つに分類できるのですが、
横紋筋は随意筋で、中枢神経支配により自分の意志により動かすことが出来るのが特徴としてあげられます。
一方、平滑筋は不随意筋で、自分の意志では動かすことが出来ません。(内臓の筋肉を動かして下さいと言われても自分の意思では動かせません。)
しかし、【横隔膜や肋間筋は横紋筋にもかかわらず、例外的に自律神経の支配を受けており、かつ随意筋である。】といった普通の筋肉にはない特徴を兼ね備えています。
これが何を意味するかと言うと、、、
横隔膜(呼吸)の運動を利用することによって、身体の表面的な調整だけでなく、自律神経系に対しても、ある程度影響を与えることができることを意味します。
(そもそもの、“自律神経の重要性”についてはまた詳しく書いていきたいと思います。)
3.横隔膜は左側が機能低下しやすい?
ここで横隔膜を使う上での豆知識で1つ、アメリカの理学療法士であるロン・ハラスカ氏のPRI理論というものについて少し触れます。
PRIとはPostural Restration Instituteの頭文字をとったもので、直訳すれば姿勢復元研究所といった感じになります。
名前の通り姿勢を正常にすることで機能の改善を図るといったイメージですが、この理論の面白いところは、人体は左右対称ではないことに目をつけていることです。
これはPRIの基本コンセプトになるのですが、ここではごく簡単に説明します。
まず、人の身体は一見左右対象のように見えますが、そうではありません。
イメージしやすいものといえば、小学校の理科室にあった人体解剖模型を思い出していただければ良いかもしれません。
人の身体は左右対象のようでも一旦、皮膚や筋肉を剥がして中の臓器の配置を確認すると決して左右対称ではありません。
例えば、
- 心臓はやや左に位置しますし、
- 肝臓は右側にあり、
- 肺は右側が大きく、分類すれば3つ(3葉)あり、
- 左側は2つ(2葉)あります。
そのため中身の臓器の位置関係がそもそも左右非対称であることから、身体の動きや癖も若干ではありますが、それに準じたものになりやすいといった特徴があります。
そこで今日は散々触れてきた横隔膜についてですが、実はこの臓器の位置関係が横隔膜機能にも影響を与えています。
横隔膜は
- 弛緩している時はドーム状になっており、
- 収縮すると平坦になる筋肉です。
そして
- 横隔膜の右側は、下に肝臓が位置しており自然とこのドームの形状をサポートしてくれるように位置しています。
- 反対の左側は、心臓が横隔膜の上に位置しておりドームを作る上で邪魔をしており、平坦になりやすい環境に置かれています。
その条件というものが…...横隔膜がしっかりとドーム状を作れているというものです。
そのため、臓器の位置関係を考慮すると、左側の横隔膜は上にある心臓のせいでドームが作りにくく、常に緊張を強いられリラックスがしにくい環境に置かれています。
またそうした位置関係の問題以外にも、横隔膜の構造自体にも実は左右差があります。
横隔膜は左側に比べ右側の方が分厚く、そして付着面積も大きいといった解剖学的特徴があります。
当然筋肉が分厚い方が筋力を発揮しやすいため、そうした筋肉自体の構造上の発揮力としても右側の横隔膜の方が機能しやすいといった特性を持っています。
全員に当てはまるわけではありませんが、これらは決して無視はできない傾向と言えます。
またここからさらに幾らかの代償パターンなどもあり、個人差がでてくるため細かく知るには個別に評価する必要がでてきます。
そのため、横隔膜の機能を改善する運動を提供する際にはこうした特性も考え、なるべく最適な方法で運動を行ってもらうようにしています。
しかし、さすがにそこまで求めるとなると、実際にそうした評価の出来る人に見てもらうのが良いのですが、別にここまでしなくても良い人もいます。
なのでここまでの今日のおさらいとして、今すぐできることと言うと、まずはしっかりと息を吐く練習をすることをオススメします。
人は息を吸う方に偏りがちで、息を上手に吐けることが重要であることは今日書いてきましたが、実はこの息を吐くという運動がまさに横隔膜がとても重要な役割を果たしています。
細かい運動方法などはまた追々書いていきたいと思いますが、息を吐くこと自体はリスクもほとんどないため、まずは
息を長く吐く
ということは試してみると良いと思います。
一つ注意を上げるとなると、息を吐く際にも力みすぎないことがポイントになります。
普段から息を吸うことが過剰になっている人は、いざ長く吐こうとしても吐くことが大変でつい力んでしまう可能性があります。
横隔膜は本来、息を吸う際に緊張し、吐く際にはリラックスします。
そのため普段から横隔膜が緊張しリラックスできていない人は楽に吐くということが難しくなります。
ただそれでも、まずは”力みすぎないように息を吐く”ことから始めていただくことはそうした緊張している横隔膜を緩めることにもつながります。
また皆さんの中でも疲れやストレスが溜まっている際に、ため息をついたことがある人もいるかもしれません。
それも実は私たちが無意識に行っているリセット対策なのかもしれません。
- ストレスで交感神経優位になったもの、
- もしくは言い方を変えると交感神経優位になったことで呼吸が浅く、吸うことに偏ってしまったもの、
を”ため息”という長い呼気を行うことで一度リセットしている無意識の行為だとも捉えられます。
長くなってしまいましたが、今日はこの辺でまとめとします。
横隔膜の運動方法の詳細はまた紹介していきたいと思います。
4.まとめ
- うまく呼吸ができていないと、呼吸補助筋が過剰に働き肩こりの原因になる。
- 息を吸うことで交感神経優位に、吐くことで副交感神経優位に作用する。
- 人は息を吸う方が優位になりやすい。
- 横隔膜の機能改善が”質の良い呼吸”に繋がる。
- まずは力みすぎずに”息を長く吐く”ことから始めてみるのもオススメ。