以前に「正しい医療の基準って何?」というブログを書きましたが、それにも関連した内容を書いていきます。
目次
1.データの関係性に注意?相関関係と因果関係は別物。
まずは分かりやすく下記の記事を転載します。
これはビジネス誌DIAMONDの記事ですが、この巻頭に記載されている例を引用すると、
- メタボ健診を受けていれば健康になれる。
- テレビを見せると学力が下がる。
- 偏差値の高い大学に行けば収入が上がる。
記事にも書いてあるように、
この一見もっともらしい上記3つの関係、、、
実は経済学の研究では否定されています。
言い換えると、
- メタボ健診を受けているからといって、健康になるわけでもなく、
- テレビを見せるからといって、学力が下がるわけでもなく、
- 偏差値の高い大学に行くからといって、収入が上がるわけでもない
というのが事実です。
以前の正しい医療の基準についてのブログでも書きましたが、
ある種、メカニズムだけで物事を考えるとこのような間違いを犯しやすくなるといったことと同じ例になると思います。
またこの記事には書いていない内容で例を挙げると
例えば、
最近普及してきたウェアラブルデバイス。
ウェアラブルデバイスとは、例えば腕時計に心拍数や血圧・歩数・睡眠時間・消費カロリーなどを記録できる機能のついたものなどを指します。
職業柄、私はこれを使えば食生活や運動促進につながるのではないかと思い、興味を持ったのですが、、、
調べてみた結果、
エビデンスレベルの高い論文を参考にすると、
このウェアラブルデバイスのそうした効果は従来のアプローチ以上にはどうも期待できないようです。
(Effect of Wearable Technology Combined With a Lifestyle Intervention on Long-term Weight Loss: The IDEA Randomized Clinical Trialより)
最初の例でもそうなのですが、ここでとても重要なのは、
普通に頭で考えるだけでは決してわからない
ということです。
またそれだけでなく、結果を知ったとしても、
そんなわけない!
とつい思ってしまいますよね(笑)
ただ、それは危険です。
例にあるような
- メタボ健診を受けていれば健康になれる。
- テレビを見せると学力が下がる。
- 偏差値の高い大学に行けば収入が上がる。
といった一見正しそうなことを何故否定できるのかというと、
その鍵は、
相関関係と因果関係の違いについてしっかり理解する
ことから始まると思います。
なぜなら、、、
誤ったもの・正確さに欠ける情報の多くは、
この相関関係と因果関係を混同していることにより生まれている可能性が高いからです。
そのためこれを混同したままでは、間違った情報や風評の被害にあったり、
無駄な労力を費やしてしまう可能性が高くなってしまいます。
今日はそんなことを少しでも回避するための一助に、
一種の経済学的思考の豆知識について書いていきたいと思います。
というのも、
私自身、これらを知ってから、
自分が知らずの内に実は間違っていたことに気がついたり、
普段、見聞きする情報選択の部分で救われている部分が多分にあります。
2.相関関係と因果関係の違いって何?
相関関係と因果関係は混同されることが多いですが、
明確に、似て非なるものです。
私自身、勉強する前はよくこの2つを混同しており、今となっては非常に反省しています(泣)
まずは、この2つの違いを明確に区別することが非常に重要になるのですが、
何故そんなに重要なのかというと、
物事を決めて行動を起こす際に鍵となることの多くが、因果関係にあるからです。
では、相関関係と因果関係とは具体的にどういったものなのでしょうか。
まず相関関係とは、、、
2つのデータの動きに関係性があること
を言います。
関係性があるといっても、ここで1つ注意があります。
あくまでデータの動きに関係があるだけで、決して因果関係があるとは言えない点が非常に重要です。
そしてこの相関関係に対して、
因果関係というのは、
2つのデータの内、どちらかが原因で、どちらかが結果である
という関係のものを指します。
つまり、
相関関係は動きに関連はあるものの、その2つが原因と結果の関係にあるとは一概に言えないものであり、
それに対して因果関係は、原因と結果の関係にあるものを言います。
慣れないとややこしく感じてしまうかもしれませんが、
この2つを混同することの何がそんなに問題なのでしょうか。
冒頭の引用した記事内にあった見せかけの相関である「ニコラス・ケイジの年間映画出演本数とプール溺死者数」を例に挙げてみていきましょう。
3.相関関係と因果関係を混同することの何がいけないの?
下記、グラフは同記事からの引用ですが、
「ニコラス・ケイジの年間映画出演本数」と「プールの溺死者数」は近似した動きを示しており、相関があります。
しかしだからといって、、、
ニコラス・ケイジが年間映画出演本数を増やす(原因)と、プールの溺死者数が増える(結果)わけでもなく、
少し不謹慎な言い方ですが、逆に
プールの溺死者数を増やすと(原因)、ニコラス・ケイジの年間映画出演本数が増える(結果)わけでもありありません。
なぜなら、このニコラス・ケイジの映画出演本数とプールの溺死者数には相関はあるものの、
因果関係はないからです。
つまり、
データの動きに関連はあるものの、この2つの関係は原因と結果にない
ということです。
有り得ない話ではありますが、もしこれをニコラス・ケイジに限らず、
もっと活躍したいと考えるとある映画俳優がいたとします。
そしてその映画俳優が、
この相関関係を見て、”因果関係がある”と勘違いし、行動を起こしたらどうなるでしょうか。
いわゆる映画の出演本数を増やすという”結果”を得るために、
その”原因”に対してアプローチするわけですから、、、
自身の映画出演本数を増やすには、プールの溺死者数を増やせば良い
といった結論になってしまいます。
あり得ないくらいに鬼畜な話ですね(怖
これくらい極端なら、おかしいと気づきやすいと思いますが、
私自身含め無意識の内に、実はこのように相関関係と因果関係を混同して考えてしまっていること、
また混同してメディア等が報じてしまっていることは多くあります。
非常に怖いことですね。
普段何気なく常識といわれていること、今まで常識と思われていたことの中にもこうしたものが多くあります。
そのためそういったおかしなことに気付き、極力変な情報に振り回されないためにも、
最低限、相関関係と因果関係の区別はしっかりと気をつけておきたいところですね。
おさらいをすると、
- 因果関係があるものには必ず相関関係成り立つ。
- しかし、相関関係があるものに因果関係があるかというと一概にそうとは言えない。
という関係になります。
4.相関関係を見つけるのは簡単。でも因果関係は難しい。
相関関係と因果関係の区別の大切さがわかったところですが、、、
ただ、1つここでちょっとした問題があります。
それは
相関関係は手元にデータさえあれば、そのデータに相関があるかないかを分析するのは容易なのですが、
因果関係に関しては、いくらデータがあっても因果関係があるかないかといった結論を導くことは非常に難しいのが現状です。
重複しますが、私たちが何かを行動する際に鍵となることの多くは、相関関係ではなく因果関係です。
しかし、その因果関係を知ることは困難であるという一種のジレンマがあります。
実はこの因果関係に関しての問題の解決方法を探ることが、
近年、世界中の経済学者が取り組んでいることの1つなのです。
その点が私が経済学が面白いと感じる魅力の1つでもあります。
そして、経済学では科学的根拠に対して厳格であり、
単に相関を示したのにすぎない分析でなく、
因果関係を示唆するものを科学的根拠(エビデンス)として扱います。
詳細は次回以降に書いていきますが、
ではその因果関係を測定するための最良の方法とは何でしょうか?
実はそれが、冒頭のウェアラブルデバイスについて私が引用した論文でも用いられていた
ランダム化比較試験
という方法です。
ちなみに、過去のブログ記事でも載せた医療のエビデンスのピラミッド図、
この図でいう、上から2つ目のものですね。
ついでに、ピラミッドの一番上にあるメタアナリシスについて触れると、、、
メタアナリシスとは複数の研究結果をまとめて、全体としてどのような関係があるかを検証する方法を指します。
ランダム化比較試験では、グループを2つに分け研究するのですが、
原則、
そのグループ間で観察された差が偶然の産物である確率が5%以内である際に統計的に有意である
と表現します。
ランダム化比較試験は因果関係を測定する手法として最良であると言われていますが、勿論万能ではありません。
しかし、因果関係という非常に難しい関係をある程度正確に導くことのできるものであり、非常に有用なものです。
詳細については、長くなるのでまた次回以降に触れていきます。
5.まとめ
- 常識だけで考えない。メタボ検診≠健康、高偏差値大学≠収入アップ、TVを見せる≠学力低下。
- 誤った情報の多くは相関関係と因果関係の混同から始まる。
- 判断する上での鍵となりやすいのは、相関関係でなく、因果関係。
- 因果関係を知ることは難しい。
- 因果関係を測定する最良の方法はランダム化比較試験。