「若々しくいるために運動を」と考えている方も多いかもしれません。
ただ、そもそもなぜ運動をすることで若さを保つことができると考えられているのでしょうか。
勿論、身体の筋肉量や適度な柔軟性を保つことなどで身体機能を維持・向上することにより、加齢による身体機能低下予防といった意味合いもあると思います。
しかし、今日はそんなパフォーマンス的な意味合いである身体機能面とは別の角度から、運動による老化予防の可能性についてご紹介したいと思います。
それは遺伝子レベルからみた運動の効果についてです。
両親から受け継いだ遺伝子配列は基本的には変わりません。しかし、遺伝子を修飾することは可能であると言われています。
この遺伝子を修飾するようなことを「エピジェネティクス」と言います。
例えば私たちの身体には、筋肉、皮膚、心臓、肝臓など様々な組織が存在します。しかし、こうした組織を構成している細胞は基本的に全て同じ遺伝子セット(遺伝子情報)を持っています。
ただ、不思議なことに同じ遺伝子セットを持っているのにも関わらず、ご存知の通り筋肉や心臓、肝臓などは形も違えば、それぞれの持っている機能も全く異なります。
同じ遺伝子セットなのに姿形は勿論、機能まで千差万別、、、
これはどういうことでしょうか。
実は同じ遺伝子セットであっても、その中のどの遺伝子を使うか、使わないかといった操作により、全く異なる組織を作らせることができると言われています。
これは先天的に生まれ持った遺伝子セット(遺伝子情報)は同じでも、後天的に遺伝子の機能に変化を引き起こせることを示しているとも言われています。
(参照:国立がん研究センター研究所:エピジェネティクスとは?)
このエピジェネティクスと関係することでDNAメチル化があります。
DNAメチル化については先ほど載せた参照リンクの国立がん研究センター研究所の同ページの下に書いてあるのでご参照ください。
(参照:国立がん研究センター研究所:エピジェネティクスとは?)
そしてここから本題の加齢についての話になるのですが、、、
加齢の原因となる要因はどういったものがあるのでしょうか。
マウスからの実験によるものですが、結論を言うと一説として、慢性炎症が正常な老化と病理的老化のいずれにも関連していると言われています。
炎症により、テロメア(DNAの損傷を防ぐ働きを持っているもの)の損傷が起こると、細胞老化が始まり、体内の組織の再生・自己修復する能力が制限されます。
そして同時に、細胞老化が進むと慢性炎症が悪化し、組織の再生が抑制され、老化がさらに加速するといった悪循環に陥るとされています。
しかしマウスの実験により、抗炎症薬イブプロフェンや抗酸化剤を投与したところ、炎症が発生した組織における老化細胞の蓄積が阻止され、組織の再生能が回復することが明らかにされました。
こういったことから、全身性の慢性炎症は他の遺伝的・環境的要因がなくても、活性酸素を介してテロメア機能不全と細胞老化を悪化させ、老化を促進することが示唆されています。
(参照:Chronic inflammation induces telomere dysfunction and accelerates ageing in mice)
そのため一説として、こうした
身体の炎症を抑えることが加齢の予防につながる
と考えられています。
そしてその身体の炎症を引き起こす炎症性物質として白血球から放出されるサイトカインという物質があります。このサイトカインは多すぎると動脈硬化や糖尿病、がん等さまざまな生活習慣病が引き起こされると考えられています。
それに関連して、ASC(Apoptosis-associated speck-like protein containing a caspase recruitment domain)遺伝子というものがあるですが、実はこのASC遺伝子が、白血球からのサイトカインの放出を増加させる働きがあると言われています。
そして同時に、このASC遺伝子の働きは先ほど触れたメチル化により制御されることも分かっています。
機序としては、ASC遺伝子に関してはメチル化が減少すればサイトカインの産生が増加します。反対にASC遺伝子のメチル化が増加すればサイトカインの産生が低下すると言われており、そうした理由からASC遺伝子のメチル化は炎症の指標として有用であると考えられています。
そして事実、若い人と高齢者を比較した際には年齢に依存してASC遺伝子が多いとった傾向があることもわかっています。
つまりはこのASC遺伝子のメチル化を増加させることができれば、サイトカインの過剰な産生が抑制され、加齢の進行を抑えることができるのではないかと考えられているのです。
実はこのASC遺伝子のメチル化を増加させる方法、、、つまりはこうした一連の作用により、加齢を予防する方法として運動が効果的であることが指摘されているのです。
実は、高齢者の運動をした群と運動をしなかった群を比較した研究によると、運動をした群ではASC遺伝子のメチル化の程度が高く、ASC遺伝子の発現が低いことが報告されています。
(※ここでの運動内容は、ピーク有酸素能力の40%の低強度歩行を3分間行った後、ピーク有酸素能力の70%以上の高強度歩行を3分間行うといったものを6カ月間継続したものです。)
そのため、適度な運動の継続によりこうした年齢に依存したASC遺伝子のメチル化の減少を抑制する可能性が示唆されています。
(参照:Int J Sports Med. 2010 Sep.) Exercise effects on methylation of ASC gene
しかし、具体的にどのくらいの運動量や頻度が良いのかといったところまではまだわかっていないようですが、
ただそれでも例を1つ挙げると、
60分間座っている時間を60分間の歩行レベル以下の軽い活動に置き換えるだけでも、ASC遺伝子のメチル化が1.17倍の高値を示したそうです。
(参照:J-MICC研究:身体活動・運動と白血球ASC遺伝子のメチル化)
(図1.座位時間60分間を低強度活動60分間に置き換えたときの白血球ASC遺伝子のメチル化に対する効果)
(引用:J-MICC研究:身体活動・運動と白血球ASC遺伝子のメチル化)
そのため、たとえちょっとであったとしても座っている時間を減らし、代わりに動く量をほんの少し増やすような習慣をつけるだけでも一定程度、加齢を抑えることができる可能性があるのではないかと考えられます。
運動は身体機能の面だけでなく、こういった遺伝子レベルでの働きによっても加齢を抑えることのできる可能性があるというのはなんだか感慨深いですね。
今日はそんな運動によるアンチエイジングの可能性についてのお話でした^^