リハビリ専門職が伝える腰痛体操の選び方!曲げる運動 vs 反る運動の科学的比較。

腰が痛い……そんな時に腰痛を解消するための運動方法を調べたことがある人も多いのではないでしょうか。

テレビとか雑誌、ネットで紹介される「腰痛体操」ですが、その種類は多種多様です。

 

そんな腰痛体操を見聞きする中で以下のような疑問を感じたことはないでしょうか。

 

腰が痛いときは腰を曲げた方が良いの?反らした方が良いの?

事実、腰痛体操と調べると腰痛のタイプに限らず、腰を曲げる運動もあれば反らす運動も見つかります。

そうなると、ここで更なる疑問がわいてきます。

 

そもそも曲げる運動と反らす運動は、運動の行為としては正反対の動きになります。

いうなれば、正反対の運動方法を同じ「腰痛体操」として紹介されていることになります。

これは明らかに矛盾しているように感じないでしょうか。

 

今日はそんな一見矛盾した腰痛体操について、「腰痛に対しては腰を曲げる運動が良いのか、反らす運動が良いのか」について解説します。

 

結論だけ先に知りたい方のために、言ってしまうと、慢性腰痛には反らすタイプの腰痛体操の方が良いことが示唆されています。

しかし、当然ながら注意点や例外もあるので、それら補足も含めて本日はご紹介していきます。

 

1.腰痛体操の基礎は「曲げる運動」が主流だった。

 

まず代表的な歴史の流れとしては、腰痛体操の主なる方法は曲げる運動から反る運動へと変わったといった変遷があります。

腰痛体操の代表 【Williams体操】

ひと昔前までは腰痛体操といえば腰を曲げる運動でした。

代表的なものとしてWilliams(ウイリアムス)体操があります。

Williams体操はリハビリの国家試験でも登場するくらい有名なものです。

Williams体操の目的。

Williams体操の運動内容は先ほどもあげたように、主に腰を曲げる運動になります。

目的としては腹筋の強化反り腰(腰椎の前弯)の改善です。

1937年にWilliamsという方が報告し、その人名をとってWilliams体操と呼ばれています。

このWilliams体操が腰痛体操の代名詞となるくらいに有名であり、実際に医療現場でも多用されていたようです。

 

ひとつ補足として、このWilliams体操の適応は主に慢性腰痛であり、急性期の腰椎椎間板ヘルニアには禁忌(やってはいけない)となっています。

 

 

2.反る腰痛体操の浸透。

 

その後、時代を経て腰痛に対して腰を反るといった体操もでてくるようになりました。

反る体操の代表例【Mckenzie法】

その中でもとりわけ有名な体操としては、Robin McKenzie(ロビン・マッケンジー)というニュージーランドの理学療法士が考案したマッケンジー法があります。

マッケンジーはニュージーランドのほぼ中心に位置するウェリントンと呼ばれる場所に脊椎を専門とした理学療法クリニックを開業しました。

その脊椎の診療に対する貢献が認められ、様々な賞を受賞されています。

米国理学療法士協会の調査で、整形外科の理学療法分野において世界で最も影響力のある優れた臨床家として選ばれるほどの功績をあげています。

そんな有名なMckenzie法ですが、ちょっとしたきっかけ(ハプニング)から誕生したと言われてます。

Mckenzie法誕生の逸話。

ある日、マッケンジーのもとに腰痛患者が来院されました。

マッケンジーはその患者に、ベッドにうつぶせになって待っているように伝えました。

そしてその患者はマッケンジーの指示通り、ベッドにうつ伏せになって待っていました。

しかし、その後マッケンジーがいざリハビリを始めようと、待たせていた患者のもとに行った際に最悪の事態が起きていたことに気が付いたのです。

何とそのベッド……ベッドの角度調整が誤っており、あろうことか、その患者さんは腰を強く沿ったうつ伏せ姿勢で待っていたのです。

何がいけないかというと、当時の常識として、腰痛は身体を反らした状態は腰に強くストレスがかかってしまうため、やってはいけない姿勢であるというのが通説だったからです。

私の勝手な妄想ですが、マッケンジーもさぞ冷や汗をかいてびっくりしたのではないでしょうか。

腰痛で来た患者が、リハビリを待つ間、あろうことか腰痛が増悪するであろう姿勢で待っていたのですから

しかし、何のその……うつ伏せで腰をそらして待っていた患者当人は、今までにないくらいに腰の調子がよくなり、痛みがなくなったというのです。

腰痛のある人が、腰痛が増悪するであろうはずの姿勢で待っていたのになぜ…….?

 

そんなちょっとしたハプニングをきっかけに考案されていったのがMckenzie法であるとされています。

反る体操 ≠ Mckenzie法。

ただ一つ補足としては、このMckenzie法は腰を反る体操の代表例として紹介されることがありますが、Mckenzie法自体は必ずしも腰を反る体操に限りません。

Mckenzie法の特徴としては、整形外科的な診断名から体操を考えるのではなく、身体にストレスを与えたときに生じる症状の変化をみて、運動方法や運動方向を決定するといった点があります。

 

私の過去ブログにある首の運動に関しての記事で、Directional preference(DP:方向性選好)と呼ばれる症状の改善に繋がる力学的負荷の方向についてご紹介したことがあります。

また、同記事で腰痛に対してDPと一致する治療を受けたグループは、そうでないグループと比べて治療効果が高かったといったこともご紹介させていただきました。

 

DPについて→(参照URL:https://www.physio-pedia.com/Directional_Preference)
関連する過去ブログ→頸部痛に悩むあなたへ。運動療法で痛みを軽減する方法とは?

 

このDPはMckenzie法で用いられる分類法の一つでもあります。

 

 

3.腰痛には曲げる体操が良い?、反る体操が良い?

 

Williams体操もMckenzie体操もリハビリの国家試験に出てくるくらいに有名な体操です。

そして、この2つは同じ腰痛に対しての体操でも、それぞれ曲げる運動と反る運動が主になる体操の代表例であり、正反対の運動方法となります。

現時点では結論は出せない。

この点に関して現時点で言えることは、腰痛に対して、曲げる運動と反る体操のどちらの方が良い運動なのかといった結論はまだ出せないということです。

腰を曲げる体操と反る体操がなぜ腰痛に効果的であると考えられているかについて少し整理すると以下のようになります。

 

【腰を曲げる体操が腰痛に効果的であると考えられている理由】

  • 反り腰(腰椎の前弯)が腰痛の原因であると考えられているため。
  • 腰を曲げることで椎間孔を開いて神経根の圧迫を和らげる。

 

【腰を反る体操が腰痛に効果的であると考えられている理由】

  • 反り腰(腰椎の前弯)は人の二足歩行の必須条件であると考えられているため。

 

ここに挙げたのはただの一例であり、これ以外にも各運動が良いと考えられている理由は数多く存在します。

しかし、まずこのように腰椎の前弯といった一つの現象に対してさえ、片や腰痛の原因になるとネガティブに捉えている一方、片や二足歩行の必須条件であるとポジティブに捉えられています。

勿論、程度にもよるのですがこうした矛盾した仮説や、実際に曲げる体操と反る体操の治療効果に関しては相反したエビデンスも存在しており、腰痛に有効な体操を伝えるというのは専門家からみても難解な問題なのです。

 

ちなみに腰を曲げる体操と反る体操の両方のパターンを取り入れる内容としては以下のようになります。

 

【腰を曲げる運動と反る運動を患者の希望する方向に基づいて行うのが効果的であると考えられている理由】

  • 前述したDPの概念。
    ※ただし、
    症状の原因となる解剖学的構造ではなく、患者の症状のみによって運動方向が決定されるという点に疑問を感じる専門家もいる。

 

こうなると、腰痛体操に関して「どれが良い!」と結論を出すこと自体が難しいのがおわかりいただけるかもしれません。

 

結論は出せないけど有益な論文紹介。

しかし、ここまで書いて結論はだせないといってしまうと身も蓋もない話になるので、まだ終わりません

安易な結論付けはできませんが、そんな中でも今日はひとつ、この問いかけに対して有益になるであろう科学的根拠を1つご紹介したいと思います。

 

それは「腰痛を抱えた人をグループ分けし、各々に曲げる体操と反る体操を実施し、どちらの方が治療効果が高かったのか?」といったことを比較し調査した研究です。

まさに今回の疑問に対する一つのアンサーとなる得るエビデンスになります。

 

過去の研究論文との違い。

今までにも似た研究がなかったわけでありませんが、比較的短期的な効果を検証したエビデンスしかありませんでした。

それ以外にも研究の参加者をランダムに割り当てていないといった手法であったり、エビデンスの質としてはやや見劣りするものでした。

 

今回ご紹介する研究は、それら欠点を補足し得るものになります。

期間は1年間という長期にわたって追跡しており、参加者のグループの割り当てもランダムに行われているものになります。

 

 

4.腰痛体操の治療効果を比較【曲げる体操 vs 反る体操】

研究内容の概要。

研究内容の概要に関しては以下の通りです。

  • 6か月以上継続している慢性腰痛の人。(計56人、平均年齢54.3歳)
  • 痛みの強さは10段階で5以上。(10が痛みが強く,0が痛くない)
  • 腰を曲げる運動のグループと腰を反らす運動のグループにランダムに分ける。
  • 治療プログラムを4回受け、自宅での体操は毎日行った。
    ※治療プログラムは10年以上の経験をもつ運動器専門の理学療法士が実施。
  • 1、3、6か月、1年で結果を記録。

(参照:Chul-Hyun Park et al:Long-term effects of lumbar flexion versus extension exercises for chronic axial low back pain: a randomized controlled trial. Sci Rep. 2024)

 

結果は以下の通りです。

(引用:Chul-Hyun Park et al:Long-term effects of lumbar flexion versus extension exercises for chronic axial low back pain: a randomized controlled trial. Sci Rep. 2024)

縦軸は痛みの強さ。(上にいくほど痛みが強い)
横軸は期間。(単位は月)
黒のグラフが腰を曲げる運動、赤のグラフが腰を反らす運動の結果。

 

結論を先にお伝えすると、痛みの改善としては、腰を曲げる運動グループよりも腰を反らす運動グループの方が高かったのです。

 

運動を行った両方ともに重篤な有害事象は認めませんでしたが、軽度かつ一過性の有害事象は認めたようです。

その中でも最も多かったのが腰痛であり、両グループともに2割程度の参加者に認められました。

 

5.結論と主観アドバイス。

 

御覧の通り、慢性的な腰痛を抱えている人に対して腰を曲げる体操と反る体操の効果を比較した結果は、腰を反る体操の方に軍配があがりました

ただ、最後にいくつか個人的に補足をしておきたいと思います。

どちらの体操も一定程度の効果と軽度の有害事象があった。

まず、痛みの改善効果は腰を反る体操の方が高かったのは事実です。

ただし、ポイントしては腰を曲げる方も反る体操のグループほどではありませんが、痛みの改善効果を認めたといった点です。

加えて、軽度とは言え腰を反るグループと曲げるグループも、ほぼ同程度の数(2割程度)に一過性の有害事象(主に腰痛)が生じたという点です。

 

ここからは私の主観や普段の臨床での経験則も入りますが、以下のような解釈もできます。

原則、腰痛に過度な安静は良くない。

まず、腰痛に関しては基本的に過度な安静は推奨されていません

そのため、腰を曲げる体操にしても反る体操にしても、変に強い負荷でなければどちらに動かしても多少なりと良い作用を及ぼす可能性が高いという点です。

腰を痛めた際に、起こりがちな悪習慣として過度に安静にしてしまう人がいます。

気持ちは非常にわかるのですが、少なくとも腰痛に関してはそういった安静は治りを妨げることに繋がる可能性が高いことから、可能な範囲で動くことが推奨されています。

腰痛があっても可能な範囲で動く方が良い。

今回の研究報告でも効果の差はあれども、どちらの腰痛体操であっても取り入れたことで一定程度の疼痛の軽減効果が認められています。

このことからも、雑な言い方にはなりますが腰痛のある人は過度な安静は控えて、種類問わず何かしらの運動を取り入れる方が良いことが示唆されます。

その中でも慢性腰痛の人に関しては、腰を曲げる運動よりも反らす運動の方が痛みの改善効果が高いと言える結果を示しています。

しかし、同時にどちらの体操でも軽度とはいえ、2割程度の人には一時的に腰痛が強くなる現象を認めたことも事実です。

腰痛タイプについて補足。

そして今回の研究のLimitationにも関係することですが、この研究で対象となった腰痛のタイプには補足が必要となります。

今回紹介した研究は6か月以上持続する慢性腰痛の人に実施されたことは先ほどご紹介しました。

 

ただこの慢性腰痛ですが、正確には論文内で「chronic axial low back pain」と表記されています。

少し専門的になりますが、chronic axial low back painとは脚のしびれなどの神経症状がなく、純粋な腰の痛みだけの症状を指します。

 

そのため、慢性腰痛の人でも脚のしびれや筋力低下など一種の神経症状を伴った人は注意が必要です。

それらに該当する人は今回ご紹介した結果だけをみて、腰を反らす体操を取り入れると、それこそ悪化する可能性もあることが予想されます

 

そして、今回対象となった慢性腰痛の人たちですが、chronic axial low back painといった臨床症状のみで選ばれています。

MRI検査を行って病態を調べたわけではない点に関しては留意する必要があります。

つまりは、今回対象となった人たちは腰の痛みといった症状は共通しているものの、痛みの原因分けや病態把握といったことは特になされていません。

現実問題、腰痛の痛みの原因を特定するのは難しいところもありますが……。

 

ただ言い換えると、そういった原因わけをせずとも、単純な慢性腰痛を抱えた人であれば腰を反らす体操を実施することで、重篤な有害事象を引き起こすことなく、それなりに高い痛みの改善効果を見込めるといったポジティブな見方もできます。

 

ただ重ねて強調しますが、腰を曲げる体操にしても反らす体操にしてもどちらも各々にリスクは存在します。

例としては、椎間板内圧の上昇やヘルニアの悪化、ヘルニア由来の痛みを引き起こす可能性などがあげられます。

腰痛治療について言い切った表現には要注意。

テレビやネットなどで紹介されている腰痛体操がすべてわるいわけではありません。

しかし、最近はX(旧Twitter)でも「腰痛には〇〇!」といったものが数万いいねされているのを見かけますが、その中には正直眉唾ものも含まれています。

勿論、実際に良いのもあれば、ばっちりとあてはまるケースもあるのですが、それらを見分けるのは困難だと思います。そのため、どうしても私の職業柄、もし痛みが強い人などは一度専門家にみてもらうのが一番であると言わざるを得ません。

特によくある、「腰痛には〇〇だけやっていれば大丈夫!完治!」といった謳い文句には、注意が必要です。

 

なんの腰痛の分類もなければ、病態把握なし、症状の違いも区別することなくすべて解決でき得るものはまず存在しません。

少なくとも今回ご紹介したように、「腰痛は〇〇だけやっていれば大丈夫!」といったような結論がだせる分野では決してありません。

軽度で神経症状もない人であれば、取り入れてみる価値はあると思います。

少なくとも過度な安静よりは良いでしょう。

 

ただ、もしそういった体操を取り入れて症状や違和感が強くなる場合は控えて、一度専門家に相談してみるのがベターだと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

CAPTCHA