運動は歳を越える⁉ 子供の時の運動歴と大人になった時の健康の影響について。

子供の時の運動歴が成人以降も影響を与えることはご存知でしょうか。

 

成人以降、また高齢になっても運動は重要になってきますが、その中でも子供時代の運動に関しても例外ではありません。

 

しかし、子供にとっての運動というのは少し特殊と言ってもよく、

 

子供時代の運動歴が成人以降のその人の身体機能や体質を形成するといった側面があります。

 

今日はそんな子供にとっての運動について少し書いていきます。

 

1.発育期に適した運動がある?

 

子供の発育期にはなるべくその発育に合わせた運動を行うことが運動器の健全な育成を促すために必要だと言われています。

 

その発育の過程を表したものであり、子供にとっての運動を考えた際にまず基礎となるものとして、【scammonの発育曲線というものがあります。

 

 

 

上記の図がその曲線になるのですが、20歳の時を100%とした際に各年齢ごとにどの程度成熟しているかを表したものになります。

 

例えば、この中にある“神経系型”に注目すると、神経系型の曲線は他のカーブと違い0歳から早期に急に上昇してからその後は水平になっていることがわかります。

 

大体6歳ごろまでにピークに達しその後はプラトーになるのがわかります。

 

神経系は主に運動の器用さや巧みさ、リズム感やバランス能力などにかかわる部分になるのですが、それらの機能を高めるにはその神経系の発達が著しいタイミングに神経系の機能を高めるのに適した運動を行うことが理想であると考えられています。

 

よく運動音痴でどんな運動をやっても何かぎこちない、違和感があるという人や、逆にやったことがない運動でもなんでもすぐにコツを覚え、器用にこなしてしまうような人を見たことはないでしょうか。

 

そういった運動の器用さというのはこの6歳ごろまで(文献によっては12歳ごろまで)の運動歴が関係している場合が少なくありません。

 

この0~6歳(~12歳)ごろまでに基本的なスポーツ動作を行っていたり、様々な動きを経験することがそれ以降の運動の器用さに深く関わってくると考えられています。

 

また普段私がリハビリ時にも既往としてお持ちの方がいる女性に多い、骨がもろくなってしまう病気である骨粗鬆症ですが、その予防方法としても子供時代の運動が大切になることが指摘されています。

 

骨粗鬆症は骨量を維持する働きのあるエストロゲンと呼ばれるホルモンが加齢や閉経により分泌が少なくなることが原因で起こることの多い病気です。

 

骨を丈夫にするためには”骨への刺激”が重要で、骨に加わる力学的負荷が大きいほど、骨塩量と骨強度は増加することがわかっています。

そして、女子では初経の発来と前後して、成長ホルモンや女性ホルモンの分泌が始まるのでその時期に骨の成長と密度の高まりが期待できるとされています。

 

そのため、思春期前から思春期前期(初経前)に適切な荷重刺激(ジャンプ運動など)を行うことで最も効率的に骨が丈夫になってくるので、女性であればその時期の運動が後々の年齢を重ねた際の骨粗鬆症の有無にも関わってくると考えられています。

(参照:日本臨床スポーツ医学会 学術委員会 整形外科部会:子供の運動をスポーツ医学の立場から考える

 

このように子供時代の運動というのは成人以降にも様々なことに深く関わってくることがわかっています。

 

例を挙げていけば枚挙にいとまがありませんがその中でも、次は前回のダイエットに少し絡めて1つ紹介します。

 

 

2.子供時代の体型が成人以降の肥満体質を決める?

 

前回のダイエットに関しての記事では太りやすい体質の1つとして基礎代謝量が低い人という要素を紹介しました。

 

そしてダイエットに起こりがちな失敗として減量することに意識がいきすぎて、体脂肪だけでなく筋肉も減らしてしまい結果として基礎代謝量が減少することで“太りやすい体質”になってしまったり、減量後の“リバウンド”にもつながってしまうリスクがあることなどについて触れました。

 

そしてその

太りやすい、太りにくい体質についてですが、実は子供時代の体型によっても左右されてしまうことがわかっています。

 

成人した人の脂肪量を決定する要因は完全に解明されているわけではありませんが、脂肪細胞の数が成人の脂肪量を決定する大きな要因であることが指摘されています。

 

しかし、この脂肪量を左右する脂肪細胞ですが、激しい減量をしても成人の脂肪細胞の数は変わらないようです。

(参照:Kristy L.Spalding et al:Dynamics of fat cell turnover in humans.Nature)

 

脂肪細胞の数は小児期から青年期によってある程度決まってしまうようで、そのためその時期の過食や運動不足による肥満は後々の成人以降の太りやすい体質につながってしまうと考えられています。

 

また、子供の時の過体重は成人後の2型糖尿病のリスクと相関があることが認めれています。

 

子供の際は成長期だからと、気にせず沢山食べさせる人もいると思いますが子供の時期であっても過体重の状態を放置していると、成人後に太りやすい体質になってしまうことや、また2型糖尿病のリスクも上がってしまうため注意が必要です。

 

ただこの子供時代の過体重ですが、同時に思春期までにそれを解消することができれば成人以降の2型糖尿病のリスクは増加しないことが報告されています。

(参照:Lise G. Bjerregaard, et al:Change in Overweight from Childhood to Early Adulthood and Risk of Type 2 Diabetes:NEJM)

 

なので子供がいる方は少し気をつけていただくのも良いと思いますし、また自分の子供時代はどうであったかを思い返して少し当てはまるようであれば糖尿病や肥満のリスクがあるかもと少し注意を図るのも良いと思います。

 

また余談ですが、四十肩や五十肩と呼ばれる肩の痛み(肩関節周囲炎)については理学療法ガイドラインでも糖尿病はリスクファクターの筆頭とされています。

肩の痛みなので一見関係ないように感じるかもしれませんが、糖尿病があると発症率が高くなるとされています。

 

また個人的な経験で恐縮ですが、事実、私の経験上では肩の痛みでリハビリに通っている人で治りにくい人や時間がかかる人は糖尿病もちの割合が多い印象でした。

糖尿病はそれ以外の要素でも本当に厄介な現代病の1つでもあるので、あくまで”運動”からみた視点ですが、いつかまた書いてみたいと思います。

 

 

3.子供時代の運動は精神面にも影響を与える?

 

子供時代の運動は何も身体面だけでなく、精神面にも影響を及ぼします。

9~15歳の男性759名、女性871名を対象に約20年間の追跡調査をした研究では、学童期までに活動的であれば青年期にうつ病を発症するリスクが少ないことが報告されています。

 

同論文の結論としては、子供の頃からの習慣的な身体活動が若年成人期のうつ病のリスクに有益な効果があるとしています。
(参照:Charlotte McKercher et al.:Physical activity patterns and risk of depression in young adulthood: a 20-year cohort study since childhood.Soc Psychiatry Psychiatr Epidemiol)

 

 

ただ、うつ病に関しては成人以降でも運動によるリスク軽減効果は確認されています

 

別の論文のシステマティックレビューでも、身体活動を促進することはうつ病の発症リスクを減らす方法として有用である可能性があると結論づけています。

(参照:George Mammen et al.Physical activity and the prevention of depression: a systematic review of prospective studies.Am J Prev Med)

 

 

そのため精神面に関しても子供時代の運動(に限らず大人になってからも運動も)が良いことがわかります。

 

運動の大切さや豆知識はこのブログでも取り上げていますが、ここで精神面に関連して問題点があります。

 

それは【そもそも運動が嫌い】といったものです。

 

うまく運動を取り入れればこれに勝るコスパはないくらいですが、そもそも運動が嫌いであればその人にとってはただのストレスになってしまいます。

 

しかし、この運動嫌いに関してですが、実はこれも子供時代の運動歴が影響している可能性があります。

 

体育授業の好意度を調査したある研究ではある学年や性別を通じて最も影響があった要因として「運動効力感尺度」をあげています。
(賀川昌明 他.小学校高学年児童の体育授業に対する好意度を決定する要因分析とその対処法に関する研究 参照)

 

 

すなわち、”自分が運動ができるか・できないか”といった要素が体育の好き嫌いを大きく左右する因子となっているのです。

 

当たり前に感じるかもしれませんが、実はこの“子供時代の運動ができるか・できないか”といった要素ですが本人(子供)の努力だけでは解消しえない部分があるといった側面も存在します。

 

というのも、中嶋寛之氏(東京大学名誉教授・日本体育大学名誉教授)の本に興味深いことが書いてあったのですが、

運動会の種目や体育の授業では、概して速筋優位の種目・動作が多く、遅筋優位の子は得てして自分は運動能力に欠けていると自信を失い「体育嫌い」になるのではないか。

といった指摘があります。

 

また、速筋優位の子供がいい思いをすることが多くなりかねないことや遅筋優位の運動嫌いの人たちが何らかの機会に持久走で自分の運動能力に開眼することがよくあるといったことも指摘されています。

そして、その結論として、体育で教わった運動やスポーツ以外にも色々な種目に挑戦してみることを子供に進めることが大切だとしています。

 

これは読んだ時にその通りだなと感じました。

 

というのも私自身が3月生まれでかつ、同じ年でも体格も華奢だったので実感として強く感じたのですが、今のように運動に関わる仕事についた後に当時を振り返ると私の学校の体育授業でも確かに速筋優位の競技が多かったなと感じました。

また同著書の中である分析を引用しているのですが、その分析によると男子では運動嫌いと体育嫌いがほぼ一致するが、女子では運動嫌いより体育嫌いの比率が高いといった結果があります。

 

その要因として、「教師に原因があるもの(指導内容など) 64.6%」が圧倒的に多いことを指摘しています。

 

勿論、人によるところもあるとは思いますが、確かに体育やスポーツの分野は全く根拠のない根性論がまかり通っている側面もあるので注意が必要だと思います。

 

あるスポーツ内科医の話によると、女性アスリートに「生理がこなくなるくらいまで追い込んで練習しろ」という指導者もいたようです。

 

そのため、本来は運動が全くできないわけでもないにも関わらず、学校競技の偏った特性にたまたま合わなかっただけにも関わらず、その経験により運動ということ自体に苦手意識を持ってしまう。

あるいは指導者や教員に恵まれず体育ないしスポーツに嫌悪感を抱き、運動嫌いになってしまった人も少なからずいるかもしれまんせん。

 

これらは本人の努力だけでは解消しようがない要素でもあるので、その運の悪い経験により運動から遠ざかってしまうのは非常に勿体無いと思います。

そういう人はそんな劣悪な環境で学習してしまった経験は一度忘れて自分に適した運動や指導者、コミュニティが見つかるのが1番かなと思います。

 

その点、3月の早生まれ+教員が正直嫌いであった私が運動嫌いにならなかったのは運が良かったかもしれません(笑)

 

ただリハビリの仕事をしていてもよく見かけるのですが、昔は運動が嫌いだったけど健康に気を使い身体を動かすようにしたら運動が好きになったという人も多いので、少しでもそういう人が今後増えてくると良いなと個人的に思います。

それぞれに適した運動はその人の身体機能や構造、目的によっても変わってくる部分もあるので、それに適した運動を取り入れ、楽しく運動を行いその効用も取り入れる人が増えてくれると良いなと感じています。

 

 

4.まとめ

 

  • 子供にはそれぞれ適した発達時期がある。
  • 子供時代の運動は成人以降も影響してくる要素が多くある。
  • 子供時代の肥満は思春期までには解消している方が良い。
  • 運動はうつ病のリスク軽減にも繋がる。
  • 子供の頃の体育で培った運動の苦手意識は気にしなくて良い。

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