キャンセル率の改善に成功!行動経済学から学ぶ実践的アプローチ

今日は少し行動経済学の分野についての記事を書いてみたいと思います。

 

場所にもよりますが、予約制をとっている病院やクリニックは多くあります。

 

そうした体制をとっているクリニックなどで気になってくるのは、キャンセル率だと思います。

 

予約のキャンセルというのは一定数避けられないものです。

 

しかし中には避けることのできるキャンセルもあります。

 

急な用事などでのやむを得ないといったキャンセルもあれば、当日にめんどくさくなってしまいキャンセル、、、ひどければ連絡なしのドタキャンといったのもあると思います。

 

今日はそうしたキャンセル率を減らすために有効だと考えられやすいけど、実はそうでない可能性の高い対策と有効性が確認された対策について、ご紹介したいと思います。

 

 

1.イギリスでも問題視されている予約のキャンセル。

 

イギリスの調査からのご紹介になります。

イギリスでも医療機関のキャンセル問題というものは、取り上げられています。

 

連絡なしのドタキャンや、直前のキャンセルといったことはNHS(National Health Service)のリソースを大きく消耗していると問題視されています。

数としては、毎年、最大600万人の患者が予約をキャンセルしており、そのコストは7億ポンドに上ると推定されています。

※NHSとはイギリスの国民保健サービスです。

 

前回のブログでイギリスのGP(家庭医)について、触れましたが、そのGP683人を対象としたある調査では、84%がこうしたキャンセルを大きな問題として認識しているようです

(過去ブログ:腰痛の8割は原因不明であるといった謳い文句には注意が必要?)

 

医療に限らずですが、予約制のお店などを経営している人にとってもキャンセル率を減らすというのは非常に重要になってきます。

 

 

2.意外に逆効果となってしまう可能性のある対策。

 

そこで質問ですが、

 

もしあなたならキャンセル率を減らすのにどういった方法をとるでしょうか。

 

 

というのも、一般的に考えられるキャンセル対策の中には、実は逆効果を生む可能性があるといったことが指摘されているものがあります。

 

 

例えば

 

  • 予約時間に遅れると追加料金を徴収する。(ペナルティ)
  • 待合の壁などに予約時間に来なかった人数をポスターとして張り出す。

 

といった対策などは逆効果になる可能性が高いことが示唆されています。

 

追加料金を払ってもらうペナルティに関しては少し有名な調査があります。

 

保育園で保護者が子供を迎えに来るのが遅く、保育士が閉園時間まで残らざるを得ないといった問題がありました。

そこで、保育園はこうした問題を解決する方法として、遅刻した保護者に罰金を科すことにしました。

 

その結果はというと、、、

反対に遅刻する保護者の数は大幅に増加したといったものでした。

 

遅刻する保護者を減らすためにとったはずの対策が結果として、逆効果になっていたのです。

 

しかも、その後に罰金をなくしても、増えてしまった遅刻率は減らなかったといったものです。

 

(参照:Gneezy U, Rustichini A A fine is a price. Journal of Legal Studies 1999)

 

逆効果になったどころか、その効果は対策をなくしても元には戻らなかったという何とも悲しい結果だったのです。

 

なんでそうなったの?

 

と当然疑問に感じるところですが、こうした類の現象の理由としては、ペナルティ(罰金)を課したことにより、利用者の認識の変化をもたらしたといった説明がされることがあります。

 

お金を追加で払えば、遅れても良いといったような認識の変化が起こった可能性が示唆されています。

 

 

またもう一つの待合の壁などに予約時間に来なかった人数をポスターとして張り出すという対策に対しても、実は逆効果となる可能性が指摘されています。

 

望ましくない行動の頻度に注意を向けることは、その行動を正常化する効果があり、その結果、その頻度を反対に増加することがあるようです。

 

人の心理というか行動とはわからないものですね^^;

 

 

このように一見正しいように感じる対策も蓋をあけてみると、実は逆効果であるといった可能性が高いのです。

 

そのため、こういった対策は印象で語るのではなく、それに対して検証が必要となってきます。

 

 

3.クリニックや病院の予約のキャンセル減少に繋がった対策とは?

 

最初の話に戻します。

それでは、実際にキャンセル率を減らした対策とはどういったものだったのでしょうか。

 

それが以下の2つです。

 

  • 予約カードに予約日、時間を記入するのを患者自身にやってもらう。
  • 予約時間に来なかった人数ではなく、実際に時間通りに来院した人数の方がはるかに多いことを伝える掲示に変更した。

 

 

予約カードに関しては、それまでは看護師が記入していたのを、患者自身に記入してもらうように変更した結果、患者のキャンセルや遅刻が18.0%減少したといった結果が報告されています。(P<0.05%)

 

 

またこれに加えて、掲示内容の変更(遅刻した人などの数ではなく、時間通りに来た人の数をアピール)などといった介入を組み合わせたところ、患者のキャンセルや遅刻が31.7%減少したといった結果が報告されています。

 

そして、この減少が介入の直接的な結果であることかどうかを確かめるために、1ヶ月の間こうした介入を一旦停止したところ、また患者のキャンセルや遅刻が増加したようです。

 

そして、翌月にまた同じような介入を行ったところ、29.6%の減少が確認されたといったものでした。(いずれもP < 0.05%)

(参照:Steve J Martin et al:Commitments, norms and custard creams – a social influence approach to reducing did not attends (DNAs).J R Soc Med. 2012)

 

Figure 2
Reduction in DNAs following interventions

(引用:Steve J Martin et al:Commitments, norms and custard creams – a social influence approach to reducing did not attends (DNAs).J R Soc Med. 2012)

 

私の現在の職場も過去の職場も、予約カードの記載は私含めスタッフが行っていました。

 

現在・過去も私が経験した職場では、とりわけそれほどキャンセル率が多くなかったのですが、もし今後キャンセルが多いといった状況に陥った際には、一度試してみたいなと感じた内容の調査でした。

 

人の行動は時折、予想とは全然違う場合もありますが、反対に今日ご紹介したようなちょっとしたことだけでも意外に変わると思うと面白いものですね。

 

私個人の印象としては、経済学とはカバー範囲が非常に広い学問ですが、こういったことを知れるのも経済学の面白さの1つだなと感じています。

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