股関節痛の謎解き!痛みの背後に潜むものとは?

今日は少し専門的にはなりますが、“股関節の痛み”についての一例をご紹介します。

股関節の痛みは鼠径部痛と言われることもありますが、実はこの股関節痛の原因はというと多岐にわたり、複雑さを極めている分野の1つでもあります。

例えばですが、股関節周辺の画像診断などで同じような「異常所見」を認めたとしても、不思議なことに痛みのある人と痛みのない人がいるといったことが高頻度で確認されています。

また鼠径部痛(股関節痛)と一言に言っても、医師によってその専門用語を使い分けていたり、同じ用語でも解釈が複数あることなども影響し、そうした要因がこの分野をより複雑にしているといった指摘がなされています。

こうした問題を解決するために、有名なもので2015年に14か国、24名の国際的な専門家が参加し、アスリートの鼠径部痛に関しての現在のエビデンスの統合をするために開催された「スポーツ選手の鼠径部痛の用語と定義に関するドーハ合意会議」というものがありました。

(参照:AdamWeir et al. Doha agreement meeting on terminology and definitions in groin pain in athletes.BrJ Sports Med. 2015 Jun.)

そのドーハ会議において股関節痛の治療に関しては、徹底した病歴聴取と身体検査が不可欠であり、痛みのある構造を特定するために触診が重要であるといった趣旨が言及されています。

 

実はこの

  • 病歴に合わせた身体検査
  • 痛みのある構造(機能解剖)に沿った触診

といったものは職業柄、リハビリ職の専門性を活かせる分野でもあります。

 

股関節の治療において画像所見も非常に重要ですが、冒頭でも書いたように股関節の痛みはそれだけではわからないことが多いのも事実です。

そのため股関節の痛みというのは私達リハビリ職の視点も役に立ってくる分野の1つでもあると思うので、軽く書いていきたいと思います。

 

1.股関節痛の原因となるもので知っておきたいこととは?

 

まず股関節痛について触れる際に、知っておきたい概念を1つご紹介します。

それは2003 年に Ganzらにより報告された

 

大腿骨寛骨臼インピンジメント
(FAI:Femoroacetabular impingement)

 

といった病態です。

 

これはどういうものかというと、太ももの骨である大腿骨、もしくは骨盤側の股関節の関節部分である寛骨臼の骨形態異常により、股関節を動かす際にそこで衝突を繰り返してしまうことで股関節唇へのストレスが過剰にかかり、痛みを引き起こしてしまうといったものです。

(FAIと股関節唇損傷とはどんな病気?より引用)

 

そしてこのFAI は

  • 大腿骨側に原因があるものを cam type
  • 寛骨臼側(関節の受け皿側)に原因があるものをpincer type
  • 両者が混合するものをmixed type 

に分類されます。

 

FAIに関しては浅草病院整形外科人工関節センター長の望月義人先生のこちらの記事がわかりやすいのでよければご参照ください↓

FAIと股関節唇損傷とはどんな病気?

そして今日はこの中のcam typeについて少し触れていきます。

 

2.cam typeの何が問題なの?

 

先ほどご紹介した通り、cam typeとは太ももの骨である大腿骨側に原因のある骨形態異常を指します。

 

ではこのcam typeの変形は何が問題なのでしょうか。

 

もちろん前述したように、股関節を動かす際に大腿骨側にある骨形態異常部分が衝突することで痛みを引き起こすといった問題があります。

しかし、このcam typeに関してはそれ以外にも、その人の運動器の予後にも影響してくるといった問題があります。

 

具体的に言うと

変形性股関節症のない55歳以上の男女4,438人を対象に平均9.2年の追跡調査を行った研究によると

cam typeの変形がある人はない人と比べて変形性股関節症になるリスクが2倍であることが報告されています。

 

(※興味深いことに、もう一方のpincer typeに関してはリスクの増加因子ではないことが報告されています。)

また更にこれらcam typeの人の変形性股関節症のリスクの上昇は比較的若い人に認められたため、同論文でcam typeの早期発見が重要であるといったことが指摘されています。

(参照:Fatemeh Saberi Hosnijehet al.CamDeformity and Acetabular Dysplasia as Risk Factors for Hip Osteoarthritis. Arthritis Rheumatol. 2017 Jan.)

 

3.cam typeはどういう人に認められやすいの?

 

cam typeの骨形態異常が変形性股関節症のリスク増加因子であることはわかりましたが、ではこのcam typeの形態異常はどういう人に認められやすいのでしょうか。

 

結論を先に言うと、幾つかの論文を参考にすると

スポーツ選手に多い

ことがわかっています。

 

その中でも、特に強い衝撃のかかるスポーツでcam typeの変形が起こりやすいことがわかっています。

こうしたスポーツを行っている人はそうでない人に比べて、1.9~8.0倍もcam typeの変形を発症しやすいことが報告されています。

(参照:JeffreyJ Nepple et al. What Is the Association Between Sports Participation and the Development of Proximal Femoral Cam Deformity? A Systematic Review and Meta-analysis. Am J Sports Med. 2015 Nov.)

ちなみにですが、強い衝撃のかかるスポーツとして同論文ではサッカー、バスケ、ホッケーなどが挙げられています。

特にサッカー選手に関してはこの論文に限らず、cam typeが多いことが様々なところで報告されています。

そのため、飛んだり跳ねたり、瞬発力を求められる切り返しの多い競技を行う人はcam typeの変形が生じる可能性が高いため注意が必要だと考えられています。

 

4.cam typeの変形はいつ頃から発症するの?

 

そしてこのcam typeの変形ですが、12~19歳のサッカー選手とそうでない者を比較した研究によるとcam typeの変形はサッカーをしている者に多く認められ、12歳時点で既に確認されたと報告されています。

(α角>60°をcam typeの定義とした研究)

そのため、同論文の結論部分にもcam typeの変形は思春期に発症し,衝撃の大きいスポーツ練習の影響を受けている可能性が高いとしています。

(参照:Rintje Agricola et al. The development of Cam-type deformity in adolescent and young male soccer players. Am J Sports Med. 2012 May.)

 

5.まとめ

 

ひとまず、ここまでをまとめると、、、

  • 股関節痛の原因になるものの例としてFAIがある。
  • FAIにはcam type、pincer type、mixed typeがある。
  • 若い時期にcam typeの変形があると、将来的に変形性股関節症になるリスクが上がる。
  • cam typeはサッカー、バスケ、ホッケーなどの衝撃の強い競技のスポーツ選手で発症しやすい。
  • 早くて思春期頃に発症してくる。

といった状況であることがわかります。

 

勿論、痛みがあればスポーツを続けていく上で問題となってきますし、将来的に変形性股関節症になるリスクが上がるといった報告があるのならば、これに対して何かしらの対策を講じたいところですね。

ただ同時にこのcam typeの変形からくる股関節痛ですが、

 

実は同じcam typeの変形があっても痛みのある人もいれば痛みのない人も存在します。

(それ以外の股関節の問題に関しても同様に言えることでもありますが。)

 

そうなると、当然ながらここで”ある疑問”がでてきます。

 

それは

構造的な問題は似ているにも関わらず、そうした違い(痛みの有無)があるのは何故なのか。

といった疑問です。

 

次回はそうした“股関節痛のある人とない人の違い”について触れていきたいと思います。

 

〜雑記〜

 

私は最初は一般病院で働いていましたが、正直なところ股関節に関しては働き出した当初はあまり重要視していませんでした。そんな股関節に対して疑問を持ち、重要性について身をもって感じたのはその後転職し、整形外科のクリニックで働くようになってからでした。

きっかけは些細なことですが、腰痛について勉強をしていた際に腰痛のタイプによっては腰痛患者さんの中でも股関節の機能をしっかりと評価し、そのリハビリをしないといけないといったケースがあることを知りました。

そのため実際に普段のリハビリ時に、腰痛の原因を探るために股関節の機能評価を取り入れることにしたところ、、、

股関節に対して普段は何の不便さも痛みの訴えがない人であったとしても、股関節関連の整形外科テストや機能評価に想像以上にひっかかってしまう(陽性やパフォーマンス低下ありの)人が多いことがわかりました。

当時の私の印象としてはあまりにもそうした人が多くてびっくりしたことから、さらに腰痛に限らず少しでも怪しいと感じた人には、念のために訴えのある部位に限らず股関節の機能も確認することにしました。

すると程度の差はあれどこれもなかなかの数の機能障害を認めました^^;

(勿論、問題のない人も多くいました 。)

若い人でかつ、普段そんなに不調を訴えていない人であったとしても実際に評価をしてみると股関節機能に潜在的に問題のある人も多くて当時は個人的に衝撃を受けました。

股関節の整形外科テストなどは感度が高くて、特異度が低いといった性質のものが多いこともあるのですが、それを踏まえたとしても私としてはインパクトが強かったこともあり、そこから股関節の重要性や普段の身体機能アップのために見落としてはいけない部分であると強く感じたのを今でも覚えています。

そんな奥深い股関節の機能面などについてもまた書いていきたいと考えています^^

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