今日は、前回に引き続き腰ベルト(コルセット)に関連した記事です。
ただ、最初に断っておきたいことがあります。
このことは最初に強調しておきたいと思います。
良くも悪くも私の経験則がある程度強くでている内容となります。
腰ベルトに関しては、前回ご紹介したようにエビデンスによる見解が一致しないといった特徴があります。
そのため、腰ベルトを推奨すべきかどうかというのは、ケースバイケースで考える必要性の高い内容であると考えられます。
エビデンスは重視すべき事項ですが、そのエビデンスも決して万能ではありません。
誤解されやすいところですが、エビデンスは絶対的な正しさを示しているというものではありません。
言い換えると、エビデンスで示された効果が必ずしも全ての人にあてはまるわけではありません。
しかし、だからといって個別効果のみに目を奪われ、”3た論法”のような非科学的な思考法、ロジックの組み立てだけでリハビリ治療を患者に提供してしまうことは適切ではありません。
(〇〇を使(行)った→治った→〇〇が効いた。)
医療と関係のないところでトレーナー業もやっていますが、それと同時に、私も一医療従事者としても働いているため、このことについてはかなり意識をしています。
(ただリハビリ職は仕事の特質上、この三た論法に陥りやすいなといった印象も持っていますし、実際にそうしたリハビリ職の人を見かける時もあります。というよりは、リハビリ職に限らず、民間・代替医療も含む、いわゆる”セラピスト”と分類できるような治療家は普段からかなり気を付けないとこれに陥りやすいと思っています。)
あくまでも、エビデンスベースで全体を把握した上で、エビデンスだけでは解決しえない部分の個別性も考慮し、柔軟に対応していくことが大切になってきます。
今日はそうした個別性の部分に焦点をあて、私の今までの経験則も交えたお話をさせていただきます。
あくまで私の一意見にすぎないことを念頭に、参考程度に読んでいただければ幸いです^^
目次
1.腰ベルトが有効となる腰痛とは。
そうした内容であることの了承を得たうえで、結論を先に言うと、
このことについて順を追って説明していきたいと思います。
まず股関節の動きと腰の動きは密接な関係があります。
そしてそれと関連したもので
hip-spine syndrome(ヒップスパインシンドローム)という概念があります。
(参照:C M Offierski et al:Hip-spine syndrome .Spine .1983)
股関節は英語でhip jointと呼ばれ、脊柱はspineと呼ばれます。
実際に臨床的にも、腰痛を抱えている人は股関節が硬い人や、股関節を使った運動が非常に苦手であるといった人が多く見受けられます。
2.股関節と腰椎の関係とは。
ここで股関節と腰椎の動きの関係性が重要になります。
先ほど、股関節と腰椎は密接に関係していると言いましたが、実際に以下のように、股関節と腰椎の可動域には有意な負の相関が認められています。
↓
(引用:Hip-Spine Syndrome(第10報)~変形性股関節症患者における股関節と腰椎の可動域の関係~.整形外科と災害外科56:(4)626~629,2007)
負の相関なので、股関節の動きが大きい人は腰椎の動きが小さく、反対に股関節の動きが小さい人は腰椎の動きが大きい傾向があるということになります。
つまり、股関節が硬くて動きの悪い人は、代わりに腰椎が大きく動いている可能性があることがわかります。
例えば腰痛のタイプとして、腰を曲げた際に痛みが出る人もいれば、腰を反った際に痛みが出る人がいます。
(中には両方の動きどちらでも痛みが出る人もいます。)
腰を曲げた際に負担のかかりやすい身体の部位と反るときに負担のかかりやすい身体の部位は異なります。
しかし、今日はそういった負担のかかりやすい身体の部位に関してはひとまず置いときます。
代わりに、この曲げた時に腰痛が出やすい人と、反った時に腰痛が出やすい人を、股関節に焦点をあててご紹介します。
3.股関節周りの筋肉が硬くなると前屈・後屈動作に制限がでる。
股関節の柔軟性低下の原因の1つとして、股関節の周りにある筋肉が硬いといったものがあります。
股関節周囲の筋肉が伸びずに硬い人は当然ながら、股関節の可動域は小さくなります。
前屈動作が固い人は股関節の筋肉でいうと太ももの後ろ側の筋肉が硬い可能性があります。
反対に後ろに反る動き(後屈)が固い人は、股関節でいうと太ももの前の筋肉が硬い可能性があります。
具体的な筋肉としては以下のような筋肉が関わってきます。
↓
もしこれらの股関節の筋肉が固くなると、どうなってしまうでしょうか。
例えば、前屈する動きは、股関節を曲げる動きと腰椎を曲げる動きの組み合わせで行われます。
わかりやすくすると、
前屈の可動域=股関節を曲げる可動域+腰椎を曲げる可動域
と捉えることができます。
股関節が固くて、股関節を曲げる可動域が少なくなったとします。
そうした状態になった際にもし、同じだけの前屈動作の可動域を確保するにはどうしたら良いでしょうか。
それは股関節が曲がらなくなった角度の分だけ、腰椎の曲げる可動域を増やさなければいけなくなります。
股関節と腰の関係に限らずですが、人の身体の関節が固くなると、そこと隣接する関節はその固さを代償するように過剰に動く傾向にあります。
沢山動くということは、それだけストレスがかかる機会も増えることになります。
4.腰痛のある人とない人では、動きのパターンが違う?
また、とある研究で実際に腰痛のある人とない人とでは、前屈をする際に動きパターンが異なっていることがわかっています。
前屈動作を前期、中期、後期と分けて調べた際に、腰痛のある人は、ない人比べて前屈の初期に腰椎を動かす傾向があり、中期には腰椎と股関節の屈曲比が有意に低かったことが報告されています。
そして更に、先ほど前屈の固さに関わる股関節の筋肉としてハムストリングが関与していることを書きましたが、このハムストリングの柔軟性は、腰痛の既往がある人では前屈動作と強い相関が認められました。
(参照:M A Esola et al:Analysis of lumbar spine and hip motion during forward bending in subjects with and without a history of low back pain. Spine (Phila Pa 1976). 1996 Jan)
実はこうした運動パターンの修正は、私が普段腰痛のある人と関わる際にもよく取り入れています。
そして、実際に同じ前屈動作でもそのようなパターンを修正することで痛みなく行えるといった現象に多く出会います。
5.腰ベルトが有効となる人とその理由。
ここで今回の本題の話に戻ってくるのですが、実はこういったパターンの人には私の経験上、腰ベルト(コルセット)がある程度有効になると考えています。
上のような腰ベルトは見ての通り、腰椎部分をある程度固定するものとなります。
固定されることにより、前屈する際に腰椎の動きを制動してくれるため、否応なく股関節を使う場面が増えてきます。
↓
このように股関節が硬く、腰が主体となって動いてしまうことによって腰痛が出現している人にとっては腰ベルト(コルセット)の使用が一定程度有効になると私は考えています。
しかし、前回のブログでも書きましたが、あくまでも腰ベルトはサポートとして用いるものであって、根本治療になることは期待できないということです。
そのため、股関節が硬くて使えておらず、腰が主体で動いてしまう人はそういった身体の状態を修正していく必要があります。
今回のような例で言うと、運動の処方としては、先ほどの論文にもあったように、ハムストリングなどの筋肉をストレッチすることで柔軟性を獲得していくのと同時に、腰でなく股関節を使う動作練習などが腰痛の軽減に有効となる可能性が高いと考えられます。
実際に私はこうした人に対しては、そういった運動プログラムを提供していますし、それで腰痛が軽減したりなくなったりする人も多くいました。
細かく言うと他にも、胸椎の動きやその他股関節周囲の評価や全体的なパフォーマンスチェックも必要となる場面もありますが、そういった内容もまた取り上げていきたいと思います。
ひとまず今日のまとめとして、腰ベルトが一定程度有効となる腰痛のタイプとは、股関節の柔軟性が低く、腰が主体となって動いてしまうといった動作の癖を持っている人であるといった内容でした。
心当たりのある人はぜひ気を付けていただければと思います^^