前回は膝のねじれのチェック方法について取り上げました。
(前回のブログは→膝が痛い人は要チェック。痛みの原因になりやすい”膝のねじれ”チェック。)
今日はその続きにもなる内容で
- 膝がねじれると痛くなる理由は?
- 膝に痛みがある人の多くにあてはまる要素とは?
- レントゲン画像では問題がないと言われたのに、膝が痛い理由とは?
といったことについて書いていきます。
まず最初におさえておきたいことは、
痛みというのは気にしすぎるのも良くありませんが、当然ながら無視するのも良くありません。
一部例外はありますが、痛みがあるということは当然ながら多くの場合、そうしたサインを発している部位(組織)が存在しています。
そして人の身体には、傷つきやすい(痛みのサインを発しやすい)部位(組織)とうものがあります。
今日はその中でも膝の痛みを発しやすい部位(組織)について1つご紹介します。
1.膝の痛みの原因となりやすい膝蓋下脂肪帯。
膝の痛みの原因になりやすい組織とは。
早速ですが、その膝の痛みの原因になりやすい場所(組織)とは
です。
これは名前の通り、膝の関節にある脂肪組織であり、下の絵でいう黄色の組織になります。
(Chris Mallac.Fat facts for clinicians treating anterior knee pain.sports in jury bulletin.より画像引用。)
上の絵は右の膝を右側から見ているものになります。
絵の右側が前で、左側が後ろといった位置関係になります。
見ての通り、絵の黄色部分である膝蓋下脂肪帯(infrapatella fat pad)は膝の関節部分に存在します。
ちなみにこの膝蓋下脂肪隊は実際の色も黄色い組織と言われています。
私が学生の時に解剖学の実習授業で死体解剖を見にいったのですが、その時は膝蓋下脂肪帯ではありませんでしたが、実際に解剖された人の身体についていた脂肪は確かに黄色い組織として身体中にあったのを覚えています。
膝の関節部分の脂肪は皆にある。
そんな膝にある脂肪組織ですが
普段、膝のリハビリをしている際にこの脂肪組織について説明すると患者さんからよくされる質問があります。
それは脂肪というネーミングから
といった質問や
といった質問です。
安心(?)してください^^
私の体型はやせ型ですが、当然ながら私にもあります。(むしろこの脂肪がないと非常に困ります^^;)
この膝にある脂肪は超音波検査(エコー)で実際にみることもできます。
膝蓋下脂肪帯はレントゲンではうつらない。
ただ、注意点としてはレントゲン画像ではこの膝の脂肪組織の状態はわかりません。
というのも先ほどレントゲンにはうつらないと言いましたが、そうした特徴上、レントゲン画像で変形などがなく全く問題のない膝に見えたとしても実はこの膝の脂肪の状態が悪い、、、言い換えるとこの脂肪が痛みの原因になっているのに見逃されてしまうといったことが起こりえます。
そのため
といったケースの中でも意外に多く見られるのが、この膝蓋下脂肪帯に問題を抱えているケースになります。
それ以外に、たとえ変形があったとしても実は膝の痛みはその変形のせいではなくてこの膝の脂肪が原因になっているといったケースもあります。
膝の変形と痛みの関係についてはまた別記事で詳細をご紹介しますが、医療の世界の常識として膝の変形の程度と膝の痛みの程度というのは実は必ずしも一致しないものです。
(勿論、膝の変形が痛みの原因となっていると考えられるケースもあります。)
膝蓋下脂肪帯は痛みを感じやすい組織である。
そしてこの膝蓋下脂肪帯がなぜそんなに重要なのかというと、実はこの脂肪組織は豊富な血液が供給されており、侵害受容器が密に支配しているといった特徴をもっています。
どういうことかというと、
侵害受容器とは痛みを知らせるセンサーとしての役割を持っています。
そうしたセンサーが多いということは、言い換えると非常に痛みを感じやすい組織であることを意味します。
膝蓋下脂肪帯は普段は膝関節の圧力の調整、いわゆる関節部分のクッションのような役割を担っています。
そのため本来は柔らかく、動きのある組織であり、実際に膝を曲げ伸ばしした際には膝蓋下脂肪帯は形を変え、移動したりといった柔軟な動きが確認されます。
2.膝蓋下脂肪帯に問題がある人の特徴。
膝蓋下脂肪帯が原因で起こる膝の痛みの特徴とは。
しかし、この脂肪組織が損傷したり、何らかの原因でここにストレスがかかるようになると以下のような症状を呈します。
- 焼けるような痛みと表現される膝前部痛。
- 痛みの場所は膝蓋骨の下方で腱の両側。
- 触診により、膝蓋骨の下に圧痛と腫大を伴う腫瘤がある。
- 受動的または能動的に膝の伸ばす動作を強制されたときの痛み。
- 長時間、膝を曲げていると痛みがでる。
- 階段の上がり降りに伴う膝前面の痛み。
(参照:Chris Mallac.Fat facts for clinicians treating anterior knee pain.sports in jury bulletin.)
いかがでしょうか。
上記に書いた以外にも単純に歩いている時の膝の前の痛みなどもあります。
膝蓋下脂肪帯が損傷しやすい状況とは。
この膝蓋下脂肪帯の損傷ですがどういうときに起こりやすいかというと以下のような条件であることがわかっています。
- 直接ぶつける。
- 反復的に膝にねじれるストレスがかかる(微小損傷)。
- 前十字靭帯損傷や膝蓋骨脱臼を引き起こすような衝撃は通常膝蓋下脂肪帯にも影響を与える。
(参照:Chris Mallac.Fat facts for clinicians treating anterior knee pain.sports in jury bulletin.)
ぶつけたりといった外傷で傷つくといったことは想像に難くないと思いますが、ポイントは2番目の項目になります。
反復的なねじれるストレス、、、これが膝蓋下脂肪帯を損傷につながるとしていますが、これはまさに前回ご紹介した膝のねじれに関与する内容になります。
膝がねじれていると当然ながら、普通に動いていてもねじれるストレスがかかり続けます。
そしてそうしたねじれストレスは膝蓋下脂肪帯を傷つける可能性が非常に高いのです。
膝蓋下脂肪帯による痛みのまとめ。
ここで少しまとめると、
- 膝蓋下脂肪帯は侵害受容器(痛みを感知するセンサー)が非常に多い。
- 侵害受容器が多いということは痛みを感じやすい組織である。
- 膝蓋下脂肪帯はねじれるストレスの反復により損傷しやすい。
- 膝がねじれていると普通に過ごしていても、ねじれるストレスが膝にかかりやすい。
- 【結論】膝がねじれている人は膝蓋下脂肪帯が損傷しやすく、痛みがでやすい。
- ※補足:しかし、膝蓋下脂肪帯はレントゲン画像では確認できないため見逃されてしまうこともある。
となります。
こうした特徴上、今回ご紹介した膝蓋下脂肪帯というのは私のようなリハビリ職が膝の痛みを抱えた患者さんと対面した際にはかなり重視して評価する組織となります。
3.その膝の痛みの原因は本当に膝蓋下脂肪帯によるもの?
痛みの原因が膝蓋下脂肪帯であるかどうかを確かめる方法とは。
最後にご紹介したい内容として、今ある膝の痛みが膝蓋下脂肪帯によるものかどうかを鑑別するための方法についてご紹介します。
手順としては以下になります。
- 患者を仰向けにする。
- 膝と股関節を90度に曲げた状態にする。
- 膝蓋腱の横を押し、そのまま膝を伸ばしてもらう。
- これで痛みが出るようであれば「Hoffa sign」陽性と判断される。
(参照:Chris Mallac.Fat facts for clinicians treating anterior knee pain.sports in jury bulletin.)
何故、このテストで膝蓋下脂肪帯に問題があると判断できるのかについては以下のようになります。
Hoffa’s testが陽性だと何で膝蓋下脂肪帯に問題があるといえるの?
先ほど、膝蓋下脂肪帯は膝を曲げ伸ばしした際には形を変え、移動したりといった柔軟な動きが確認されると書きました。
具体的な動きとしては、膝蓋下脂肪帯は膝を曲げている時には膝の奥に押し込まれています。
膝蓋下脂肪帯が膝の奥に入ることで圧力が高まり、膝蓋骨を安定させるのに役立っていると言われています。
そして反対に膝を伸ばした際には、膝蓋下脂肪帯は膝の前方に移動するといった動きをすることがわかっています。
これは言い換えると、膝蓋下脂肪帯は膝を曲げている際は奥に入っており、膝を伸ばした際には表面に移動してきているということになります。
こうした膝関節の動きに伴って膝蓋下脂肪帯が移動するといった特徴を利用したのがHoffa’s testになります。
ロジックとしては以下の通りです。
- 膝を曲げている時には、膝蓋下脂肪帯は中に入っているため表層からでは触れられない(刺激を与えれない)。
- 膝を伸ばしている時には膝蓋下脂肪帯は表層にきているため触れる(刺激を与える)ことができる。
- 同じ場所なのに、膝を曲げている時は押しても痛みがないのに、伸ばしてくるにつれて痛みがでてくるということは、、、
痛みを感じているのは膝を伸ばした時に表層にでてくる組織である。 - 【結論】膝蓋下脂肪帯が痛みを発している(痛んでいる)。
今回ご紹介したのはほんの1例にすぎませんが、私たちリハビリ職は痛みを抱えた人を前にした際には、1つの方法としてこうしたテストを用いて痛みの原因を確かめることがあります。
勿論、膝痛がある人でもこうしたテストが陰性となるケースもあります。
そうした際はまた別のテストやその他の手法を用いて痛みの原因を探っていきます。
今回ご紹介した内容は本来現場で働いている同業種の専門職向けの内容かもしれませんが、こうした内容も今後一般向けに少しずつ取り上げていきたいと思います^^
3.まとめ
- 痛みの原因となりやすい代表例として膝蓋下脂肪帯がある。
- 膝蓋下脂肪帯は血液供給や侵害受容器が豊富であり、痛みを感じやすいといった特徴を持っている。
- 膝蓋下脂肪帯は直接ぶつけるといった以外に、膝がねじれていると普通に過ごしていてもストレスがかかりやすい。
- 膝蓋下脂肪帯はレントゲン画像ではわからないため見過ごされる可能性がある。
- 長時間曲げていると痛い、階段の上がり降りが痛い、膝のお皿(膝蓋骨)の下が痛い人は膝蓋下脂肪帯が痛みの原因である可能性がある。
- その痛みが膝蓋下脂肪帯によるものかを確認する方法として Hoffa’s testがある。