皆さんは変形性膝関節症という言葉は聞いたことがあるでしょうか?
変形性膝関節症とはその名前の通り、膝関節の変形が起こる病気のことをいいます。
膝の軟骨がすり減り、痛みがでたり、膝の曲げ伸ばしといった可動域の制限が生じます。
自分の膝が変形するなんて想像つかない方も多いかもしれませんが、実は他人事ではありません。
今日はそんな変形性膝関節症について最低限しっておきたい豆知識についてご紹介します。
内容としては
- 変形性膝関節症とは?
- TVなどでも宣伝されているサプリメントは実はあまり意味がない?
- 変形性膝関節症に対して推奨されていることは?
といった感じになります。
医療の世界では当たり前でも、一般的には「え!?」っと感じる内容もあるかもしれませんが軽くご紹介したいと思います。
1.変形性膝関節症とは?
冒頭でも書いたように変形性膝関節症は関節炎の中で最も一般的なものであり、この予防に関しては急務であるとされています。
変形性膝関節症の数は?
変形性膝関節症の発症年齢は50代を過ぎたところから急に増加し、
国内のその患者(40 歳以上)の推定数は2,530 万人(男性 860 万人,女性 1670 万人)と言われています。
そして変形性膝関節症 の有症状患者数は約 800 万人と推定されています。
(参照:変形性膝関節症 理学療法診療ガイドライン)
ピンときにくい数字かもしれませんが、個人的にはこの数はなかなかなものだと思います。
40歳以上の人口は約7,600万人程度のようなので、そうなると3人に1人は発症していることになります。
(有症状は9~10人1人程度)
(参照:40代以上の人口急増.日本経済新聞)
実は怖い変形性膝関節症。
そしてこの変形性膝関節症の何が問題かというと、生活の質を大きく低下させることがわかっています。
膝に痛みや動きの制限をもたらすので当然と言えば当然ではあるのですが、、、
例えば高齢者が要支援になる原因の 1 位,要介護になる原因の4位が関節疾患と言われていますが、その関節疾患の中で最もポピュラーなものが変形性膝関節症です。
そのため、将来的に自分のことを自分でやる、人の手を借りること(介護)なく生活を送るためには意識しておきたい要素の1つであると言えます。
2.サプリメントの効果は?
この仕事をしていたらよく聞かれることがありますし、もしかするとぱっと頭に思い浮かんだ人もいるかもしれません。
よくTVのCMでも紹介されているので、なじみあるかもしれませんが
- グルコサミン
- コンドロイチン
といった言葉を聞いたことはないでしょうか。
グルコサミンもコンドロイチンも関節の衝撃を吸収する役割を担っている軟骨の構成要素なのですが、こうしたサプリメントが宣伝されているのを見たことはないでしょうか。
と思うかもしれませんが、、、
少し言いにくいことではありますが
宣伝されているわりには効果が期待できないサプリメント。
米国国立衛生研究所(NIH)に変形性膝関節症に対してのサプリメントについて知っておくべきことを6つ挙げているのですが、そのうちの1つにこのグルコサミンとコンドロイチンのことについても取り上げられています。
その内容はというと、
多くの研究では、膝関節や股関節の変形性関節症に伴う症状や関節の損傷に対するグルコサミンやコンドロイチンの効果はほとんどないことを明らかにした。
(参照:6 Things You Should Know About Dietary Supplements for Osteoarthritis)
といったものです。
また同じNIHのHP内でグルコサミンとコンドロイチンについて言及してる別ページを参照すると以下のような内容が記載されています。
専門家は、グルコサミンとコンドロイチンが変形性膝関節症や変形性股関節症に有用である可能性を否定している。
米国リウマチ学会( American College of Rheumatology:ACR)は、変形性膝関節症または変形性股関節症の人に対するグルコサミンとコンドロイチンの使用を推奨していない。
しかしその推奨は強いものではなく、ACRは議論の余地があることを認めています。
なので、現代の医療の世界でのグローバルスタンダードとしてはグルコサミンやコンドロイチンの有用性はあまりないと考えられています。
ただ、擁護するわけではありませんが個人的に補足すると、完全に否定されているわけでもないことについては注意が必要です。
有用性は期待できないのですが、完全に否定されるまでではないので、私個人としてはグルコサミンやコンドロイチンといったサプリメント自体を全否定するつもりはありません。
ただこれらの情報をもとにすると、こうしたサプリメントについては使用するにしても、効果をあまり期待しすぎず「効いたらラッキー」程度の気持ちで使用するくらいがベターな向き合い方かと思います。
今ご紹介した内容やその他サプリメントについても知りたい方は、参照部分をクリックするとNIHのホームページ内の該当ページへ飛ぶのでご興味ある方はぜひご参照ください。
3.変形性膝関節症に対して推奨されていることは?
変形性関節症の国際治療ガイドラインとは?
変形性関節症唯一の国際学会である OARSI が策定しているこのガイドラインは,定期的にエビデンスを加え更新されており、変形性膝関節症や変形性股関節症 の非手術的治療を中心とした内容となっており、世界各国でもこのガイドラインがベースにされていると言われています。
変形性膝関節症に関して正しい情報を得たいなら?
日本整形外科学会による変形性膝関節症のガイドラインもこのOARSIのガイドラインを和訳し、かつ日本人用に適用したものとなっております。
そのため変形性膝関節症に関して正しい情報を得るにはこれを参照するのが一番妥当であると考えられます。
ちなみに先ほどご紹介したコンドロイチンやグルコサミンのこのガイドラインによる推奨度はというと、
I(委員会の設定した基準を満たすエビデンスがない。あるいは複数のエビデンスがあるが結論が一様ではない)
と結論付けています。
ガイドラインの推奨度とは?
ガイドラインの推奨度に関しては以下のようになっています。
- grade A:行うように強く推奨する。
- grade B:行うよう推奨する。
- grade C:行うことを考慮してよい。
- grade D:推奨しない。
- grade I:委員会の設定した基準を満たすエビデンスがない。あるいは複数のエビデンスがあるが結論が一様でない。
変形性膝関節症で推奨されていることとは?
それでは実際に変形性膝関節症に関してはどういったことが推奨されているのでしょうか。
薬物療法については私の専門外なので特別、詳細を取り上げることはしませんが代表的なものを1つあげると、症候性の変形性膝関節症患者に非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)を最小有効用量での使用が推奨されています。
しかし、同時に長期投与は可能な限り回避するようにも書かれているといった現状です。(grade A)
では、次に非薬物療法で推奨度の1番高いものにはどういったものがあるかをご紹介すると以下のようになります。
↓非薬物療法の推奨度 grade Aのもの。
- 治療の目的と生活様式の変更、運動療法、生活動作の適正化、減量および損傷した関節への負担を軽減する方法に関する情報を提供し、教育を行う。
- 最初は医療従事者により提供される受動的な治療ではなく、自己管理と患者主体の治療に重点をおく。
- 定期的な有酸素運動、筋力強化訓練および関節可動域訓練を実施し、かつこれらの継続。
- 体重が標準を超えている人は減量し、体重をより低く維持する。
- 歩行補助具は疼痛を低減する。患者には対側の手で杖・松葉杖を最適に使用できるよう指示を与える。両側性の疾患を有する患者にはフレームまたは車輪つき歩行器が望ましい。
(参照:川口浩.変形性関節症治療の国内外のガイドライン.日関病誌.2016)
これらを見ての通り、ポイントとしては受動的な治療というよりは本人が主体的に管理に努めることが良いという点です。
少し厳しいようですが、先ほどのサプリメントのようにそれさえ飲んでいればOKといったものではありません^^;
非薬物療法の中でも特に重要だと考えられているのはやはり”運動”。
特に先ほど紹介したgrade Aの中の
定期的な有酸素運動、筋力強化訓練および関節可動域訓練を実施し、かつこれらの継続。
といった事項は非薬物療法の中では最も重要度が高いと言われており、明確な科学的根拠(エビデンス)が認められている項目となります。
筋力強化の内容や運動方法などは、私の職業柄また別途詳細を書いていきたいところですが、推奨されている運動の1例を挙げるとなるとプールでの歩行があります。
プールでの歩行はある程度膝の症状が強い人でも、膝への負担をあまりかけることなく、筋力強化を図ることができるといったメリットがあるため変形性膝関節症の方に勧められる運動の代表例となっています。
体重過多の変形性膝関節症患者には”減量”が強く推奨されている。
また、
これに関しても先ほどの運動と同様で明確な科学的根拠(エビデンス)を有しているものとなります。
具体的な減量の程度としては、5%以上の減量もしくは週 0.24%以上の減量で有意に改善するとされています。
(参照:変形性膝関節症の管理に関するOARSI勧告OARSIによるエビデンスに基づくエキスパートコンセンサスガイドライン(日本整形外学会変形性膝関節症診療ガイドライン策定委員会による適合化終了版)
ちなみに人によっては現在、体重過多であっても膝の変形や痛みといった症状がない方もいると思います。
しかし変形性膝関節症の予防という観点でいえば、そういう方も減量しておくことが良いと考えられています。
ある研究によると体重過多は変形性膝関節症の進行と関連しており、減量することは変形性膝関節症の進行を防ぐのに有効かもしれないといった報告がされています。
同研究では、正常(BMI25未満)、過体重(BMI25~30)、肥満(BMI30以上)に分類したところ、体重過多と肥満に分類された人の膝は進行のリスクが高かったと報告されています。
そのため、膝の変形に関していえば1つの目安としてBMIが25オーバーであれば少し気を付けるといった感じで捉えてみても良いかもしれません。
実は内科的な要素も変形性膝関節症と関連している?
体重が重たければ、関節へかかる負担が増えることは想像に難くないと思います。
しかし、少しマニアックな話ではありますがそうした物理的な問題だけでなく、実は内科的な要素も変形性膝関節症と関連しているかもしれないといった指摘もされています。
詳細は省きますが、高血圧、高コレステロール血症および血糖が肥満とは無関係に変形性膝関節症と関連していることが示唆されており、変形性膝関節症の病因には全身的および代謝的要素が重要であるといったことが記載されている論文などもあります。
そのため、運動器疾患といえどもその原因は多種多様であるため十把一絡げにはできず、同じ変形性膝関節症であっても人によってどういった要素が強く影響しているのかは十人十色と言えます。
(参照:.1995 Jun;22(6):1118-23.) .et sl.Association between metabolic factors and knee osteoarthritis in women: the Chingford Study.J Rheumatol
4.まとめ
いかがでしたか。
今回は変形性膝関節症の豆知識のご紹介でした。
内容としては
- グルコサミンやコンドロイチンといったサプリメントの効果はあまり期待しすぎない方が良い。
- 変形性膝関節症に関しては受動的な治療では不十分であり、本人の能動的な姿勢が重要となる。
- 非薬物療法で最も重要度が高いのは定期的な有酸素運動、筋力強化訓練および関節可動域訓練の実施及び継続である。
- 体重過多の人は減量が推奨されている。
- 変形性膝関節症は全身的および代謝的要素も関連している可能性が指摘されている。
といったものでした。
ただ中には膝の痛みがある人もしくは過去に痛みがあった人の中にも変形などは認めず、整形外科では問題ないと言われた人もいるかもしれません。
そういったケースに関してはまさに膝関節の機能的な評価とそれに対応する機能的な治療法が非常に有効となる場合が多くあります。
というのも画像診断などは1つの評価として非常に有用ではあり、不可欠なものではあります、、、が同時に実のところ、画像の変形の程度と痛みが必ずしも一致しないといったことはこの仕事をしていると嫌というほど出会うことがあります。
変形がひどいのにあまり痛みがない方もいれば、反対に変形はあまりないのにものすごく痛みの訴えが強い方といった風に、、、。
そういった少しマイナーな膝の疑問に関しても今後このブログ内で取り上げていきたいと思います^^