あなたは、ぎっくり腰を経験をしたことがあるでしょうか?
一口にぎっくり腰といっても症状には個人差があります。
人によっては、「なった瞬間は全く動けなかった」といったこともよく聞きます。
そんなぎっくり腰ですが、こんな疑問を持ったことはないでしょうか。
こういった疑問はよく聞かれます。
今日はそんな「いざ、ぎっくり腰になってしまったときはどうすれば良いのか?」といった疑問について、とあるエビデンスを基に解説します。
1.そもそも「ぎっくり腰」って何?
ぎっくり腰は病名ではない。
まず最初に抑えておきたいことですが、ぎっくり腰とは”急に起こる強い腰の痛み”を指す一般名であり、病名や診断名ではないということです。
そのため、ぎっくり腰の原因は人によって様々であり、それぞれ異なります。
ぎっくり腰の原因は?
日本整形外科学会のHPを参照すると、ぎっくり腰の原因については以下のような解説がされています。
痛みの原因はさまざまで、腰の中の動く部分(関節)や軟骨(椎間板)に許容以上の力がかかってけがしたような状態(捻挫、椎間板損傷)、腰を支える筋肉やすじ(腱、靱帯)などの柔らかい組織(軟部組織)の損傷などが多いと考えられます。しかし、下肢に痛みやしびれがあったり、力が入らないなどの症状があったりするときには椎間板ヘルニアや中年以上では腰部脊柱管狭窄症などの病気(疾患)の可能性もあります。さらに、がんが転移して弱くなった背骨の骨折(病的骨折)や、ばい菌による背骨や軟骨(椎間板)の化膿など重大な原因が潜んでいることも時にあります。
一般的に知られるぎっくり腰ですが、ここに記載されているように、場合によってはがんの転移からくるものや椎間板の化膿といった可能性もあるため、強い痛みや全然痛みがひかない場合には迷いなく医療機関の受診が推奨されます。
絶対見落としてはいけないレッドフラッグとは?
特に”腰痛のレッドフラッグ”と呼ばれるものに該当する場合は非常に危険です。
レッドフラッグとは、腰痛の中でも特に重篤な疾患(腫瘍、炎症、骨折)の合併が疑われるサインを示すもので、以下の項目が該当します。
↓
・発症年齢<20 歳または>55 歳
・時間や活動性に関係のない腰痛
・胸部痛
・癌,ステロイド治療,HIV感染の既往
・栄養不良
・体重減少
・広範囲に及ぶ神経症状
・構築性脊柱変形
・発熱
HIV:human immunodeficiency virus
これらレッドフラッグの確認後に神経症状を伴う腰痛か、神経症状を伴わない腰痛かを分類するのが一般的となります。
今回はこうした重篤な合併がないことを前提とした、突然きた腰の痛み……”急性腰痛”に関する話になります。
2.急性腰痛に対するリハビリ介入の治療効果。
まず今回参照するエビデンスですが、
Philadelphia Panel Evidence-Based Clinical Practice Guidelines on Selected Rehabilitation Interventions for Low Back Pain
といったタイトルの論文になります。
(参照元:John Albright et al:Philadelphia Panel Evidence-Based Clinical Practice Guidelines on Selected Rehabilitation Interventions for Low Back Pain.Physical Therapy 81,October 2001)
↑クリックで参照元論文のあるページへとびます。
この論文は、腰痛に対して9種類のリハビリテーション介入を行い、その効果をそれぞれ評価した内容についてまとめられています。
9種類のリハビリ介入の効果を検証。
9種類のリハビリテーション介入は以下の9つになります。
- 温熱療法
- マッサージ
- 運動療法
- 筋電図 (EMG) バイオフィードバック
- 牽引
- 超⾳波治療
- TENS(経皮的電気刺激療法)
- 電気刺激
- 複合介⼊
今回はこの論文をもとに、急性腰痛の対処法について解説していきます。
論文内での急性腰痛の定義。
まずこの論文内では、痛みがでて4週間以内のものを急性腰痛としています。
急性腰痛に対するリハビリ介入の治療効果は?
そして先に結論をいいますと、この急性腰痛に対して行われた9種類のリハビリ介入の中で明確に治療効果を認めたものは……
ありませんでした。
何とも残酷な話です……
が、少し補則をさせていただきます。
今回参照した論文によると研究の結果、治療効果を認められなかったものもあれば、単純にエビデンスの蓄積が足りずに結論を出せないといったものもありました。
治療効果のなさが示唆されたのと、情報不足で治療効果があるといった結論ができないといった二者は明確に違います。
それを加味した上ではありますが、少なくとも両者を合わせての結論として、急性腰痛に関しては9種類のリハビリ介入は治療効果が期待できないといったものです。
こう聞くと「急性腰痛には打つ手がないのか……」となりますね。
ただ、これにはまだ続きがあります。
急性腰痛の回復を早める方法とは?
急性腰痛に対して9種類のリハビリ介入の中では、有益となる治療効果は認められませんでした。
しかし、急性腰痛の回復にかかわる方法が全くなかったわけではありません。
同論文では、急性腰痛に対して唯一、回復に関わる方法があったことが紹介されています。
それが、「可能な範囲で腰痛前の活動を継続する」ということです。
3.通常の活動を継続することの大事さ。
ぎっくり腰になって何が困るかというと、現役世代の人にとって一番最初に頭によぎるのは「仕事どうしよう…….」ということかもしれません。
仮に私もぎっくり腰になった際は、そうなると思います。
そんなぎっくり腰後の仕事復帰までの早さを回復の指標としておこなれた研究があります。
論文紹介:安静 vs 活動性維持。
同論文内では急性腰痛の人たちを2つのグループに分けて、比較した研究があります。
その2つのグループとは、【急性腰痛後に強制的にベッドで安静にしてもらっていたグループ】と【痛みはあるものの可能な範囲で通常通りの活動を維持してもらったグループ】です。
勝者:活動性維持グループ。
それによると、安静にしていたグループと比較して活動量を維持していたグループは3週間後の時点で、病欠日数が49%減となり、日数としては3日程度早く復帰できたといった傾向を認めたのです。
またそれだけでなく、活動量を維持していた人たちのほうがそうでない人たちと比べて痛みは5%減、身体機能は10%高く改善を認めたといった報告がされています。
私の過去のブログでも過度な安静はよくないといった旨を書いたことがありますが、痛いながらも可能な範囲で活動量を維持してもらう方が回復が早いことは臨床的な実感としてもあります。
痛みをきっかけに動くのが怖くなったことから安静にしすぎていたり、痛みに対して気にしすぎている人は不思議と回復が遅いと感じる場面は多くあります。
そのため、私も現場ではなるべく無理ない範囲で動いてもらうように声をかけることが多くあります。
医師を含めた専門家集団のコンセンサス。
実際に今回ご紹介したこの論文内でも、「可能な範囲で腰痛前の活動を継続する」といった推奨事項に対して、医師を含む専門家の98%が同意するといった回答をしています。
急性腰痛時の安静についての目安。
安静期間の目安としては、一般的に急性腰痛に関しては72時間以上の安静は必要ないと言われています。
ただ、当然ながらこれらにも個人差を考慮する必要があります。
コクランレビューによると2日~7日間の安静に関しては差がなく、痛みや身体機能に影響は及ぼさないといった示唆もされています。
更に注意が必要なのは「安静が有効となる可能性のある急性期の椎間板ヘルニアとは区別する必要がある」といった補足がされている点です。
腰痛の原因や動き方によっては、活動性を維持することが良くない結果を招く場合があるのも事実なので、そこは注意が必要なのです。
急性腰痛時の対処法の結論。
これらを考慮すると、一般的に足にしびれがでているといった神経症状がなく、純粋に腰だけが痛いような症状に対しては、痛みが悪化しない程度に活動性を維持するのがベターであると言えます。
可能ならばなるべく早めに、それでも痛みが強い際にはどうしても安静期間が延びてしまうとは思いますが、1週間程度の安静であれば支障はない可能性が高いと考えられます。
そして仮に痛みが持続する場合や、悪化するなどといった症状を認めた際には、迷わず医療機関で確認してもらうことが良いと考えられます。
4.リハビリ専門職の役割。
今回、ご紹介した論文では急性腰痛に対して9種類のリハビリ介入に治療効果は見込めないといったことが書かれていますが、リハビリ専門職に対して推奨している内容としては以下のような記載があります。
リハビリ専門職に対しての推奨事項とは。
それは「リハビリ専門家は炎症と痛みの軽減、筋力や可動域の改善といった身体機能改善をはかるために、独自の判断で介入を行うことを推奨する」といったものです。
定量的に効果を認めたリハビリ介入はありませんが、それでも独自の判断でリハビリ専門職が介入することを推奨しているというのは興味深いところです。
言い換えると、非常に責任重大です。
いくら独自の判断での介入が推奨されているからといって、ここで闇雲な独自の治療理論を振りかざして根拠なき明後日の方向の介入を行うことはご法度だと私は思います。
定量的に効果の見込めるエビデンスはないが、専門家の判断が求められる…….というのは非常に難しいところですが、臨床現場では必ず直面します。
急性腰痛に対するストレスコントロールの重要性について。
ちなみに一例ではありますが、私はぎっくり腰になった直後の人に対しては、痛みがひどくならない範囲で活動性を維持してもらうようにお伝えする以外には、ポジショニングを行うことが多いです。
ぎっくり腰になった直後の人の中には、身体を横にして眠ることもできないといった人も時に見受けられます。
そんな人の中には、「ベッドに横になれないので、座った状態で机の上に伏せて寝ている」といった人もいました。
想像するだけでも辛いですよね。
睡眠不足は痛みの増悪や長期化のリスク因子にもなり得るので、そういった場合は早急に解決したい問題になります。
ただ、そういったひどい痛みの場合でも寝方を工夫することで痛みなく横になれるケースは多くあります。
その人の現在の腰の痛みの原因部分に、ストレスがかからないようにクッションを活用するといった方法です。
これはシンプルですが、非常に良いと感じています。
ぎっくり腰で痛めた後も、そこにストレスがかかり続けると当然ながら治癒に時間がかかってしまうことが予想されます。
そのため、少なくとも可能な範囲で同じ場所にストレスがかからないためのストレスコントロールはかなり重要であると感じています。
私の肌感覚ではありますが、地味ながらもちょっとしたストレスコントロールは急性腰痛に対しては有効である印象を持っています。
勿論それだけで痛みがすぐに完全にとれるということはありませんが、動けるくらいの痛みにまで和らいできたり、その日から夜眠れるようにはなったということは往々にしてあります。
そんな”身体にかかるストレスを取り除いてくれるポジショニング”についてもまたご紹介していきたいと思います。