膝の痛みを軽減するための効果的な運動療法。膝蓋大腿関節症編。

私のブログで膝の痛みについて、いくつかご紹介したことがあります。

 

過去ブログでは、膝の捻じれの有無や、膝の脂肪組織が膝の痛みとなりやすいことをご紹介しました。

※過去ブログは下記参照。
膝が痛い人は痛みの原因になりやすい”膝のねじれ”チェック。
膝の痛みの原因は?レントゲンだけではわからない膝痛の原因について。

 

 

今日も膝の痛みについてご紹介します。

 

その中でも、今日はタイトルに挙げたような

  • しゃがみ動作。
  • 階段の上がり降り。
  • 長時間の座り姿勢。
  • 膝立ち姿勢。

などの時にでやすい膝の痛みの原因と、それに対して推奨されている運動内容について1つご紹介していきます。

 

1.もう1つの膝関節の膝蓋大腿関節とは。

 

膝関節と聞くと、通常は太ももの骨(大腿骨)と脛の骨(脛骨)をイメージされる方が多いと思います。

 

しかし、膝関節はこれだけではありません。

 

この太ももの骨と脛の骨とで構成される関節は専門的には膝関節の中でも、脛骨大腿(FT)関節と呼ばれる関節になります。

 

以前にご紹介した、太ももの骨と脛の骨の捻じれのチェックとはまさにこの脛骨大腿(FT)関節の状態をチェックするものでした。

 

図で言うと、赤色の丸で囲んだ骨同士の関節となります。

 

しかし、先ほども書いた通り、専門的に膝関節とは何もこの関節だけを指しません。

 

実はそれ以外にも、膝のお皿の骨(膝蓋骨)と太ももの骨(大腿骨)で構成される膝蓋大腿(PF)関節と呼ばれるものがあります。

 

図で言うと、黄色の丸で囲んだ骨同士の関節がそれにあたります。

 

この黄色の丸で示した2つの骨で構成される膝関節(膝蓋大腿関節)の障害によって、膝の前の痛み、もしくはお皿の骨の後ろ側の痛みを呈する筋骨格障害を膝蓋大腿関節症(patellofemoral pain syndrome:PFPS)と言います。

 

2.膝蓋大腿関節の特徴とは。

 

この関節の特徴としては、比較的女性に多くみられる傾向にあるということです。

 

米国海軍兵学校(USNA)の参加者1,525名を対象に、PFPSの発症について最長2.5年間追跡調査を行ったある調査によると、女性は男性に比べて2.23倍PFPSを発症する確率が高かったと報告されています。

 

この膝蓋大腿関節は習慣的なランニングなど、活発な運動を行う人に多くでるとされており、そういった特徴から若年層にもみられる膝痛になります

 

言い換えると、そこまで活発的でなければ生じないこともあります。

 

現に、先ほどの米国海軍兵学校の入学時でのPFPS(膝蓋大腿関節症)の有病率は、男女間で有意な差はなかったと報告されています。

(参照:M Boling et al:Gender differences in the incidence and prevalence of patellofemoral pain syndrome. Scand J Med Sci Sports. 2010)

 

そのため、比較的活動量の多い人、更に言うと、そういった活発な女性の人は特に注意が必要な膝痛であるとも言えます。

 

変形性膝関節症などでも膝の筋力訓練は推奨されていますが、この膝蓋大腿関節の障害においても同様に膝の筋力訓練は有効であると考えられています。

 

ただし、それだけでなく、実は膝蓋大腿関節は膝以外の筋力訓練でも症状の改善が期待できることが示唆されています。

 

3.膝蓋大腿関節の障害に対しては股関節の訓練も有効である。

 

膝蓋大腿関節に障害がある199人を対象に、膝関節周囲の筋力を鍛えるグループと、股関節周囲の筋力を鍛えるグループに分け、6週間のトレーニング結果を比較した研究があります。

(199人の内訳と特徴:男性66人[31.2%]、女性133人[66.8%]、年齢=29.0±7.1歳、身長=170.4±9.4 cm、体重=67.6±13.5 kg)

 

その結果は、股関節周囲の筋力訓練を行ったグループの方が1週間早く、膝痛の軽減を認めたというものでした。(VASの得点低下。)

 

 

Figure 2. Mean visual analog scores measures for patients with patellofemoral pain each week during the 6-week hip- and core- and knee-focused rehabilitation protocols. a Different than baseline score.

(参考・引用文献:Reed Ferber et al:Strengthening of the hip and core versus knee muscles for the treatment of patellofemoral pain: a multicenter randomized controlled trial. J Athl Train. 2015)

 

4.姿勢安定化エクササイズも膝蓋大腿関節の障害に有効。

 

またそれ以外にも、膝蓋大腿関節に障害を有している人に対して、膝関節に対する運動療法のみのグループ膝関節への運動量+姿勢安定化を図った運動療法を組み合わせたグループの治療効果を比較した研究があります。

 

その結果、痛み柔軟性機能筋力持久力姿勢制御膝前部痛に対する評価スケール(Kujala patellofemoral pain scale)のパラメータ、全てにおいて、後者の膝関節の運動療法+姿勢安定化エクササイズを組み合わせたグループで有意な効果差を認めました。

 

つまり、膝蓋大腿関節に障害がある人に対しては、膝のみに対しての運動だけでなく、姿勢安定化エクササイズを導入した方がより高い治療効果を認めたといったものでした。

 

ちなみにその論文で行われた姿勢安定化エクササイズとは以下のようなものでした。

Fig. 2.Stabilization exercises. (a) Marching. (b) Bridge exercise. (c) Draw foot circles in the supine position. (d) Prone Cobra. (e) hip flexion sitting on the ball. (f) Stairs-up on Swiss ball sitting on the ball.

(参考・引用文献:Gül Deniz Yılmaz Yelvar et al:The effect of postural stabilization exercises on pain and function in females with patellofemoral pain syndrome. Acta Orthop Traumatol Turc. 2015)

 

これらのことから、膝蓋大腿関節障害による膝痛がある人に対しては、膝に焦点をあてたトレーニングだけでなく、股関節や体幹といった患部以外の部位のトレーニングも有効であると考えられ、推奨されています。

 

実はこうしたことは膝に限らず、普段現場で働いていると直感的にも感じる内容でもあります。

 

特に論文などを読まず、こういったことを知らない人でも多くのリハビリ職は経験し、感じていることだと思います。

 

”膝の問題なのだから、膝のみにアプローチをする”

 

こうした考えは、一見効率的なように思えるかもしれませんが、そうとも言えないのです。

 

勿論、局所的な介入が必要であり、まずはそこをしっかり評価した上で問題点などを見つける必要はあります。

 

しかし、それだけ(患部のみに焦点をあてた運動)では痛みなどの症状が改善されない人は多く存在します。

 

普段の経験知として実感していることが、こうしたエビデンスベースでもその有効性が認められていることは非常にありがたいものです。

 

私などは自分の経験知だけでは、今一つ自信を持てないので、こうした報告があると正直少し安心する部分があります(笑)

 

5.おさらい

 

今日の内容をまとめます。

 

膝関節とは太ももの骨(大腿骨)と脛の骨(脛骨)で構成される脛骨大腿関節が有名ですが、それだけではありません。

 

膝のお皿の骨(膝蓋骨)と太ももの骨(大腿骨)で構成される膝蓋大腿関節というものがあります。

 

そして膝蓋大腿関節由来の痛みとして特徴的なのが

  • しゃがみ動作。
  • 階段の上がり降り。
  • 長時間の座り姿勢。
  • 膝立ち姿勢。

といった症状などです。

 

更に、この病態として活発に動く人に起こりやすく、性差でいうと女性に起こりやすいといった特徴を持っています。

 

そして、こうした病態からくる膝痛に関しては、膝の運動だけでなく、股関節や体幹などの膝以外の運動も非常に重要になってくるといったお話のご紹介でした。

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