坐骨神経痛を悪化させない!梨状筋症候群のセルフケア方法について解説。

前々回は坐骨神経痛について、前回はその中の梨状筋症候群についてとりあげました。

 

坐骨神経痛を抱えている人の中には、梨状筋が硬くなっている人がいます。

そしてその硬さが坐骨神経を圧迫することで症状(脚のしびれ)を呈している場合があることをご紹介しました。

そういったタイプの坐骨神経痛は”梨状筋症候群”と呼ばれます。

 

梨状筋症候群の人に対して行われた研究で、梨状筋に対しての局所麻酔やストレッチなどが症状の改善に有効であるといった報告があることについてご紹介しました。

(参照
・Tugce O Misirlioglu et al:Piriformis syndrome: comparison of the effectiveness of local anesthetic and corticosteroid injections: a double-blinded, randomized controlled study.Pain Physician. 2015
・Momena Shahzad et al:Effects of ELDOA and post-facilitation stretching technique on pain and functional performance in patients with piriformis syndrome: A randomized controlled trial.J Back Musculoskelet Rehabil. 2020)

 

 

そのため、梨状筋症候群である人には

  • 硬くなっている梨状筋を柔らかくする。
  • 梨状筋へのストレスを軽減させる。

といった2つのアプローチが有効であるといったことまでご紹介しました。

 

今日は、この2つの実践部分に関して取り上げていきます。

解剖学を中心に少しマイナーなことまでご紹介します。

 

1.そもそも梨状筋ってどこにあるの?

 

とある筋肉を狙って、効率よく柔らかくするには、その筋肉の構造を理解する必要があります。

細かいことですが、同じような体操やセルフケア、施術をするにしても、機能解剖学の知識の有無で効果はだいぶ変わってきます。

 

梨状筋症候群の人に関しては、その名の通り、正確に梨状筋にアプローチする必要があります。

 

梨状筋は股関節の筋肉、場所的にはお尻あたりにあります。

 

しかし、お尻には梨状筋に限らず、それ以外の筋肉も沢山ついています。

このイラストは左部分が表部分(表層)の筋肉を表しています。

そして右部分はその表部分の筋肉をはがした時の状態を表しています。

 

お尻の筋肉の一番表部分には大殿筋といった筋肉が存在します。

そして、その大殿筋や大殿筋の下にある中殿筋をはがすと、イラストの右部分のように細かい筋肉がみえてきます。

 

梨状筋もこの奥に存在する筋肉の1つになります。

しかし見ての通り、大殿筋や中殿筋の奥には梨状筋以外にも様々な筋肉が存在します。

小殿筋、上双子筋、下双子筋、外閉鎖筋、内閉鎖筋、大腿方形筋などなど……。

 

通勤ラッシュ時の電車内のように、混み混みに密集しています。

そして、股関節のお尻部分の奥に存在している6つの混み混みの筋肉たちをまとめて“外旋六筋”と呼ぶこともあります。

 

梨状筋はこうしたお尻の奥で渋滞している筋肉たちの1つになります。

 

梨状筋は奥に存在している上に、周辺には色んな他の筋肉に囲まれている……

そういった特性上、梨状筋にピンポイントにアプローチするのは少し難しいことがイメージできるかと思います。

 

そのため梨状筋にアプローチすると、一口に言ってもやや”コツ”が必要になります。

勿論、「周りも気にせず、まとめて柔らかくマッサージしてしまえ!」といった力技でも構わないと言えば、構わないのかもしれません。(笑)

 

通勤ラッシュで言う、押し込み乗車や駆け込み乗車のような力技ですね。

「乗れてしまえば、手段など問わない!」みたいな。

 

ただこのブログでは、少しニッチなことも取り上げることをコンセプトとしています。

 

そのため極力、周りの筋肉たちに迷惑をかけず、なるべくピンポイントに梨状筋にアプローチするといった方法と知識をご紹介したいと思います。

 

 

2.ストレッチの基本原則とは?

 

まず特定の筋肉を伸ばしたいときの、基本中の基本原則について少しご紹介します。

 

私のようなリハビリ職はまず学校に入学すると、骨の名前や筋肉の名前、その作用などを覚えます。

 

例えば梨状筋であれば、

  • 梨状筋という名前。
  • 梨状筋のついている場所。
  • 梨状筋を支配している神経。
  • 梨状筋の働き。

といったことを覚えさせられます。

 

  • 梨状筋のついている場所→S1~S4前仙骨孔外側および大坐骨切痕の縁(坐骨)から大転子先端の内側面。
  • 支配している神経→仙骨神経叢(L5~S2)
  • 働き→股関節の外旋、外転、(骨盤後傾)

といった感じです。

 

こういった感じで数百とある筋肉について一通り覚えていきます。

 

 

そしてポイントは、ターゲットとなる筋肉にストレッチをかけたいのであれば、基本的にはその筋肉の作用と反対方向に動かせば良いのです。

 

「筋肉の作用と反対方向に動かすことで、その筋肉を狙ってストレッチできる。」

これが基本中の基本原則になります。

 

梨状筋の作用は股関節の外旋と外転です。(主に外旋)

外旋、外転といった動きは一言で表すなら、ガニ股になるような動きです。

その反対はと言えば、内股になるような動きですが…。

 

個人的にですが、梨状筋(梨状筋症候群)に関して言うと、いくつかの理由から、単純に教科書に書いてある梨状筋の作用と反対方向(内股方向)へ動かすことはオススメできません。

 

まず一つ目の理由としては、梨状筋が最もよく伸ばされる方向は、股関節を内にねじる肢位ではないことが報告されているからです。

 

「さっき、股関節の作用はガニ股のような動きであるといったじゃないか!」

「筋肉の作用と反対に動かすのがストレッチになるといったじゃないか!」

 

となると思いますが、順を追って説明します^^;

 

先ほどの話は重要にはなるのですが、あくまでも教科書レベルでの話です。

 

解剖学の教科書に書かれている筋肉の作用は、基本的に解剖学的肢位と呼ばれる姿勢での作用が記載されています。

 

“解剖学的肢位”とは下の絵のような感じに突っ立った状態を言います。

 

この体勢(解剖学的肢位)で梨状筋が働けば、股関節を外に開く(ねじる)ような作用となります。

 

しかし言い換えると、この体勢が異なると筋肉の作用も変わってくることなります。

多くの筋肉は体勢が異なっても、発揮する力の強さは変わっても、作用自体が大きく変わることはありません。

 

しかし、梨状筋に関しては少し特殊で、股関節の肢位によってその作用が大きく変わることが知られています。

実は梨状筋は股関節が曲がった状態だと、教科書に書かれている内容と”正反対”の動きをすることがわかっています。

 

こういったことから、リハビリをする場面でも梨状筋は少し注意が必要な筋肉となります。

 

3.梨状筋の最適なストレッチ方法とは?

 

これらを踏まえて、梨状筋を効率的に伸ばす方法をお伝えしたいと思います。

 

結論を先にいうと、梨状筋のストレッチはシミュレーション研究や超音波(エラストグラフィー機能)を使用した研究により、ある程度最適なストレッチ肢位がわかっています。

 

その梨状筋が最適に伸ばされる肢位というのが股関節屈曲、内転、外旋といった組み合わせとなります。

 

具体的な姿勢としては下のような感じになります。

このイラストでは右の股関節が屈曲、外旋、内転を組み合わせた肢位となり、右の梨状筋にストレッチをかけている状態となります。

それぞれの動きの力方向を記してみると、以下のようになります。

(青矢印:屈曲、緑矢印:外旋、赤矢印:内転)

 

この際に、右のお尻あたりに突っ張るような軽いストレッチ感があれば上手く伸ばせているサインです。

 

硬くなっている梨状筋を柔らかくするには、こうしたストレッチが有効となります。

また、上のイラストのような肢位で伸ばされるのが梨状筋となるので、その突っ張る部分を自分の手の平でマッサージしたり、テニスボールで気持ち良い程度にあてるといった方法も有効となります。

 

また、過去に私がご紹介したマッサージガンをそこに使用するというのもオススメです。
(過去ブログ:マッサージガンの効果ってどうなの?リハビリ専門職からみた使用上の注意点について。

 

ただ、ストレッチやマッサージでも共通して言えるのは、あくまで気持ち良い程度で行うことが重要です。

 

どんなに強くても、痛気持ち良い程度までです。

痛いほどまでやると、基本的に逆効果となりますのでご注意ください。

 

またそれ以外で補足しておきたい点としては、ストレッチをかけた際に腰痛や股関節の付け根の痛みが出る人はオススメできません。

 

ストレッチのやり方に問題がある(力を入れすぎていたり、角度が違う)か、身体の状態が良くない(このストレッチを取り入れるには状態が整っていない)可能性があります。

そのため工夫を施しても、どうしてもお尻の伸び感がなく、腰痛や股関節の付け根に痛みが出る場合はこのストレッチ方法は避けていただくか、専門家に一度チェックしていただく方が良いと言えます。

 

(参照
・Brett M Gulledge et al:Comparison of two stretching methods and optimization of stretching protocol for the piriformis muscle.Med Eng Phys. 2014
・嚴田光里 他:梨状筋の効果的なストレッチング肢位の検討.基礎理学療法学.24巻(2021)Supplement号)

 

4.梨状筋にストレスがかかる動作とは?

 

単純に教科書に書いてある梨状筋の作用と反対方向(内股方向)へ動かすことがオススメできない2つ目の理由についても触れておきたいと思います。

 

2つ目の理由に関しては、梨状筋症候群に対して有効なアプローチとしてあげた

  • 硬くなっている梨状筋を柔らかくする。
  • 梨状筋へのストレスを軽減させる。

の内の後者である”梨状筋へのストレスを減らす”ことに関係してきます。

 

梨状筋症候群の人にはある一定のパターンを持っている場合が多くみられます。

私が普段、臨床で見ていてもそうですし、症例報告でも多数報告されています。

 

それは、梨状筋症候群の人は股関節が内転・内旋位をとりやすいといったものです。

 

股関節の内転、内旋位とは一言でいうと”内股”の状態を指します。

 

つまり梨状筋症候群の人は普段立っている時や、階段の上がり降り時など、体重がかかる動作で内股となりやすい傾向にあります。

そしてこういった内股の状態に長くあることで症状が増悪するといった場合もあります。

 

そのため、梨状筋症候群の人のリハビリでは、内股での荷重といった動作を修正するといったことを行うことが多くあります。

(イラスト右がいわゆる内股の状態)

 

内股で体重をかけることは、梨状筋に対して大きな負荷がかかります。

 

いかに先ほどご紹介したストレッチやマッサージで梨状筋の状態を整えたとしても、普段の日常でかかり続ける梨状筋へのストレスを減らすことができなければ、いたちごっことなってしまいます。

 

そのため、梨状筋症候群の人で過剰な内股状態にある人は注意が必要です。

 

ただ厄介なのが、普段、内股で体重をかけているというのは意外と自分では気が付きにくいものです。

 

内股が強い人に対して、真ん中の状態で立ってもらったり、体重をかけてもらうようにすると多くの場合

「もの凄く足を外に開いている感じがする!」

「ガニ股になっている気がする!」

と言われます。

 

また、余談ですが梨状筋症候群の症例は多くに、仙腸関節障害椎間関節障害といった腰痛に関わる問題が合併しているといった報告もされています。

 

事実、私も普段の臨床の中で仙腸関節障害のある人に、過剰な内股での荷重を修正することで仙腸関節部の疼痛が軽減するといった現象を経験することが多くあります。

 

内股については、このように腰痛にも深く関連するため、また別の機会に少し掘り下げてご紹介したいと思います。

 

(参照
・Jason C Tonley et al:Treatment of an individual with piriformis syndrome focusing on hip muscle strengthening and movement reeducation: a case report.J Orthop Sports Phys Ther. 2010
・Pamela M Barton.Piriformis syndrome: a rational approach to management.Pain. 1991
・松本正知 他:梨状筋症候群に対する運動療法の試み.理 学 療 法学 第 30巻 第 5 号 307〜313 頁 .2003 年
・山﨑雅美 他:梨状筋症候群に対する運動療法の考え方とその成績.骨・関節理学療法 33)

 

5.まとめ

 

  • 梨状筋症候群には梨状筋のストレッチが有効である。
  • ストレッチの基本原則は伸ばしたい筋肉の作用と反対方向に動かす。
  • ただ梨状筋は股関節の肢位によって作用が反転するといった特徴がある。
  • 梨状筋を最適に伸ばす肢位は股関節の屈曲、内転、外旋の組み合わせである。(イラスト参照)
  • 内股での荷重は梨状筋にストレスがかかる。
  • 梨状筋のストレスを減らすには、過剰な内股を修正する必要がある。

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